サイド アブの大捜索 1
すみません。ちょっと立て込んで遅れました。
時は少しだけ遡り――。
―――
――絶対的な死。アブ。これより魔道具研究所の町・マアラに潜入する。
………………。
………………。
キリッと決めてみた。
惜しむらくは、アルム以外の者からは某の姿が見えていないということだろう。
いや、正確には見せていない、か。
しかし、それは仕方ないこと。
某の姿はスラリとした体にはためくローブが似合う美骸骨。
一度姿を見せれば、男女問わずにキャーキャー言われることは間違いないのだ。
尚、その種類は問わない。
キャーキャー言われるという事実が大事。これ大切。
だから、迂闊に姿を見せる訳にはいかない。
某という存在を受け入れるのは何かしらの耐性が必要なのは、どうしようもないこと。
しかし、そんな某でも、いつか姿を現わしても自由に見て回れるような世界になって欲しいモノだ。
……まあ、考えようによっては、ある意味で世界の終わりを示していそうだが。
なんてことを考える余裕があるのは、これが二度目だからだ。
一度目は……そう。帝都というところ。
経験があるのとないのとでは、その時取れる対応がまったく違う。
余裕が生まれるのだ。
今の某が正にそう。
余裕があるからこそ、このように思考もクリアとなっているのだ。
魔道具研究所の町・マアラ。
以前潜入した帝都にあるところと造りが似ていて、もっとも巨大な建物が中央にあり、それに類する程度の大きさの建物が各所に散らばっている、という感じだろうか。
様子というか、雰囲気にも似たようなモノが感じられ――違った。伝わってくる。そう。骨伝導で。これ大事。
ただ、以前に潜入したところとは明確に違うところがある。
それは大きさ。
以前のところは所詮一画という感じであるが、ここは町船体がそうなのだ。
ここに潜入する目的が、たった一人の捜索である以上、少しばかり難航するかもしれない――と考えるのは二流。
一流は難航なんてしない。
パッと答えを出し、サッと遂行して達成する。
そして、某は一流。間違いない。
さあ、某の骨伝導で、すべてまるっとぜんぶ余すところなく完全完璧一切合切、伝わり見抜いて見通してやろう!
ババンッ! と眼下の魔道具研究所の町・マアラを指し示す。
少しの間そうしたあと、スーッと下りていった。
―――
一つの町の中に居る一人を、なんの情報もなく捜索するとなると非常に難しい。
それも短時間で見つけるとなると、奇跡的な何かが必要になるだろう。
だが、今回はある程度予測ができる。
何しろ、今回捜索する者は、この国においてそれなりの地位の人物ということだ。
何故そのような地位の者がここに居るのかは……疑問には思わない。
興味がない、と言ってもいい。
正直なところ、アルムやグラノ殿たち、ラビン殿、カーくん殿に、「青い空と海」の面々以外……あっ、あとは某のダンジョンがある国以外は、正直なところどうでもいいからだ。
今回のことも、アルムからお願いされた……いや、骨伝導の使い手であるアルムから骨伝導経由で伝わってきたから、こうして行動しているだけである。
「違うぞ。そんな使い手になった覚えはない」
――はっ! 一瞬、アルムの声が聞こえた気がした。
きっと気のせい……いや、まさか、これも骨伝導によるモノか?
……くっ。骨の身でありながら、骨伝導をまだ使いこなせていない。
これが、骨伝導一級取得者とそうでない者の差か。
「………………」
無言の圧力まで伝えてくるとは……侮れない。骨伝導一級。
しかし、まだその上に特級に最上級が控え――と考えている内に、町の中央にあるもっとも大きな建物の真上に下り着いた。
それなりの地位に居る者なら、もっとも大きな建物の中に居るだろうと思ったからである。
あとの細かいところは、透明化したまま壁をすり抜けて回り、必要となる情報を聞き集めている内に目的となる場所がわかるだろう。
そうして、そのままスルッと中に入る。
「………………」
「………………」
広大な部屋。男性が二人。机を挟んで対峙している。
一人は椅子に座り、一人は立っていると、両者の力関係を示しているようだ。
雰囲気が重苦しい。
何やら重要そうな会話でも行われているようだ。
もしかすると、いきなり当たりを引いたのかもしれない。
某……もってる?
「……とりあえず、だ。帝都のジャアム魔道具師長から依頼されていた数は揃ったのだな?」
「はい。問題なく。きちんと改修モノを既に送り出しました。それ以前の動くのは、ここの警備に回しています。『暗黒騎士団』だけに任せる訳にはいきませんから」
座っている方の問いに、立っている方がそう答える。
ふむ。何かしらを送った、と。
聞いた感じ、数ということは複数。単体ではない、ということは、目的としている人物とは関係なさそうだな。
「では、次に行うべきことが何か、わかっているな?」
「はっ! もちろんでございます」
ん? 何やら密談のような雰囲気が……。
立っている方が口を開く。
「魔道具であれば、薬師でも治癒師でも魔法師でも成し遂げられていない世界的命題の一つ……完全なる毛生え薬を作り出せるはずです!」
「うむ! 期待しているぞ! そのための協力は惜しまない」
「ありがとうございます! では、まず素材として――」
「……ええ? そこまで必要? ――いや、でも……」
二人は何やら熱心に話し出した。
そういえば、この二人頭が薄いような……。
まあ、目的の人物のことについては話しそうにないので他のところに行こう。




