サイド アブの大捜索 2
魔道具研究所の町・マアラでもっとも大きな建物の中を、探し人の情報を求めて巡っていく。
―――
適当に入った部屋。
「大は小を兼ねるといってもいい。つまり、大きいとはそれだけで素晴らしいのだ。大きいからといって大雑把という訳ではない。それだけの思いのようなモノが詰まっているのだ。大きい分だけ、愛が詰まっている」
「大は小を兼ねる? そんな訳ないだろ。大きいのはただ大きいだけ。小ささにこそ未来があり、素晴らしいさがあって、情熱が宿っている。美が、黄金比が、そこにはあるのだ。小ささこそ誰もが夢見るのだ。理想なのだ。」
何やら男性二人が言い争いをしている。
魔道具だと思われる、大きなモノと小さなモノがそれぞれ自身の手元付近に置かれていた。
それについての話だろうか?
「キミもそう思うよな? 補佐よ!」
大きい方がいいと言った者が、胸が大きい女性に向けて尋ねる。
「あなたもそう思いますよね? 助手!」
小さい方がいいと言った者が、胸が小さい女性に向けて尋ねる。
女性はどちらも汚物を見るような目で男性を見ていた。
ここで情報を得ることはできなさそうだ。
次へ行こう。
―――
少しばかり暗い部屋。
その中に男女が居た。
まるで人目を忍んでいるような雰囲気がある。
もしかすると、ここで重要な話が――。
「……あの、いつになったら奥さんと別れて私と一緒になってくれるんですか?」
「それは、その内ね。今はこの秘密の関係を楽しもうよ。これも一つの刺激となって」
「……やっぱり、その気はないってことですね」
「いや、それは、ね。ほら」
女性が短剣を取り出した。
「もういいです。生きているあなたは必要ありません。死んでください」
「……え? は?」
「あなたを殺して、私だけのモノにします」
「あれ? もしかして、俺、いつの間にか駄目な部分を踏み抜いていた? け、警備~! 警備ぃ~!」
……ふむ。ここに情報はないようだ。
次へと向かう。
―――
ごちゃごちゃと様々なモノが置かれている部屋。
そこで机に突っ伏している男性が一人居る。
「くそぉ……どうして俺はあそこで彼女が居るなんて言ってしまったんだ……」
何やら悩んでいるようだ。
「どうすれば……今更居ないなんて言える訳………………待てよ。そうだ! 居ないなら造ればいい! 陽キャの彼女は、何故か陰キャな俺を放っておいてくれない、的な!」
なんか、どこかで聞いたことがあるような気がしないでもないが、そういう結論に行き着きやすいということだろうか?
誰しもが一度は同じこと考える、的な……。
まあ、どちらにしても求める情報はなさそうなので、次へと向かう。
―――
いくつかの部屋、廊下を巡るが、それらしい情報は出てこなかった。
まあ、それでも問題ないと言えなくもない。
確かにここは大きな建物ではあるが、時間はかかるがすべて巡れば見つけられるはずだ。
………………。
………………。
この建物に居なかったらどうしよう。
さすがにこの町全体を探すとなると、めんど……時間がかかり過ぎる。
それでは意味がないだろう。
くそっ。こういう時にこそ直感に頼……間違えた。骨伝導で伝わってくればいいモノを。
一切伝わってこないとなると、予め対策を打たれていて、骨伝導が外に漏れない壁が使用されているとかあるかもしれない。
何しろ、ここは魔道具――つまり、ビックリ道具の町だ。
……あり得る。
このままでは、アルムから「なるほど。世界一の骨伝導使いであるアブさんでも骨伝導が使えなかったのか。なら、俺のような未熟な骨伝導使いでも結果は同じだな。ここはセカンたちが来るのを待つか」と言われるのは間違いない。
………………。
………………。
あれ? 意外と大丈夫そう?
そう考えながら次の部屋へと入ると――そこは、
他の部屋とは違ってどことなく置いている物が豪華な部屋だった。
そこに男女が向かい合って座っている。
男女に共通していることがあった。
多少の差異はあるが、どちらも黒い鎧を身に付けているということだ。
あと、どことなく他と違うような雰囲気もある。
男性の方――金髪の二十代前半くらいの男性が、女性の方――紫髪の二十代後半くらいの女性に向けて口を開く。
「あれの製造も終わったことですし、本当にここに元周辺国の者たちが攻めに来るのですか?」
「別に終わっていませんよ。今必要な分が終わったというだけで、今後も数は増やしていく予定ですから。それに、私たちの派遣はワンド団長の命令です。ワンド団長はここが攻められるだろうと睨んでいるようです。一応ここは、帝都の魔区に次ぐリミタリー帝国にとって重要な場所ですからね。魔道具師を帝都に連れていく際にその護衛としてある程度の戦力を割きましたからね。それでここが攻め落とされないように、私たちが派遣されたのですよ」
「なるほど。ただ、ワンド団長が睨むほど、ここが重要とは思えないのですが? 元周辺国の方も帝都に直接向かうのではありませんか?」
「いえ、元周辺国側からすれば、ここに攻め込む理由があるのですよ。情報の機密性も絶対ではありませんしね。どこからか漏れる可能性は充分にあります」
「というと?」
「………………まあ、あなたも『暗黒騎士団』の一員。教えてもいいですか。ここには、元周辺国側の旗頭の一人であるアンル殿下が幽閉されているのですよ。魔道具造りのための魔力供給源としてね」
「……なんと! アンル殿下が、ここに!」
「ええ。地下最下層。最奥に」
「そういえば、姿が見えないと言われていましたが、ここに……」
なるほど。最下層。最奥に………………見つけたっ!
漸く情報を得られた!
あとは念のために姿を確認して、アルムのところに戻るだけだ。
場所がわかればここに用はない。
さっさと向かうことにした。
―――
罠があろうが、厳重だろうが、某にはまったく関係ない。
この建物の最下層。最奥で、それらしい人物を見つけたあと、アルムのところに戻った。




