サクサクッと進める時だってある
魔道具研究所の町・マアラに潜入した。
入ってしまえばこちらのモノ。
予定通り、傭兵団「日の出傭兵団」とは入って少ししたら別れる。
「何を目的としているか知らないが、頑張れよ。同士よ」
別れ際、傭兵団の団長がそう言ってきた。
……どうしよう。傭兵団の団長の中で、俺は「華やかな花」勢に組み込まれてしまっているようだ。
どちらでもない、と言いたいが、ここで下手に関係を拗らせると、せっかく潜入したのにそれが駄目になる可能性が出てくる。
まさか、それを狙ってか……中々の策士のようだ。
ただ、俺自身が「華やかな花」勢だと口にした訳ではないので、ここは言質を取られない対応が正解だろう。
幸い、直ぐ離れようとしたので、少しだけ距離は空いている。
え? なんて? と耳に手を当てたあと、直ぐ頷きを返しておく。
きっと、激励してくれているのだろう、と俺は解釈した――という風に見えてくれればいいのだが……実際激励された訳だし、間違ってはいない。
改めて言われる前に、近くの建物の物陰へと即座に移動した。
―――
傭兵団「日の出傭兵団」と別れて、建物の物陰に潜むと――。
「中々手強い門番であったな」
アブさんが合流する。
「生身だと必要ないが、死んで骨身になれば、某のダンジョンの門番をしてくれないだろうか……」
アブさんの中で、先ほどの門番の評価は高いようだ。
確かに、こちらの策略をあんな短時間で見破ったのだから、それだけ評価が高くなるのもわかる。
ただ、主に女性スケルトン関連で問題を起こしそうだが、そこはいいのだろうか?
……女性スケルトン以外にも問題が出そうだと思うのは俺だけだろうか?
少なくとも、男性スケルトンからの嫉妬を買い、乱闘が起こって、自分の骨がどれかわからなくなりそうな気がする。
それとも、自分の骨はどれだけ紛れていようがわかるのだろうか?
……スケルトンなら判別できたとしても不思議ではない気がした。
ともかく、今大事なのはアンル殿下を救い出すことだ。
アブさんの案内で進んでいく。
これで道に迷うことなく、目的地まで行くことができる。
鍵がかかっていようが、アブさんが壁をすり抜けて反対側から開けてくれて、罠の類はダンジョンマスターとしてなんとなく設置場所までわかると、どれも作動しないように進むことができ、巡回や普通に居る人も、少しの遠回りや掻い潜ってやり過ごすことができていた。
……潜入のお共に、アブさんはいかがだろうか?
思わずそう思っても仕方ないと思うくらい頼りになる。
今度、「青い空と海」の面々に、アブさんが如何にすごいかを語ってみようかな。
それでもっと仲良くなってくれるのなら俺も嬉しい。
そうして最短距離で進み、大きな建物の中に入り、こそこそと進んでいき、最下層――地下二階の最奥の部屋へと向かった―――までは良かったのだが、ここで問題発生。
いや、もちろん、アブさんのせいではない。
というか、俺も関係ない……多分。
正直なところ、今でもいいが他所でやってくれと思う。
最奥となる部屋の前には大きな部屋がある。
アブさんによると、いくつかの部屋と繋がっている分岐点となっている場所らしく、一軒家分くらいの敷地面積がありそうだ。
なので、最奥の部屋を見張る者が数人集まっても問題なく駐留できる。
ただ、長居はしたくない。
各所にランタンが置かれているので光源は充分なのだが、それでも陽の光は別なのだ。
日に一度は浴びたいというか、朝起きてカーテンをシャーと開けて、そこから飛び込んでくる陽の光は別格というか……いや、今は関係ないか。
ともかく、その大きな部屋の中で問題が起こっていた。
見張りと思われる兵士たちが問題を起こした――訳ではなさそうだ。
そいつらは既に倒れている。
問題なのは、そんな部屋の中で立っている三人の人物。
一人は、見覚えがある。
リミタリー帝国に入って直ぐに出会った「暗黒騎士団」の一人。青いツンツン頭の槍使い。名前は……なんだっけ? 確か……ファイ。だったか。
そのファイと並んで立っている者も黒い鎧を身に付けているので「暗黒騎士団」のようだ。
紫色の長髪で、目付きが鋭い美人女性。二十代後半くらいだろうか。
ロッドを持っているので魔法使いなのかもしれない。
そんな二人と対峙するように立っている者も、同じ黒い鎧を身に付けているので「暗黒騎士団」なのだろう。
金髪の美形男性。二十代前半くらいだろうか。
細身で、両手に短剣を持ち、黒い鎧の各所にも短剣が納められている。
「フフフ……この私がただ情報を伝えただけだと思いましたか? 見事にあぶり出されてくれてありがとうございます。時間の節約になりました」
紫髪の女性が、金髪の男性に向けてそう口にした。
……おや? もしかして「暗黒騎士団」内でも争いが起こるのか?




