相手がそう思っている時もあるよね
俺が殿下と口に出すと、フードを目深に被っているので全体は見えないが、唯一見えている口元が笑みを浮かべる。
「私が誰かわかる。やはり、あなただったんですね。セカンたちを助け出してくれたのは」
確信を持ってそう言ってくる殿下。
いや、確かにそうだけど……今はちょっと話す時間も惜しいのだが……。
「……とりあえず、俺のローブを放してくれませんか?」
「セカンからは非常に強い者が協力してくれるとありましたが、あなたのことで合っていますか?」
うん。こっちの話を聞いてくれない。
だからそのガッチリとドラゴンローブを掴んだ手をまずは放して欲しいのだが。
どうすればいい? ……というか、あの時居たヤツらはどこだ?
保護者~! 保護者の方~! 迷子の殿下がここに居ますよ~! 俺のドラゴンローブは迷子になった子が掴むモノではないんですけど!
周囲の様子を窺ってみるが、あの時居た白銀の鎧を身に付けている人物の姿は居ない。
そういえば、あの時行動を共にしていた執事服の男性とメイド服の女性も居ないな。
……ガチで一人なのか? まさか本当に迷子?
少なくとも――というか、仮にも「殿下」と呼ばれるような人物を一人で行動させるなよ。
もしくは、それだけ活発なのか……もしそうなら苦労していそうだな。
執事服の男性とメイド服の女性に、白銀の鎧を身に付けている人物って……。
「合っているかどうかはセカンに直接聞いて欲しいかな。とりあえず、俺は冒険者としての依頼を受けているから、そっちの方に行かせて欲しいんだけど? だから、その手を放して」
「私はセカンがどこに居るか知りません。ついでに言いますと、共に居る者たちもどこに居るのか知りません。困っています。本当にみんな、勝手に居なくなって……探す身となる私のことも考えて欲しいものです」
……うん。アレだ。自分の方が迷子であるとわかっていないタイプのようだ。
殿下の口が、遺憾です、という形を表している。
これは……どうしたものか。
助けを求めるように、空中を漂うアブさんを見る。
アブさんは、さて採取場所はどこかったかな? と元王都・オジナルの外を見ていた。
いや、つい先ほどまでそんな素振り見せていなかったよな?
寧ろ、しっかりと付いて来い! と言わんばかりに迷うことなく俺を引っ張っていこうとしていたよな?
というか、いつまで確認しているつもりだ?
確認、直ぐ終わるよな?
ちょっ、こっち見ろよ――と思うが、アブさんは決してこちらを見ようとしない。
……くっ。そもそも目玉がないから見ているかわからない。
角度か? 角度で判別しろってことなのか?
駄目だ。アブさんは頼れない。
知らないというか、まともに接触していない人が相手だとこうなってしまうのはわかっていた。
やはり、頼れるのは己だけということか。
だが、この状況……素直にあなたの方が迷子ですよ、と伝えるべきなのだろうか?
それとも、一緒に探して相手の方から伝えてもらうべきなのだろうか?
……いや、相手の方が伝えていないとは限らない。
言っているが認めない……そう思わない、という可能性が高い。
………………。
………………。
なんで俺がこんなに悩まないといけないのだろうか?
俺よりもっと殿下と身近な人に悩んでもらおう。
「……わかった。今からセカンのところに連れていくから大人しく付いてこい」
「よろしくお願いします」
うん。どことなくにこやかに言ってくるが、反省の色というか迷子になっている色がまったくないよな。
その自覚がないのだから仕方ないが……どこか納得できない。
「というか、ちゃんと連れていくから、ローブから手を放してくれない?」
「私ここに来るの初めてなんですよね。いいですよね。初めてのところって。どこを見ても新しい何かに見えて輝き、自然と楽しくなってきます」
……まあ、そういう気持ちを抱くのはいいことだと思う。
けれど、そのままふらふらと動いてしまったのかな?
それが今に繋がっているのかな?
……それがわかったところで、まったく何も解決していない。
いや、違う。解決していないから、丸投げするんだった。
戻る羽目になってしまったが、仕方ない。
さすがに殿下を連れて薬草採取に向かうのは……駄目だろうな。
それぐらいはわかる。
確か、セカンは今日冒険者ギルドの会議室で、部下となった冒険者たちと今後の展望について話し合っているはず。
そこに連れていけばいいか……大丈夫だよな? サファイアちゃんが勤めるお店に行っているとかないよな?
不安が過ぎるが、それしか選択肢がないのも事実。
殿下を連れて冒険者ギルドの会議室に向かい、中に入ると――。
「ん? アルムか? どうした?」
セカンの姿を見て、ホッと安堵する。
「とりあえず、殿下連れてきたからあとは頼む。俺は依頼があるから、それを片付けてくるわ」
殿下をセカンに預ける。
さすがにこの時ばかりは空気を読んだのか、殿下は大人しくドラゴンローブから手を放してセカンの下へ行ってくれた。
「殿下っ!」
セカンが臣下の礼を取る――その姿を見つつ、俺は薬草採取依頼に向かった。
今日こそは……今日中に達成するために。




