確率は低くても成功する場合はある
シュライク男爵領から出発してから、最初の食事時。
――今こそ試す時。と俺は試すことにした。
それは、火属性魔法でどういったことができるかを火のヒストさんから教えられた時に、俺が願ったこと。
冷たい食事を温めて、美味しく食べれるようになるということだ。
これができれば、公爵家ではいつも冷たいモノを食べていたが、いつでも温かいモノを食べることができるようになる。
温かさも、食事を美味しくする調味料の一つだ。
母さんにと温かい食事を食べたい。
それを今、試す。
前回の戦いで火の大玉を雨のように降らせたのは、いい練習になった。
多少なりとも魔法の成功確率が上がった今ならできるかもしれない。
もちろん、失敗の可能性も……いや、今はそれを考えない。
失敗を引き寄せないように、成功するイメージだけを頭の中に……よし。
いざ! 対象は冷めた卵と野菜のスープ。
「ふぅ……うぅ……」
……あ、不味い。
想定していた以上に難しいぞ、これ。
魔法の威力を上げるよりも、下げる……のとは違って、必要以上に上げず、下げず……一定を保ち続け……あっ。
卵と野菜のスープが沸騰するとか、爆散するとか、そういったことが起こる前に、ボフッ! と燃え尽きた……器ごと。
………………。
………………。
「申し訳ない!」
配給してくれた係の人に素直に謝った。
用意してくれた食事を無駄にするなんて……常に空腹している状態を知っているからこそ、俺は俺を許せない。
「器を用意してくれた人にも謝り……」
それは大丈夫だととめられた。
しばらく試すことはやめることにする。
今のままでは失敗しかしない。
もっと魔法を上手く扱えるようにならなければと、固く心に誓った。
―――
シュライク男爵領を出てから、大きな戦いは起こっていない。
時折、偵察に出た人たちが盗賊に襲われ、反乱軍によって返り討ちにしているくらいだ。
「まあ、これに関してはこうなるだろうという予測は立っていた」
テレイルが分かっていたように言う。
「というと?」
「今この国の中で『スキル至上主義』を推しているのは、優遇される有用なスキル持ちと、その人物を使って利益を得る立場である……所謂王家や貴族だけということだよ。普通に暮らす人たちからすれば迷惑でしかない。それがいつかという推測は立たないし、もう推測する必要もないけど、実際はいつ暴動が起こってもおかしくなかったからね」
だから、大多数の人たちは潜在的にこちらの味方だと、テレイルは付け足した。
それと、戦いが起こらないのは、こちらが反乱軍だということも関係している。
こちらはいくつもの領軍が合わさった軍なので、既に一領地で対抗できる戦力ではないのだ。
だから、素直に通された――というより、通すしかない。
その代わりという訳ではないが、おそらく、とテレイルが推測を出す。
「大きな戦いがあるとすれば、あとはこのまま進んだ先にある、国内最大最固のセプテ砦と、王都の二か所だけだと思われる。そのため、残る国軍の多くはセプテ砦と王都に二分。さらに、実力だけは精鋭で脅威と言わざるを得ない騎士団の三特殊部隊は、おそらく王家の意向で王都に配置されていると思う。セプテ砦には……三特殊部隊とは別の、元々フォーマンス王国の最高戦力である部隊が配置されているはず」
戦いは終わってはいないが、何やら不穏な感じだ。
元々の最高戦力となると……アレか。
テレイル、リノファだけではなく、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵も神妙な表情を浮かべている。
俺の護衛として共に居る「新緑の大樹」の面々も、面倒そうな表情を浮かべていた。
確かに、今こちらにはない類いの戦力であり、対抗も難しい……のだが、何故みんな揃いも揃って俺を見るのだろうか。
「こうなってくると、アルムが居て本当によかったと思う」
テレイルの言葉に、誰しもが揃って頷きを返す。
いや、遠距離魔法攻撃だけでどうにかできるのか?
火属性に強そうだし。
それでもどうにかしないと、反乱軍に大きな被害が出るのは事実。
ただ、俺はまともに一撃を食らえばそれだけで即死してもおかしくないので、「新緑の大樹」にしっかりと守ってもらわないといけない。
まっ、俺はできることをやるだけ。
なんとしても母さんを救うため、立ち止まってはいられない。
そして、辿り着いたセプテ砦は、国軍が待ち構えていた。
同時に、国軍の最高戦力の姿も見える。
それは――竜騎士。
羽を持ち、四足歩行の巨大な爬虫類といった見た目の存在――飛竜に跨り、頭上から襲いかかってくる、まさしく脅威の存在。
地に落とそうにも、飛竜は最下級とはいえ竜種なことに変わりなく、非常に高い物理耐性と魔法耐性を持ち、生半可な攻撃では傷すら負わない。
その力は一騎で一般兵千人分か、それ以上と言われている。
そんな竜騎士が五騎。
セプテ砦の上空を飛翔している。
空を飛べるのはお前たちだけじゃないと、俺も竜杖に乗って飛ぶ。
すると、まだ戦端は開かれていないのに、竜騎士五騎が俺に向かって飛んできた。




