相手からすると助言になるとは限らない
紫髪の女性と兵士たちに囲まれて、逃げ場を失う。
竜杖で空へ、という手段はあるが、邪魔されることは間違いないし、アンル殿下と金髪の男性は俺が竜杖に乗って空を飛べることを知らない――知っていれば言ってくると思うので知らないと判断して、その場合は掴んで空に行ったとしても慌てて手を放してしまい、そのまま落ちることだってあり得る。
それに、空に行ったとしても中途半端な高さでは紫髪の女性が魔法で撃ち落とそうとしてくるだろう。
なので、何か案はないかと金髪の男性に尋ねる。
「何かこの状況を打開する策は?」
「ありません。強引に抜けるしかありませんが協力していただけるので?」
「まあ、一応立場としては元周辺国側の協力者だからな。アンル殿下は戦えるのか?」
「……」
金髪の男性からの目付きが鋭くなる。
多分、俺がアンル殿下に対して敬うような態度ではないからだろうが、この状況でそんなことを気にする必要があるか?
「申し訳ございません。戦いの心得がない訳ではありませんが、さすがに無手では」
アンル殿下が申し訳なさそうに言う。
まあ、正直期待してはいない。
見た感じ、頭脳労働っぽいし、多分そっちで本領発揮しそうな気がする。
となると、やはりこの状況は俺と金髪の男性でどうにかするしかないようだ。
切り札は……まだ早い。
……いや、待てよ。せめて混乱でも起こせれば、逃げ出す機会が訪れるかもしれない。
金髪の男性に声をかける。
「とりあえず、この状況をどうにかできないか? お前も『暗黒騎士団』の一員だろ。同じように命令して兵士たちを退かせるか、せめて混乱させろ」
「それは無理です。知っているかどうかわかりませんので言いますが、同じ『暗黒騎士団』でも、その中には階級が存在しています。わかりやすく言えば、私より彼女――クフォラの方が上で、兵士たちは私ではなくクフォラの命令に従います」
階級? ……あ、ああ、あった。闇のアンクさんの記憶の中にも確かにそれがあった。
まあ、わかったところで、この状況が変わる訳ではないが。
「あっ、強さは階級とは関係ありませんよ。強さは」
それが大事なことだと、二回言う金髪の男性。
「その言い方だと、そこの女性よりも自分の方が強いって言っているみたいだが?」
「魔法以外なら勝てますよ」
金髪の男性がハッキリとそう言った。
聞こえていたのだろう。ピキリ、と紫髪の女性のこめかみに青筋が走る。
「色々と言ってくれますね。ですが、私に対してそのような口の利き方はオススメしませんよ? 何しろ、あとはこちらの蹂躙しか残されていませんので、その時に加減が効かなくなります」
そう言う割には、紫髪の女性の表情はそれを望んでいるというモノ。
言い返したかったという思いも込めて、ここで助言を一つ。
「……時には優しさを見せた方がモテると思うぞ」
「そうですね。普段はツンツンしているけれど、時折デレた姿を見せるというのは、男心を掴むという意味でも効果的かと思います」
俺と金髪の男性は頷き合う。
いや、兵士たちの中でも頷いている者が居た。
「余計なお世話です。アンル殿下以外は殺してしまいなさい」
酷く冷たい声で、紫髪の女性はそう命令した。
兵士たちが襲いかかってくる。
俺と金髪の男性も迎え撃つ――前に兵士たちの上を越えて何かが飛んできた。
放物線を描き、俺の下へ槍が。
咄嗟に避けて、槍は地に突き刺さる。
危なかった。あのまま立っていたら突き刺さっていた。
「誰だこら! 槍なんか投擲して、危ないだろ!」
飛んで来た方向へと怒鳴ると、笑い声が聞こえてくる。
「ははははは! 面白い状況になっているじゃねえか!」
兵士たちを飛び越えて、ファイが現れた。
そのまま地に突き刺さっている槍を手に取り、そのまま兵士たちに襲いかかる。
「「「ええ~! うわあ~!」」」
ファイが槍を振るいながら次々と兵士たちを弾き飛ばしていく。
いや、ファイだけではなく金髪の男性も既に動いていて、次々と兵士たちを倒していた。
さすがは「暗黒騎士団」と言いたいが……ファイの行動がわからない。
戦うなら俺の方じゃないのか?
「……どういうつもりですか? ファイ。その行動は冗談では済まされませんよ」
意味がわからない、と紫髪の女性がファイに尋ねた。
ファイは兵士たちと戦いながら笑みを浮かべる。
「ああん? そんなモン決まってんだろ! こっちの方が――お前らを敵に回した方が、戦いが楽しめそうだからだ!」
こいつは……と、紫髪の女性が頭を抱える。
えっと、つまり……ファイがこっち側に付いたってこと?
「それに、だ! 気に入らねえんだよ! 俺はな! あの玩具が気に入らねえ! 戦いってのはよ! お互い己の身一つで、意地と意地をぶつけ合ってこそだろうが! それを、自分たちは戦いの場に出ようとせず、あんな玩具でやろうとするなんざ、その精神が気に食わねえ!」
玩具? なんのことだ?
いや、それを考えるのはあとだ。
これはこの場から脱出するいい機会だ。
俺は竜杖に乗って空へと飛び上がる。
「掴まれ!」
金髪の男性に向けてそう言う。
合わせて、魔法を放って周囲の兵士たちを牽制。
空を飛んだことで驚きの表情を浮かべていたが、金髪の男性は意図を直ぐに察してくれて、アンル殿下に「失礼します」と一声かけて背負い、飛び上がって竜杖を掴む。
紫髪の女性も同じく驚いていたが、魔法で撃ち落とそうとしてくる。
「おっと! やらせるかよ!」
ファイが槍を振るって兵士を紫髪の女性に当たるように飛ばす。
それで邪魔されて、紫髪の女性の魔法は不発。
「来いっ!」
その間に上昇しているが、充分に届くだろうとファイに声をかける。
ファイはもう一暴れしてから兵士の一人を踏み台にして飛び上がり、竜杖を掴む。
そのまま攻撃が届かないところまで上昇してから、魔道具研究所の町・マアラから離れていった。




