普段見せない姿って気になるよね
立ち上がり、紫髪の女性の下へ。
竜杖を手に取ると、装飾の竜から「転ぶ程度で私を放すとは……許されるとでも?」と、表情は笑みを浮かべているけれど背負っているモノは憤怒のような、そんな感じを受ける。
申し訳ございませんでした、と謝っておく。
ただ、世の中、下げてから上げるという手法がある。
その方がより印象に残り、効果的らしい。
俺が謝ったあと、装飾の竜は「ですが、いい狙いでした。ナイス投擲。かましてやりましたよ」と言っているような気がした。
紫髪の女性に当たった時、装飾の竜が噛み付いたように見えたのは、まさか偶然ではなく狙って……いや、まさかね。
そんなあり得ない考えを捨て、紫髪の女性の様子を窺う。
………………これは。
「気絶していますね」
俺は言っていない。
アブさんは少し離れた位置に居るので、当然言っていない。
では誰が? と声が聞こえた方を見る。
ファイと金髪の男性が、俺と同じように紫髪の女性の様子をのぞき込んでいた。
……いや、戦いはどうしたよ? そのまま戦っていてくれて良かったのだが?
「あれ? いや……ん?」
だから、俺から戸惑いの声が漏れた。
「ああ、すみません。この方からは普段から小言をくどくどと言われていまして、こういうどこか間抜けなやられ方の姿を見るのは初めてでして……今はこう、胸がスッとした思いと言いますか」
「特に話が長いんだよな、こいつ」
金髪の男性の言葉に、ファイが同意する。
なるほど。だから、思わず手をとめて見に来てしまった、と。
「「「……ははははは」」」
揃って苦笑い気味の笑いが漏れる。
「それじゃ」
俺はここら辺で――と奥の部屋に退散しようとしたが、その前に行く手を遮るように槍が現れる。
その槍の持ち主は、もちろんファイだ。
「いやいや、逃がすかよ。せっかく、またこうして会えたんだ。今度こそ存分にやり合おうぜ」
「え? また? 初対面ですけど? 誰かと間違えていませんか?」
「え? いや、え? 間違えてしまった? 俺――てそんな訳あるか! お前みたいな妙なヤツを何度も間違える訳ないだろ!」
ちっ。駄目だったか。
また通用すると思ったのだが、そう甘くはなかったようだ。
そのままファイが俺に襲いかかってくる。
俺は瞬時に身体強化魔法を発動して対応――。
「……いや、待て。そもそも、妙なヤツってなんだ! 妙なヤツって!」
「お前のことだ! 今帝都じゃ話題になっているぞ! 魔区で大暴れしたヤツってな! 今頃はあることないこと噂が一人歩きしていることじゃないか? ただ、その容姿だけはしっかりと伝えられているからな! 直ぐにお前だってわかったよ! 俺もその時居たかったぜ! まっ、今やり合っているから、それは別にいいんだが……あっ、そういえば、俺の名前はちゃんと覚えているんだろうな?」
「ファイだろ!」
「その通りだ!」
ファイが嬉しそうに攻めてくる。
嬉しそうなのはいいが、攻めてくるのはどうなのだろうか?
というか、くそっ。俺の存在が広まるとか、噂が勝手にとか、その辺りは別に気にしないのだが、だからといって容姿だけはしっかりとかそっちは気にしたい。
とりあえず、妙なヤツ――で、そのまま俺に当て嵌まるのは納得できない。
ファイが繰り出す槍の連続突きを竜杖で防ぎながら、少しばかり憤慨する。
ただ、それはあと回しだ。
どうせ、エラルとワンドを倒せば、そっちの方に話題は集中するだろう。
今気にすべきはファイをどうにかして、アンル殿下を助け出すことだ。
時間をかけると誰か来る可能性は充分にある。
幸い、今のところ騒動はここだけに留められているし………………また絡まれても面倒なので、あと腐れがないようにファイはここで倒すか?
もしくは、金髪の男性にファイを擦り付けるか。
どうする? と考え始めた時、その金髪の男性が口を開く。
「ああ、キミが帝都で話題の………………」
金髪の男性が何かを考える素振りを見せたあと、ポンと手を打つ。
「それじゃ! ここは任せたよ!」
金髪の男性が奥の部屋へと向かう。
あっ、あいつ! 俺にファイを押し付けやがった! ……敵か?
「いや、あれ! いいのか? あとを追った方が、行かせない方がいいんじゃないか?」
ファイに金髪の男性のあとを追えと指し示してみる。
「俺には関係ねえな! やりたいようにやるように、戦いたいヤツと戦うだけだ!」
駄目だ。まったく聞く耳を持たないようだ。
まあ、そういうヤツであるのは見てわかるのだが、それでも賭けて駄目だった。
とりあえず、アブさんに視線であとを追ってくれと伝えてみる。
任せろ! と追ってくれた。
アブさん曰く、きっと骨伝導で伝わったのだろう。
俺にそんなことはできないが。
しかし、これは本当にどういう状況だ? 金髪の男性が味方とは限らないというか、どういう立ち位置なのかわからないのが困る。
まあ、さすがに「暗黒騎士団」の全員が心からワンドに忠誠を誓っているとは思えない。
ファイなんか、間違いなくそうだし。
………………。
………………。
待てよ。
ファイとやり合いつつ、声をかける。
「なあ、一つ確認だが」
「なんだ?」
「強いのと戦いたいのなら、こっち側――反乱軍側の方がいいんじゃないか?」
「はあ?」
「いや、こっち側なら『暗黒騎士団』が敵になるが? 強敵と言えるような強さを持っている者の数はリミタリー帝国側が多いし」
「………………ああ、確かにそうだな! それも面白そうだ!」
ファイが頷いて動きをとめる。
あれ? もしかして上手くいく感じ?
「でもまあ、今はお前の相手をする方が優先だ」
「……別に相手にしなくていいんだが。というか、相手をするというか、させられているのは俺の方だと思うが?」
「じゃあ、いくぞ!」
いや、聞けよ。




