一つに集中すると他が見えなくなる時だってある
暗殺集団の団長の案内は特に必要なかった。
アンル殿下が居るという魔道具研究所の町――「マアラ」という名だそうだが、有名な場所だそうだ。
反乱軍の方でも攻め落としてリミタリー帝国側の力を削ぎたいと思っている場所の一つに数えられているらしく、好都合だとセカンは言う。
ただ、有名な場所であるにも関わらず、そこにアンル殿下が居るというのを調べられなかった反乱軍が力不足なのか、それともリミタリー帝国が知られまいと徹底していたのか……まあ、未だにリミタリー帝国側だと思われている暗殺集団であるからこそ情報を得られたと考えれば、徹底していた、ということなのだと思う。
それに、どちらにしても、判明した以上は行くしかないのだ。
俺からすればどちらでもいいのだが、これがリミタリー帝国にとって――特にエラルとワンドにとって痛手となるのなら、喜んでやらせてもらうだけである。
ただ、そう簡単ではないだろう。
暗殺集団の団長によると、「暗黒騎士団」から三人が警備に来ているそうだ。
そもそも、一つの町を攻めるにしても、こちらの人数は……セカンたちが五十人くらいに、暗殺集団が十人くらい、トゥルマたちはネラル殿下に執事とメイドを足したとしても十人を超えたくらいで、百にも満たない。
圧倒的に数が足りないのだ。
……いざとなれば、俺の魔法で町ごと燃やし尽くしてもいいのだが、それはさすがにアンル殿下を助け出したあとでないといけない。
まあ、これは最終手段。
実際はこのまま攻めるつもりはない。
人数に関しては、この数日もしない内に反乱軍が合流する予定である。
そういう指示を出しているそうで、今向かっている俺たちはどちらかといえば偵察として――だが、いけそうならそのままアンル殿下救出を行う、といったところだ。
ただ、セカンたちが問題としていることが一つ。
アンル殿下が魔道具研究所の町・マアラに捕らえられているとして、どこに? である。
場所がわからなければ捜索に時間がかかり、最悪間に合わなかった、なんてことにもなりかねない。
できることなら潜入して救出、あるいは場所を特定して迅速に行動したい、というのが本音だろう。
といっても、それはセカンたちとしては問題ではあるが、俺は特に問題であると思っていない。
何故なら、アブさんが居るからだ。
帝都脱出の時のように、事前に確認してもらえばいいのである。
という訳で、状況から先行して調べておいた方がいいと判断し、セカンたちに話を通してアブさんと共に空から向かうことにした。
―――
場所は聞いた。
行き方も。
一応、方向も。
これで迷う訳なんてな――。
「アルム。こっちだ」
「……知っている」
本当は知っているつもりだった。
いや、そんなことはない。
アブさんが一緒に居なくても、辿り着くのが数分程度遅れていただけに過ぎないはずだ。
いや、言い過ぎた。
数時間くらいだ。
誤差のはず。
………………。
………………。
ごめん。見栄を張った。
ありがとう。アブさん。
一緒に居てくれて、案内してくれて、心からの感謝を。
ともかく、辿り着いた。
魔道具研究所の町・マアラ。
如何にもここが重要であり、許可なく入ることは許されない、とでも言わんばかりの高く分厚くの堅牢な壁に囲まれ、パッと空から見た感じ、普通の町のようにも見えなくはないが、大きな建物が多い気がした。
大きな建物に関しては、どことなく見た覚えがあるというか……帝都脱出の際に魔区内にあった建物と酷似している。
あとはなんというか不気味な雰囲気とでも言えばいいのか、迂闊に近寄っては……入ってはいけない何かがあるような気になってきた。
……慎重にいかないといけない。
気を引き締める。
「あそこのようだな」
アブさんはどことなく気楽だ。
多分、透明で普通は見えないからだろう。
「それじゃあ、いつまでも空に居たら俺は見つかるし、地上から周囲を回って様子を窺う。どこかに入れる場所があるかもしれないし。アブさんには」
「わかっている。なんだったか……そうそう、アンルだったな。容姿も聞いている。その者を見つければいいのだろう?」
「ああ、場所だけでも把握しておきたい。助け出すとしても、アンル殿下の安全性を考慮して、セカンたちと合流してからだ。そのために合流までの間、できるだけ情報を集めておきたい」
「任せてもらおう。必ず見つけてくる」
「頼む。ただ、気を付けろよ。三人居るという『暗黒騎士団』はそれなりに強いからな」
「……ふっ。アルムよ。某をなんだと思っている。ダンジョンマスターよ。そこらの雑兵より強いからといって、某に敵う訳があるまい」
自信満々なのはいいが、それは即死が効いたらだよな?
もし効かなかったとして、その場合はどうするのだろう?
その骨身で戦うのだろうか?
ポッキリいきそうだが……まあ、何かしらの手段があるのだろう。
アブさんが魔道具研究所の町・マアラへと潜入しに向かっていく
その間に、俺は地上に降り、魔道具研究所の町・マアラの周辺を回る。
見た目通りの堅牢さに加えて、周囲を巡回している者たちも居た。
ただ、兵士という訳ではなさそうだ。
なんというか、兵士のような統一感がない。
バラバラの鎧や服、武具類も。
そのことが少し気になって、近くにある木々の中から様子を窺っていると――。
「何者だ?」
見つかっちゃった。




