事情を聞いて、主観が入ることだってある
暗殺集団の団長が戻ってきたので、早速話を聞――きたいが、まだゴミ回収中である。
「悪い。まだゴミ拾いの依頼中だ」
「いや、ゴミ拾いの依頼中って……ここまで?」
「ここまで? どこまで?」
暗殺集団の団長が不思議そうにしている。
俺も不思議そうにしている。
すると、暗殺集団の団長が俺のうしろを指し示す。
振り返ると、元王都・オジナルの外壁が小さく見えた。
いつの間にか、随分と離れていたようである。
「……さすがにここまではやり過ぎでは? 別にゴミらしいのもないし」
暗殺集団の団長がそう言う。
まあ、元々ゴミが少なくて探している最中というか、集中していたから、いつの間にか……ということだろう。
それに、暗殺集団の団長が言うように、とりあえず目に見える範囲にゴミは見えない。
……終わりってことでいいか。
暗殺集団の団長と共に元王都・オジナルに戻る。
―――
関係者は直ぐに集められた。
利用しやすいということで、集まった場所は冒険者ギルドの会議室。
俺(アブさんも来ていて、窓の外で待機中)、セカンたち、暗殺集団、ネラル殿下とトゥルマたちと、揃ったところで、暗殺集団の団長に尋ねる。
「それで、居場所は判明したのか?」
「ああ、見つけてきた」
暗殺集団の団長がハッキリとそう言うと、セカン、ネラル殿下、トゥルマが期待の表情を浮かべた。
だが、暗殺集団の団長の目というか雰囲気は、どことなく良くないことを伝えてくる。
「だが、救出となるとそう簡単にはいかないかもしれない」
「……どういうことか、教えてくれるか?」
セカンの問いに頷いた暗殺集団の団長が口を開く。
―――
俺の名は……いや、名は名乗れない。
何故なら、俺は闇に生きる者。闇で生きる者。
暗殺者。
それも暗殺集団の長。団長。
光り輝く表側だけではなく、蠢く闇ばかりの裏側まで把握している存在。
……それが俺だ。
だからといって希望をなくしている訳でも、くだらないと世を嘆いている訳でもない。
どちらも知っているからこそ、本当に大切なことが何かを知って――。
―――
「いやいや、待て待て」
一旦、滑るように開いていた暗殺集団の口を遮る。
「それ、長くなりそう?」
「長くなりそうというか、こういう始まり方の方が雰囲気は出ていいかな? と」
「出さなくていいから、さっさと話せ」
うんうん、と暗殺集団の団長以外が同意するように頷く。
暗殺集団の方は特に力強く頷いていた。
……普段からこうで、暗殺集団の方は辟易しているのかもしれない。
「……わかった。仕方ない」
―――
そんな闇に生きる俺に任務が与えられる。
行方不明となったアンル殿下がどこに居るのか――それを見つけ出すことが俺に与えられた任務だ。
まったく……簡単な任務ではない……任務ではないが、まあ、俺にしかできないことなら、俺がやるしかない。
―――
「あと、簡潔にしろ」
そう付け加えておく。
―――
殺気!
……い、いや、大丈夫だ。俺は暗殺者。暗殺される方ではなくする方だ。
こ、これくらいの殺気……怖くなんかない。
だ、だが、話を進めよう。そう、サクッと簡潔に。
アンル殿下の場所自体は直ぐ判明すると確信していた。
何しろ、俺が――俺たち暗殺集団が反乱軍側に寝返ったことはまだ明らかになっていない……リミタリー帝国側だと思われているからこそ、情報を得るのは簡単なのだ。
元王都・オジナルを出て、リミタリー帝国側の情報を扱っている者が居る町へと向かい、まずは合言葉で敵ではないことを示す。
「……リミタリー帝国は?」
「潰れろ」
「……皇帝は?」
「永久に禿げろ」
「……いいだろう。何が知りたい?」
―――
「いやいや、待て待て」
我慢できずに一度とめる。
「何、その合言葉は? 逆じゃない、普通? なあ、逆だろ?」
「これは、あえて、そういう風にしているのだ。あえて、悪し様に言うことで、味方だと証明しているのだ。そう、あえて。リミタリー帝国側が言いそうなことだとバレてしまうため、あえて、な」
確認のために暗殺集団を見る。
その通りだと頷かれた。
……思っている以上にリミタリー帝国は恨まれている気がする。
続きを聞く。
―――
ごほんっ。ともかく、情報を得ることはできた。
これは、俺が優秀だからだろう。
きっと、そうに違いない。
だが、情報を手にしたとして、そのまま鵜呑みにする訳にもいかない。
裏の世界なら尚のこと。
裏取りも行う。
優秀な俺だからこそ、完璧な仕事ができるのだ。
アンル殿下は、リミタリー帝国内にいくつかある魔道具研究所の一つ――町そのものが魔道具研究所であるところに捕らえられているらしい。
ここでできる者であれば、潜入をしてアンル殿下の姿を確認する、あるいは救出するといった行動に出るだろう。
もちろん、俺もこの魔道具研究所の町に潜入することはできる……できるのだが、今は時期が悪かった。
そのことについての情報もしっかりと得ている。
俺はさらにできる者なのだ。
時期が悪い――それは、帝都の方で問題があったらしく、ここから多くの魔道具師が帝都に向かったそうなのだが、その影響で魔道具研究所の町の警備が高まっているのである。
具体的に言えば、普段から警戒は厳重であるが、今は「暗黒騎士団」が三人も滞在しているのだ。
それを知っているからこそ、俺は無理に潜入することはしない。
情報を持ち帰ることにして、元王都・オジナルへと足を向けた。
―――
「そうして、今に至る」
暗殺集団の団長がそう締めくくる。
その見えている目だけで、これだけのことができるのだとドヤッているのがわかるが、それでもここまでの情報を持ってきてくれたので、素直に感謝の言葉を伝えた。




