間違えたので言い直しました
近くにあった木々の中から魔道具研究所の町・マアラの様子を窺っていたら、そこの警備を行っているという傭兵団「日の出傭兵団」に取り囲まれた。
俺が怪しい者であるという誤解は解けたと思う。
まあ、実際は怪しいというか攻めに来たようなモノだから確実怪しくどころか向こうからすれば捕縛対象なのはともかくとして、なんか話ができそうな雰囲気になったので、そのまま話をしてみることにした。
少しは内部の情報が漏れないかな? という期待がない訳でもない。
………………。
………………。
「いやもうほんと、ここの上司は最悪でな。ここら辺は魔物がそれなりに出るもんだから、戦うことくらいしか能のない俺らみたいな警備は寝ずに働けと言ってくるんだよ」
「しかも、だ。魔物がいつ現れるかなんてわからないのに、誰が決めた訳でもないのに、夜中に魔物が咆哮の一つでも上げて上役の方が目でも覚まそうものなら、それは警備が怠けているからだとかいちゃもんまで付けてきやがる」
「そうそう。そして何か言おうものなら、自分たちはリミタリー帝国出身で、お前たちは栄光あるリミタリー帝国にやられた周辺国の出身なんだから大人しく従え、とか。逆に呆れて何も言えなくなるってもんだ」
内部の情報というか上司への愚痴ばかりが出ている。
口がとまらないので、色々と溜まっていたのだろう。
確かにその辺りも内部の情報といえばそうだが、正直要らない。まったく要らない。
ただ、それなら辞めれば? と思うのだが、なんでも金払いはいいらしく、傭兵団「日の出傭兵団」は金を稼ぎたいので雇われているそうだ。
といっても、もう充分に金は得たので辞めようとは思っているらしい。
そこで、ごほん、と筋骨隆々の男性が咳を一つ。
ちなみに、この筋骨隆々の男性が傭兵団「日の出傭兵団」の団長である。
「ともかく、だ。あの町には入れない。普段もそうだが、今はさらに警戒が強くなっていて、下手に入ろうとすれば捕らえられ、そのまま殺されることもあり得る。本当に迷っているのなら、近くの街道まで案内するが、どうする?」
そう尋ねてきた。
俺が迷ってここに来たのではないと、見抜いているようだ。
さて、どうしたものか。
もしここで迂闊な言葉を発す、あるいは行動を起こせば戦闘になりそうな気がした。
どうするか悩んでいると、傭兵団の団長からさらに声がかけられる。
「だが、先ほども出ていたが、俺たちは元周辺国の出身だ。何か協力できることがあれば、協力するが? たとえば、どこぞの誰か一人くらいなら、秘密裏にあの町に入れることができる。といっても、入れられるだけで中に入ると俺たちは助けられないがな」
いきなり何を……と、気付く。
元周辺国という部分を強調していた。
ということは、もしかすると、俺を反乱軍の何か――関係者であると考えての言葉かもしれない。
たとえ違っていても、向こうからすれば俺の口を封じればいいだけとか考えていそうで物騒だが、そこの心配はしなくてもいいだろう。
反乱軍の関係者というのは間違っていないのだから。
おそらくだが、「暗黒騎士団」が来たことで、何かしら――内戦の始まりを感じ取っているのかもしれない。
「なるほど。元周辺国出身か」
俺の方からも確認するように強調して言ってみる。
ここで協力者を得られるのは非常に助かるからだ。
お互いに意図が通じたと判断したのか、傭兵団の団長がにやりを笑みを浮かべる。
「そうだ。俺たち『日の出傭兵団』は、全員が元王都・オジナルの出身だ」
「元王都・オジナルの」
「知っているのか?」
「あ、ああ。『輝く宝石』があるところだろ」
不意に頭の中に浮かんだことを口にした。
なんだかんだと、印象が強かったからだろうか。
それにしても、出身がそことは……そんなことあるんだな――と思っていると、気付く。
なんか急に空気が重くなっていることに。
ついでに、傭兵団の団長が怒っているのだが笑みを浮かべている、とよくわからないことになっている。
「ど、どうした?」
「どうしたじゃないな、どこぞの兄ちゃんよ。なんで元王都・オジナルと聞いて、『輝く宝石』が出てくるんだ? ああん? まさかお前、『輝く宝石』の回し者か?」
空気が重い理由は、殺気だった。
それも傭兵団の団長だけではなく、傭兵団全体からの。
え~と……これは……状況から判断するに……。
「間違えた。元王都・オジナルのナンバーワンのお店『華やかな花』があるところだな」
「そうだよな。それで間違っていない」
重い空気は消えた。もうない。
全員にこやかだ。
俺もにこやかだ。
心は別だが。
とりあえず、アレだ。これはもう味方だな。
味方と判断していい。
ただ、セカンたちや暗殺集団、トゥルマたちのことは……黙っていよう。
わざわざ争いを起こす必要はない。
そう思っていると、アブさんが戻ってくるのが見えた。
……ふむ。傭兵団「日の出傭兵団」に協力してもらうかどうかは、アブさんから話を聞いてから判断するか。
そう決めて、傭兵団の団長に少し時間をもらい、戻ってきたアブさんから話を聞くことにした。




