まだ早いことだってある
俺がそれに気付いたのは、鍛錬を見ている時だった。
偶々見に行ったのだ。
というのも、大体の時間、俺はネラル殿下、執事とメイドを合わせて、行動を共にしている。
でも、四六時中という訳ではない。
ネラル殿下はネラル殿下でやるべきことがある。
主に、共に戦うことになる元周辺国のお偉いさんと顔を合わせる、とかだ。
そういうことをしている、と執事から教えられた。
まあ、そっちの方はもう面倒と感じるので、自ら触れようとは思わない。
つまり、そういう時以外は、大体一緒に居るということだ。
一緒に居る時は行動に制限がかかるというか、さすがにその時に冒険者としての依頼を受ける訳にはいかない、といったところである。
それに、数日も経てば行きたいところは大体なくなるので、鍛錬でも見てみるか、とネラル殿下、執事とメイドと共に向かっただけ。
軽い気持ちだった。
冒険者ギルドのどこでも……は言い過ぎかもしれないが、それでも大抵の場合は敷地内に鍛錬場がある。
利用に関してはそれなりに規則が定められており、使う人は使うし、使わない人は使わない、という感じだろうか。
大体は新人の頃に使って、あとは大体実戦で強くなっていく――と冒険者たちの一人が言っていた。
セカンと冒険者たち、トゥルマと兵士たちはその鍛錬場を利用している。
その様子を見に行ったのだが――。
「「「うおおおおおっ! お前らぁ!」」」
「「「はあああああっ! 貴様らぁ!」」」
いや、うん。気合が入っているな、とは思った。
思ったのだが……何故か敵意も多少なりとも含まれているというか、さすがに殺すまではいかないが、それでも数日は身動きできなくしてやる、という意志を感じたのだ。
……セカンも、トゥルマも。
……冒険者たちも、兵士たちも。
いや、正確には、冒険者たちの一部、だろうか。
他の冒険者たちは関係なさそうにというか、こいつらは……みたいな雰囲気である。
これはさすがにおかしいぞ、と問い質した結果――トゥルマと兵士たちに起こったことを知り、「黎明の破壊騎士団」が発足され、「夜明け騎士団」と対立していることがわかった。
「サファイアちゃんが居る『輝く宝石』こそ至高だ」
「ローズさまが率いる『華やかな花』こそ最強です!」
互いにセカンとトゥルマを筆頭にして睨み合う。
バッチバチである。
鍛錬に熱が入っているように見えるが、それが敵意ってどうなんだろうか。
それに、内戦を起こす前に、共に戦う側で内戦を起こしてどうする。
だから、俺はネラル殿下にこう言っておく。
「ああいう大人になってはいけないよ」
ネラル殿下は素直に頷いた。
これで安心である。
「でも、あそこまで人を変えるお店というのは、どういったお店なのか少し気になります」
おい! 興味を持ってしまっているぞ!
それはマズい! とにかくマズい! それだけはわかる。
ネラル殿下がお店に行ってみろ。
可愛い男の子が来たとたちまち人気者となり、お店が取り合う……ならまだマシかもしれない。
ネラル殿下はリミタリー帝国の殿下である。
それで、ここは元周辺国とは言え、形式上はリミタリー帝国領土なのだ。
上から数えた方が早い立場だとわかれば……本気で動いて狙いにくるのが現れることになるかもしれない。
………………。
………………。
俺、執事、メイドは視線を合わせて……頷き合う。
とりあえず、まずはネラル殿下にこれ以上「夜明け騎士団」と「黎明の破壊騎士団」の争いを見せないようにして、この場から立ち去ろう。
教育に良くない。
それと、ネラル殿下の興味が他に向くように、執事とメイドと力を合わせて意識を他に逸らしていこう。
今日を振り返った時、興味を持ったことを思い出さないように、他の思い出で満たしていこう。
俺、執事とメイドは……頑張ったと思う。
できる限りのことはやったが……効果はあったと期待したい。
将来はわからないが、まだ早いことだけは確かである。
あと、執事とメイドから懇願され、「黎明の破壊騎士団」にも注意を入れておいた。
こっちも効果は……多分ない気がする。
―――
普段は問題ない。
何事もなく過ごしているのだが、お店のことになると途端に双方に分かれ、いがみ合うようになった。
もう知らんと放置している。
ネラル殿下の前でそうしなくなっただけ、マシだろう。
そこら辺のことは又聞きというか、「夜明け騎士団」のメンバーがパーティメンバーに居る冒険者たちが色々と教えてくれる。
俺としては別に知りたくもないというか、知る必要あるか? と思うのだが、要は情報共有して一緒に対処してください、と巻き込ませようとしているようだ。
気持ちはわかるので聞くぐらいはするが、俺を矢面に立たせないで欲しい――という要望は聞き届けてくれなかった。
そうして、十日くらい経った日。
元王都・オジナルで買える食品や食事は大体買えた。
一つの場所で手に入るのは、ここら辺が限界だろう。
あとは、また別のところに行った時だな。
そうして、ある意味俺なりの観光は終えたので、冒険者ギルドで街道のゴミ拾いの依頼を受けることにした。
元王都・オジナルの外に出て、渡された袋の中にゴミを見つけては放り込んでいると、不意に声をかけられる。
「戻ったぞ」
何が? と視線を向けると、暗殺集団の団長が居た。




