巡り巡ってなことだってある
「……という感じで、見つけ出してきたぞ」
傭兵団「日の出傭兵団」に断りを入れて一旦距離を取ってから、アブさんからの報告を聞いていたが、これで終わりのようだ。
当初、傭兵団「日の出傭兵団」が居たことにアブさんは警戒を示していたが、俺がきちんと説明したので今は問題ない。
その証拠に、今アブさんは親指を立てていて、どこかやりきった感があるくらいだ。
俺としてはもっと時間がかかるか、もしかすると見つからない可能性もあると思っていたが、そんな想像をアブさんは軽く超えてくる。
この短時間で見つけてくるなんて……さすがはアブさんだ。
……まあ、骨伝導の賜物と言っていたが、さすがにそれは違う気がするが。
なんかこう、手当たり次第にいこうとしたところで運良くその話を聞いて見つめた………………はさすがにないか。
……ないない。
それに、重要なのはアンル殿下の場所が見つかったということ。
「案内は?」
「当然できる!」
力強い言葉である。
となると、あとは潜入するか、セカンたちを待つか、だが……。
「アブさんから見て、今直ぐ救出した方がいいと思うか?」
「なんとも言えないな。特に今どうこうという雰囲気ではなかったが、何か起こるとしてもそれは可能性の話でしかない」
「だよな」
ただ、リミタリー帝国側が魔道具研究所の町・マアラに攻め入られる可能性を考えているのなら、もし反乱軍が攻め入って状況が悪くなれば、アンル殿下を盾として使うことだって充分にあり得る。
でも、潜入となると一人――正確にはアブさんも居るが――の方がやりやすいし、何より先に助け出しておけばあとで合流するセカンたちや反乱軍にとっても有利に働くだろう。
そう判断して、潜入することにした。
早速、傭兵団の団長に中に入りたいと話を通して協力してもらう。
入る方法はなんてことはない。
魔道具研究所の町・マアラに入る傭兵団の中に紛れて入るだけ。
中に入れば、あとは機を見て離脱すれば自由に動ける。
そのあと、俺は上空から付いて来てくれているアブさんと合流して、アンル殿下のところまで案内してもらえばいい訳だ。
ある程度行動が決まったので、早速実行に移す。
傭兵団「日の出傭兵団」の中に紛れて、魔道具研究所の町・マアラに向かう。
―――
「……ん? あれ? そこの、見ない顔だよな? 『日の出傭兵団』にそんなヤツ居たか?」
はい。門番にとめられました。
門番が指し示しているのは、俺。
こんな直ぐバレるとは思わなかった。
これは、こちら側が浅はかだったのか、それとも門番が鋭かったのか……いや、門番が鋭かったんだな。そうに違いない。
それに、どちらかなんて見つかった理由を考えても仕方ないのは事実。
今はこのあとの対応だ。
とりあえず、門番は俺を指し示している一人だけ。
他は居ないが、丁度席を外しているとか、そういったところだろう。
強行しようと思えばできるが、それは悪手。
自ら進んで騒ぎを起こす必要はない。
であれば、ここは穏便に乗り切る方法を模索するべきだ。
「ちょっと待ってくれ……集合」
門番に断りを入れ、傭兵団「日の出傭兵団」を集め、円陣を組んで、小声で相談を始める。
………………。
………………。
「良し。これで行けるぞ!」
「「「YEAH~!」」」
全員が揃ってかけ声に合わせて足を一歩前に出す。
今、俺たちの心は一つになった。
傭兵団の団長と共に門番の前に立つ。
「こいつは俺の甥だ。魔道具に興味があるようで、少し中を見せてやろうとな」
「甥で~す」
「いや、今目の前で相談したことをそんな堂々と言われてもな。はい、そうですか。と通す訳ないだろ。というか、相談内容丸聞こえだったからな。せめてそこはもっと声を落としてこっちに聞こえないようにやれよ」
アドバイスまで送ってくるとは……この門番、手強いぞ。
俺を含めて傭兵団「日の出傭兵団」の誰もが、目の前の門番に戦慄する。
そこで最初に動いたのは傭兵団の団長。
「あっ、間違えた。あれだ。俺の兄の奥さんの三番目の妹の友達の姉の母親の姪の一番目の兄の息子なんだ」
なるほど。関係性はあるがどこか有耶無耶にしようということか。
やるな。さすがは傭兵団の団長だ。
これならいける。
「いや、友達を挟んでいる時点で血縁関係どころか他人だからな。というか、甥設定はどこにった?」
くっ。鋭い。
だが、傭兵団の団長は諦めなかった。
「だから、それが甥だったのだ」
お、おお! なるほど。そこに繋げるのか! これはどうだ? 一気に信憑性が増したはず!
「まあ、そういうのもあるかもしれないが、そもそも甥というのが設定である以上、信じる訳ないよね? え? いけると思ったの?」
……駄目か。いけると思ったのだが。
傭兵団の団長も肩を落とす必要はない。
やれるだけのことはやった。
なのに駄目だったのは、この門番がこちらの想定以上に手強かったというだけ。
しかし、この手強さを知った今なら出直せば……必ず……。
「とりあえず、牢屋、行こうか。あっ、傭兵団の方も話、聞こうか」
こちらの動きを封じてきただと。
これは、もう強行しか――と考えた時に、アブさんがスッと下りてきて、耳元で囁く。
「……え? この人、奥さんとは別に彼女が居て、その彼女に殺さ」
「ちょいちょいちょいちょい! いや、おい! いや、おい! 待て待て! え? いや、警備には誰にも知られないようにお願いしたはずなのに、なんで知って、いや、違う! そ、そんな訳ねえし! そんなことねえし!」
「……ほほう。何やら面白そうな話だな」
傭兵団の団長が悪い笑みを浮かべる。
「はあ? 面白くねえし! こっちの身にもなって、て馬鹿! そんなことないから! 行けよ! いいから行けよ! 入れ入れ! 入っていいから! もう行けよ!」
門番がさっさと入れと促してきた。
どうやら見逃してくれるようである。
とりあえず、大きな騒ぎになることもなく入ることができた。




