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賢者巡礼  作者: ナハァト
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固くすると解くのも一苦労

 横からひんやりとしたモノを感じる。

 チラリ、と視線を向ければ、ギラリと光る剣先が見えた。

 まさか、この俺がここまで近付かれるまで気配に気付かないとは……どうやら相手はかなりできるようだ――と思ってみたり。

 別に自分の気配を探る力が強いなんて思っていない。

 何より他のことに集中していたんだ。

 もっと近付かれたり、声をかけてくれないとわからない時だってある。

 それでもまったく気付かなかったのだから、やはり相手がかなりの腕前ってことなんだろう。

 それに、一人じゃない。

 一つに気付けばそれに関する他のことにも気付くように、複数の気配を感じ取れる。

 ……いや、これは逆か。

 これだけの人数が取り囲んでいるぞ、だから逃げられないぞ、という意志表示かな。

 無駄な抵抗はやめろ、と。

 ……こっちは一人なんだから、そっちも一人で来るべきじゃないだろうか?

 いきなり取り囲むとか、卑怯だぞ。

 俺が一体何をしたっていうんだ。

 まあ、実際は一人ではないし、これから何かする予定ではあるけど……まだ何もしていない。そうしていないのだ。

 そうか。まだ怪しんでいる段階なら……。


「ひえええええっ、す、すいませ~ん! なんか道に迷って、気が付いたらこんなところに。町っぽいのを見つけたけど、なんか物々しい雰囲気というか、立ち入り禁止っぽくてどうしようかと……あっ、入れます? あの町」


 これでどうだ?

 相手は見えないというか、迂闊に動くと斬られそうなので確認できないが、それでも好感触を抱かせることはできたと思う。

 このままアブさんが戻ってくるまで乗り切れば――。


「なるほど。道に迷ってか……確かに、そんな顔付きだな」


 良し。殺そう。可能な限り魔力を注いだ火属性魔法で消し炭すら残らなくして証拠隠滅してやる。これで俺がやったとはわからない。完璧だ。


「殺気?」


 ――はっ! 危ない。つい我を忘れるところだった。

 魔力を練り始めていたが霧散させないと……できるかな? 暴発しないかな?


「いや、消えた? 恐ろしいまでの殺気が……気のせいか? ……まあ、いいか」


 ……あれ? 意外と難しいか? 一気に練り過ぎたかもしれない。何度も固く結び過ぎた紐のように解くのが難しい。ぐぬぬ……。


「それにしても、迷子か。魔物にでも襲われたか? だが、そっちが気にしたように、あの町は少々特殊でな。入ることはできな……いや、ちょっと待て。何をやっている? お前」


「え? いや、あの……なんでも、ない」


 いや、今話しかけないでもらえないだろうか?

 思いのほか魔力を霧散させるのが難しくて、話しかけられると集中できないから。

 暴発したらどうする。


「いや、なんでもなくはないだろう! なんか苦しそうだぞ! 大丈夫か? 負傷か? 病気か? 何を唸っている?」


「いや、本当になんでもないから! 大丈夫! 母さんも言っていたから! 俺、できる子だから!」


「いや、何かはわからないができてなさそうだよな? なんか危ない感じだけど? なんか我慢してはいけないのを我慢しているように見えるけど? あっ、もしかしてトイレ我慢しているのか? それも大きい方」


「はあ? 違うから! 別に我慢してないから! 大丈夫だから! それに、別に何も危なくないし、できるから! 俺、できるか――あっ」


「あ?」


 咄嗟に、どうにか魔力を抑え込もうと力む。

 けれど、抑え切れなかった魔力が体外へと一気に放出され、全方位に向けた衝撃波となった。


「「「うおっ!」」」


「「「うわっ!」」」


 結構な人数の驚きの声が聞こえてきた。


「ちっ! お前!」


 近くから一際強い声が聞こえてくる。

 マズい。

 直ぐに両手を上げて無抵抗を示す。


「待て! 今の誤解」


 言い切る前に体を倒す。

 その上を剣が素通りしていく。


「危ないだろ! いきなり斬りかかるなんて! スパッといくところだったぞ! スパッと!」


 勢いに乗って、そのまま振り返る。

 剣――というか大剣を振り切った姿勢の、茶髪の筋骨隆々な三十代後半くらいの男性が居た。

 その筋骨隆々の男性が大剣を構えて口を開く。


「斬りかかって当たり前だ! そもそも先に手を出したのはお前だ! 衝撃波を放つとは、危ないのはお前の方だろ!」


「だから、それは誤解だって言おうとしたところで斬りかかってきたんだ! 寧ろ、危ないのはお前の方だ! 人の話を聞かずにいきなり襲いかかってきたんだからな! それに、俺が出したのは衝撃波であって手は動かしていない! つまり、先に手を出したのは斬りかかってきたお前の方だ!」


「違うわ! それに、そういうことなら出したのは剣であって、手ではない! お前流に言えば手を出したとはならない!」


「くっ。確かに。だが、それなら衝撃波の方も手ではないよな? 手を出したことにはならないってことだよな?」


「……確かにその通りだ。……どうやら、俺たちはお互いに何か誤解をしていたようだ」


 そう言って、筋骨隆々の男性が構えを解く。


「お前たちも、大丈夫だ」


 筋骨隆々の男性がそう声をかけた相手は俺ではない。

 周囲に居た人たちにで、全員構えていた武具を下ろす。

 あっぶな。そういえば、他にも人が居たんだった。

 ザッと見た感じ、十人以上が居そうだ。

 その誰もが一流とか歴戦といった雰囲気を醸し出している。

 下手に戦っていたら負けていたかもしれない。

 良し。気を取り直してやり直そう。


「……最初から始めよう。俺は先ほども言った通りだ。そちらは一体なんなんだ?」


「そうだな。こちらの素性を明らかにした方が話は早いか。俺たちはそこの町で警備をやっている傭兵団『日の出傭兵団サンライズ・マーセナリーズ』だ」


 ……よ、傭兵団?

 どうしよう。出会わなかったところからやり直したい。

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