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賢者巡礼  作者: ナハァト
34/614

サイド 気付かなくてもうしろに誰かいるかもしれない

 フォーマンス王国・国軍。

 純粋に騎士だけで攻勢された騎士団とは違い、一般兵や雇い入れた傭兵などで構成されている、単純に戦力ではなく、軍隊行動や占領などといった数による力の行使を主に置かれている軍隊である。

 国軍の誰しもが、フォーマンス王国という国、王家に直接雇われている訳ではない。

 寧ろ、王家直属となるとその数は非常に少なく、国軍は国全体が保有する軍隊の総称であり、その中には貴族が抱える各両軍も含まれているため、その規模は直接国の戦力と直結している。

 反乱軍も、そういう意味では国軍であるため、今起こっているのは国の内乱ということだ。

「スキル至上主義」に賛同する者と反対する者の戦いである。

 ただ、その規模は大きく違う。

 フォーマンス王国内では賛同する者――貴族が多く、国軍の規模は反乱軍の倍以上である。

 そのため、テレイル王子、リノファ王女を筆頭して、ゼブライエン辺境伯と一部の貴族が反乱を起こそうとも、国として大した問題だとは捉えられなかった。

 寧ろ、一部の者はこれ幸いと、「スキル至上主義」に反対する者たちが一掃できると考え、国の四方から王都に向けて進軍を開始した反乱軍に対して、国は直ぐに国軍を動かした。

 殲滅を前提とした行動に移る。

 国――この場合は王家と国軍側は、これは直ぐにでも解決する問題だと、誰しもが思っていた。

 何しろ、自分たちの側は「スキル至上主義」によって見出された、優秀なスキル持ちばかりなのだから、と。


     ―――


 シュライク男爵領の領都「ツァード」に派遣された国軍の総隊長は、「統率」という指揮系統に優れたスキルを所持している四十代の男性。

 ただ、この総隊長は嗜虐的な面があり、それはフォーマンス王国騎士団特殊三部隊に組み込まれてもおかしくないほどで、人格的に優れている訳ではない。

 少なくとも、高潔とは呼べないだろう。

 反乱軍と事を構える前だというのに、その頭の中では既に反乱軍を倒し、生き残った女性たちを弄る光景を夢想している。

 その中には、リノファ王女の姿もあった。

 また、国軍総隊長という肩書きによるプライドも高く、反乱軍は格下という認識で、栄えある自分が反乱軍如きと真正面からやり合うのは愚か、と国軍でありながらシュライク男爵領を盗賊のように強襲して、混乱に乗じて関係者を人質にとり、解放して欲しければ反乱軍とやり合うよう、シュライク男爵領軍に命令を出したのだ。

 けれど、総隊長に人質を解放する気は一切ない。

 シュライク男爵領軍共々反乱軍を全滅させるつもりであるため、「ツァード」には最低限の人員だけにし、残るすべてを動かしたのである。

 シュライク男爵領軍も最低限の人員が「ツァード」に残っているため、反抗の危機はあるが、そこを総隊長は気にしていない。

 何故なら、「ツァード」に残した国軍の中に、自分の副官――最近、切れ味鋭い総ミスリルソードを手にした、国軍全体の中でも上から数えた方が早い武力の持ち主が居るため、何が起ころうとも副官に任せておけばいいと考えていた。


 だからこそ、陽が昇りそうな明け方間近。

 他のとは大きさからして違う大きなテントの中で眠っていた総隊長は、慌てふためくように入ってきた兵士からの報告で起こされた時、頭が働かず、意味がわからなかった。


「……は? もう一度言ってみろ。何が起こったと?」


「はい! 反乱軍を引き連れて、シュライク男爵領軍がこちらに攻め込んで来ています! ご指示を!」


「……は?」


 総隊長は意味がわからなかった。

 シュライク男爵領軍は、人質をとったことで完全に掌握しているのが、総隊長の中で確定しているのである。

 なのに、そのシュライク男爵領軍が反乱軍を引き連れてこちらに攻め込んできたのだ。

 総隊長の中で、それは決して許せないことであった。


「貴様、そこで何をぼさっとしている! さっさと全員を叩き起こせ! そもそも、シュライク男爵領軍が反乱軍に合流しようとも、数ではこちらの方が勝っているのだ! 普通にやれば勝てる! まずは迎撃態勢を整えろ!」


「はっ!」


 そして、国軍と、シュライク男爵領軍を含めた反乱軍との戦いが始まる。

 終始押しているのは反乱軍。

 数の違いなど関係ないと勢いづいているのもあるが、この世の終わりかと思うような火の大玉の雨が国軍後方に降り注ぎ、あっという間に追い込まれていく。

 そのことに憤りを覚えた総隊長だが、このまま自分の命も危ないと撤退しようとするが、その前にやることがあると、自身のテントに置いてある通信魔道具を起動する。

 通信魔道具は、手のひらサイズの箱型で、二つで一組。

 かなり希少な素材を使うので数を揃えることはできず、流す魔力量で通信できる距離が決まり、言ってしまえば試作型、初期型のようなモノなので、声を送る機能しかない割に燃費は非常に悪い。

 総隊長は、どうにか使えるといったところであった。

 魔力消費を抑えるため、総隊長は手短に伝える。


「『聞こえているか! 人質を全員殺せ! 見せしめだ!』」


 そう命令を出して、少しすると返答が返ってくる。


「『あたち、ポーラ・チュライク。ちゃんちゃい。いま、あなたのうちろにパパがいるの』」


 場に沈黙が流れる。

 総隊長がいやいやまさか……と恐る恐るうしろに振り返ると――そこには、通信魔道具を遊び道具のように両手で持つポーラを肩に担いだシュライクが居た。

 その手に持つ抜き身の剣がキラリと輝く。


「……シュ、シュライク男爵」


 総隊長がごくりと喉を鳴らす。

 シュライク男爵は、これが本当の返答だとでもいうように酷薄な笑みを浮かべた。


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