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賢者巡礼  作者: ナハァト
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生理現象は抑えられない

 シュライク男爵領軍を加えた反乱軍は、国軍を相手に圧倒的だった。

 確かに、国軍の編成は「スキル至上主義」によって、所謂有用スキルを持つ者で固められているのだろう。

 しかし、結局のところ、どれだけ有用なスキルを持っていようとも、使い手次第。

 何ができるのか、何ができないのか。

 どれだけ使い込み、使いこなし、理解を深めているか、だが、そもそも反乱軍にだって有用スキル持ちは居るのだ。

 特にゼブライエン辺境伯とシュライク男爵、マールさんが特出して強い。

 ナックルダスターを拳に嵌めたゼブライエン辺境伯の一撃は容易に人を殴り飛ばし、シュライク男爵は目で追うのも難しい速度で剣を振るって次々と斬り払っていき、マールさんは大剣を両手に一本ずつ持ち、片手剣のように振るって無双していた。

 ポーラちゃんは、俺と「新緑の大樹」で護衛して、テレイルの天幕でお留守番である。

 その内、シュライク男爵がこの場に居る国軍の総隊長に会いに行くと飛び出した。

大丈夫だろうけど大丈夫だろうか? と思っていると、ポーラちゃんが遊び道具のように手に持っていた、「ツァード」で回収した通信魔道具から急になんか命令が聞こえてきたのには驚く。

ポーラちゃんが返答したいと言ってきたので、俺が魔力を流したのだが……なんか怖いことを言っていた。

 うしろに……いや、現実になったら怖いから、これ以上深く考えるのはよそう。

「新緑の大樹」も同意見。

なので、別のことを口にする。


「いやもう、ゼブライエン辺境伯といい、シュライク男爵といい、マールさんといい、強過ぎる」


「……俺からすれば、アルムもそう変わらないというか、間違いなくあっち側だと思うが?」


 戦場の様子を見ながら俺がそう結論付けると、「新緑の大樹」のリューンさんがどこか呆れ顔を俺に向けてそう言ってくる。


「いや、俺にあの動きは無理。身体能力が貧弱過ぎる」


「それを補って余りあり過ぎる魔法の使い手だろうが」


「火属性だけな。今は。それも失敗が多いし、練習が必要だ」


 なので、俺は練習と援護を兼ねて、反乱軍の後方から国軍の後方に向けて魔法を放つ。

 まずは初歩の初歩だと火の玉を放つのだが……ほぼ失敗。

 火の玉ではなく大玉を雨のように降らせてしまった。

 多少成功率は上がったが、未だ失敗が多いため、要練習だ。


「今はって……まだ増える予定があるのかよ。……というか、いつまで火の玉撃ってんだ?」


「いつまでと言われても、これくらいならあと一日中は軽く撃てるな。いや、それは言い過ぎか。さすがに食事時だと手が使えないし、睡眠時だと魔法を意識して眠れない。トイレだって……あっ、トイレ行きたいから、あと数分くらいなら我慢して撃てるが?」


 お前は間違いなくあっち側だ、と「新緑の大樹」のリューンさんの目が告げていた。

 トイレ休憩で火の大雨を降らせるのをやめた途端、国軍から投降者が相次ぎ、それほど時間がかからずに反乱軍の勝利で終わる。


     ―――


 国軍を破り、「ツァード」に辿り着いたのは、翌日の陽が昇ってからだった。

 待ち望んでいたかのように「ツァード」の門には多くの人が待っていて、思い思いに無事を確かめ合う。

「新緑の大樹」にお礼を言っていたので、おそらく人質となっていた人たちだろう。

 この日ばかりは「ツァード」の至るところで宴が開かれる。

 それはシュライク男爵の屋敷に集められた俺、テレイル、リノファ、ゼブライエン辺境伯も同じで、シュライク男爵一家のもてなしを受けることになった。

「新緑の大樹」に関しては、今護衛は必要ないので、助けた人たちからの要望もあってそちらの方に顔を出しに行っている。


「さあ、飲んでくれ! いい酒だぞ!」


「は、はあ」


「遠慮するな! 凄腕の魔法使いであるお前が空を飛んで妻と娘、それとこの街の者たちを助けてくれなければ、こうして喜んでいられたかわからないんだ!」


 これは、シュライク男爵に絡まれていると判断していいのだろうか?

 既に頬が赤いし、執拗に酒を勧められる。

 一応、スキルを授かれば一般的に大人という区分のため、酒を飲むことは許されているのだが……実際にこれまで飲んだことはない。

 跡継ぎは馬鹿みたいに飲んでいたが。

 なので、酒に強いのか弱いのか、酔うとどうなるかがわからない。

 特にとめる人も居ないので………………いざ!


 ………………。

 ………………。

 翌日。美味い美味いと言いながら飲み続けていたかと思ったら突然眠った、と教えられた。

 なるほど。記憶がまったくない。

 それで妙に頭が痛いのかと納得した。

 二日酔いというヤツだな。

 俺に宴の記憶がないとわかると、シュライク男爵一家から改めてお礼を言われた。

 大丈夫。素面だからこれは憶えていられる。

 ただ、二日酔いになったのは俺だけではなく、大多数だった。

 まあ、仕方ない。

 それに、戦いはまだ続く。

 ここで終わりではないのだ。

 国軍を倒したといっても、それはシュライク男爵領に派遣された分だけで、全体で見ればまだまだ残っているし、騎士団と三特殊部隊といった主力のような存在も今後は出て来るため、戦いはまだまだ厳しくなる。

 適度な休息は必要だと数日「ツァード」で過ごしてから、シュライク男爵領軍を加えて、反乱軍は王都に向けて出発する。


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