素でできそうな人って居るよね
別に何かに手間取るような依頼でもなんでもなく、特に何かに襲われるといったこともなかったため、無事に薬草を採取した。
もちろん、前回の反省点を踏まえて、適量である。
これで問題ない、とアブさんと親指を立て合う。
元王都・オジナルに直ぐ戻り、冒険者ギルドへ。
これで完璧だと自信満々で報告と提出。
「普通はできて当然です」
受付嬢からの辛辣な言葉を頂いた。
いや、まったくもってその通りである。
寧ろ、延期やミスする方が稀だろう。
そんなの普通は居ない……あっ、俺のことか。
反省しておこう。
けれど、これは逆を言えば、薬草採取で良かったとも言えなくないだろうか?
もしこれで何かしらの本当の意味で失敗できないような依頼だった場合、どう考えても取り返しのつかないことになる確率は非常に高い。
今、薬草採取という依頼でそれに近い経験を得たことは、今後のためになると思わないだろうか?
常に何が起こっても対処できるように、心構え的なことはしておく、という教訓に――。
「なりません」
ここの受付嬢は辛辣である。
……もしかして、そうなのか?
冒険者ギルド・総本部の受付嬢たちのように、何かしらの役を演じているというか……。
「……はあ? 何を言っているのですか? 総本部の受付嬢がそのような真似をするはずがありません。総本部の受付嬢は、私のような支部の受付嬢からすれば憧れの存在なのです。妄言は結構ですが、その前にそこらの壁やテーブルの角に頭を打ち付けてみるのはいかがですか? もしかすると、現実に戻ってくることができるかもしれませんよ?」
ガチで辛辣である。
もうそのままで総本部の受付嬢できるよ。
きっと一定数に需要があるよ。
なんなら推薦してもいい。
ただ、俺には意味がないので、そこら辺のことはもう口にせず、触れないことにした。
少しだけ肩を落として、冒険者ギルドの会議室に向かう。
―――
ノックをして、名乗り、冒険者ギルドの会議室の中に入る。
アブさんは人の気配の多さを察したとかで、窓の外から中の様子を窺うそうだ。
俺だけが中に入る。
大勢居た。
セカンと部下たちに、冒険者たち――それと、殿下と執事服の男性とメイド服の女性、白銀の鎧の男性は一度見た顔であり、あと十人くらいの兵士っぽいのが居る。
さすがに会議室も満員という感じだ。
「戻って来たか」
セカンがそう言って、こちらに来いと手招きする。
「邪魔なら出て行くが?」
「いや、問題ない。寧ろ、丁度帝都から脱出してここに辿り着くまでのことを話し終わったところだ」
なるほど。こちらの状況は大体話した訳か。
だが、それだけでは足りない。
まだ「夜明け騎士団」と暗殺集団について、きちんと話さないと――と思ったのだが、セカンの視線は余計なことは言わないように、というモノだった。
目力がすごいので、黙っていようと思う。
「キミのおかげでセカンさんたちという大きな力を得られることができた。ありがとう。あの時、殿下がキミに協力を求めようとしたのは間違いではなかったということだな」
そう声をかけられる。
誰かと思えば、白銀の鎧の男性だった。
そういえば、この人はあの時反対の立場だったが、それについてはあの時同様に何も思うところはない。
あの時は当然の反応だと思っているからだ。
「まあ、こっちの事情とそっちの事情が噛み合っているだけですよ」
「その事情は窺っても?」
「悪いが、迂闊に話せる内容ではないから無理だ。だが、俺がエラルとワンドの敵であることは間違いない」
「前皇帝と『暗黒騎士団』の団長か」
白銀の鎧の男性は何か思うところがあるように呟き、殿下に視線を向けた。
ああ、そういえば、殿下と呼ばれているのなら、その血縁者である可能性が高いか……というか、確認するように視線を向けるってことは、間違いなく血縁者ということになるな。
そう思っていると、殿下の方から俺に声をかけてくる。
「私は立場で言えば、前皇帝エラル・リミタリーの孫にあたります。殺しますか?」
俺のドラゴンローブを掴んでいた時のような無邪気さのようなモノはなく、今はどことなく気丈に振る舞おうとしているように見えた。
下手をすれば、自分の命は奪ってもらっても構わないので協力をお願いします、とか言いそうな雰囲気すらある。
相応の覚悟を持っている、という感じだ。
ただ、それは早計というモノ。
「安心しろ。別に一族全員とか思っていない。俺の狙いはあくまでエラルとワンド――個人に向けてのモノだ。まあ、それを邪魔するというのであれば例外だが」
俺も、意志を変えるつもりはない、と殿下を見る。
目深に被ったフードで目は見えないが、なんとなく視線は合っているような気がした。
そう思っていると、殿下が肩の力を抜くのがわかる。
「……安心してください。あなたの行いをとめる気はありません。祖父も団長も、それだけの行いをしてきている人だとわかっていますから」
「そうか。……ところで、いい加減きちんと自己紹介し合うべきだと思わないか?」
「そうですね。それはとてもいい提案だと思います」
にっこりと、殿下は笑みを浮かべた。




