自分だけ立っているっていたたまれなくない?
先に自分のことを簡単に伝える。
特に何も引っかかることはないと思っていたが、そうでもなかった。
「通りすがりの凄腕魔法使い」はさらっと流されたのに、冒険者ランクが「F」であることには納得できないようだ。
「最近登録したんだな」
という話が出て、みんながそれで納得している。
実際はそうではないし、ただ冒険者活動を積極的にしていないというだけのことなのだが……そういうことにしておいた。
まあ、現在ランク「F」であることに間違いはないのだし、そういうことでいいのだ。
一応、あとで文句が出ても困るので、言質は発せず、頷きもせず、曖昧に微笑んでおくだけにしておいた。
それに、この場の自己紹介で優先されるのは俺ではない。
相手の方だ。
俺だけではなく、この場に居る者たちに一人ずつ紹介されていく。
十人くらいの兵士は………………駄目だ。多過ぎる。一度に覚えるなんて無理。
兵士A、B、C……さすがにこれで覚えるのは失礼だな。
頑張ってみるにはみるが無理な気がする。
とりあえず、今は反乱軍の兵士ということで覚えておこう。
次は、執事服の男性とメイド服の女性。
どちらも二十代後半くらいの美男美女で、殿下の専属だそうだ。
それだけではなく、夫婦でもある。
仲睦まじい姿も見せられ、俺は末永くと思ったのだが、主に冒険者たちの中から殺意と「爆ぜろ」という呪詛のような呟きが聞こえてきた。
呟いたのは「夜明け騎士団」の……いや、やめておこう。
その執事とメイドの夫婦から、あの時は本当に助かりました、とお礼を言われる。
いや、もう、ほんと、あの時はそういう意図がまったくなかったのでお礼を言われるような……でも、パンを踏まれた恨みでというのも今更正直に言うのもちょっと……。
とりあえず、感謝の言葉を受け取った、と伝えておく。
その次は、白銀の鎧の男性。
三十代くらいで、黒髪の整った顔立ちに、白銀の鎧が妙に似合っている。
名は「トゥルマ」。
「さん」付けで呼ぼうとしたら、セカンを呼び捨てにしているのに自分が「さん」付けなのは許容できない、とセカンと同じように呼び捨てで構わない、とされた。
セカンの部下たちと似たようなというか、直接指導も受けていたそうで、セカンを師としているそうだ。
元近衛騎士団の一員だったらしく、相当強いらしい。
反乱軍における中核の一人。
最後に、殿下。
目深に被ったフードが取られると、金髪の愛らしい顔立ちが出てきた。
十二歳の男性というか男の子であるが、それでもローブの下に着ている服は見るだけで高級であることがわかる。
俺のドラゴンローブを掴んで放さないといった仕草が多少なりとも子供っぽいとは思っていたが、まさか十二歳とは……。
ただ、そこらの十二歳でないのは、殿下と呼ばれていることから察せられる。
その名は「ネラル・リミタリー」。
リミタリー帝国・第三皇子である。
さすがに、と言うべきか、共に居たトゥルマたちだけではなく、殿下の時はセカンと部下たち、冒険者たちを含めて、この場に居る者たちの多くが臣下の礼を取っていた。
冒険者たちはやり慣れてないようで、近くに居る人の見様見真似、という感じでぎこちないが。
もちろん、俺も空気を読んで見様見真似でやろう――としたのだが、殿下がここは公的な場ではありませんし、恩人であるあなたにそのような態度を取られるのは逆に委縮してしまいます、と臣下の礼を取ることが許されなかった。
圧力である。
いや、確かに厳密に言えば臣下ではないが……ただ、それだと立っているのが俺と殿下だけという状況になって、さすがにいたたまれない……と気付いて欲しかった。
そうして自己紹介が終わったあと、話し合いに関しては普段通りの方が話は早いと、そうすることになった。
―――
こちらからはもうそれほど話すような内容は……まあ、あるのはあるが、セカンを含めた何人かの個人的な話になるので、それはなしの方向となっていた。
そうなると、必然的に話の内容は殿下側――反乱軍の話となる。
殿下を旗頭にした反乱軍は、元周辺国を回り、戦力を着実に増やしていた。
ただ、それでも勝てるかどうかはわからない。
それだけ、リミタリー帝国の軍事力は高く――それを支えている魔道具の力は侮れないそうだ。
そして、その魔道具のために多くの人が犠牲になっている。
それも元周辺国の人々が。
俺とセカンたちが捕らわれて魔力を吸い取られていたのは一端でしかなく、それもまだ軽い方で、酷いモノだと人体実験で散々弄んで使い潰したあと、死亡すれば新しいのを用意する――といったことが行われているそうだ。
それでもリミタリー帝国は――いや、正確には前皇帝エラル、現皇帝ラトール、「暗黒騎士団」団長ワンドを筆頭にして、リミタリー帝国の上層部の多くはそれらの行為を問題視しておらず、当然気にもとめていない。
……本当に何も変わっていないようだ。
闇のアンクさんの記憶の中にあるまま。
なので、反乱軍の目的はリミタリー帝国の打倒ではあるが、より正確にはそれに加担している上層部の壊滅が最終目的、といったところである。
そのための戦力集めを今行っている最中ではあるが、ここに来たの別の目的もあった。
「兄上を……本来の第一皇子である『アンル兄上』を探しているのです」
殿下がそう口にする。
その表情は、必ず見つけ出してみせる――とそう決めた、ある種の覚悟のようなモノがあった。
こんな十二歳で………………というか、兄上ってことは殿下と呼ばれるのがもう一人居るのか?
……さすがに、殿下A、殿下B、じゃ駄目だよな?




