意図せずそう思われることもある
俺の冒険者ギルドカードはFランク表記である。
なので、受けられる依頼は大したことはない。
今回受けたのは、内戦間近ということで需要が増えた回復薬――の原料の一つである薬草の採取。
普段よりも報酬の金額が高いのは、それだけ必要だということだろう。
来たる内戦はもう直ぐそこまで来ていそうだと感じつつ、近くの森に来たのだが……。
『………………』
上下を黒衣装に身を包み、顔も目元以外は黒い布で覆っている、如何にも怪しい集団が俺を囲むように姿を現わした。
見えている範囲だと、十人くらいだろうか。
チラリ、と上空を見る。
誰も居ない。
アブさんに薬草の場所を上空から探しに行ってもらっていたのだが……う~ん。戻ってくるまでにはまだ時間がかかるかもしれない。
それまで乗り切れるかどうか……ただまあ、その前に一応――。
「……なんだ? お前らは」
『………………』
黒ずくめの集団は何も答えない。
その代わり、黒ずくめの集団の中から一人、前に出てきて俺と対峙する。
「な、なんだ?」
「……あのクソジジイに伝えろ。サファイアちゃんから手を引け、と。引かなければタダでは済まさない、とも」
声の感じだと、男性。
細身だが鍛えてそうな感じで、若い気がする。
ただ、そうして相手を見る前に――。
「は? え? 何? クソジ……誰のこと? 俺のことを誰かと間違えていないか?」
というか、女性の名前が出ていたが、どこかで聞き覚えが……。
「いいや、間違えていない」
「そうハッキリ断言されても……全然わからないんだが」
「貴様だろう? あのクソジジイが所属している一団の長は」
「いや、全然言っている意味がわからないんだが? 一団の長ってなんだ?」
「お前だろう? 『夜明け騎士団』を管理しているのは」
「………………」
「………………」
「………………は? いや、なんで俺が……管理ってなんだ?」
そんな覚えは一切ない。
「『夜明け騎士団』に所属している冒険者のパーティメンバーがそう言っていたからだ。叱れるお前こそが、実権を握っているようなモノだ、と」
誰だ、そいつは。
いや、確かに叱ったけども! それはそのパーティメンバー総意による願いであって……ん? ちょっと待てよ。
「夜明け騎士団」でジジイと言われそうな年齢なのは……セカン?
……まさか。
「ちょっと待て。さっき女性の名を口にしていたが……」
「サファイアちゃんだ!」
「いや、別に名を知りたかった訳では……まあいいか。それに手を引けってのは……」
「あのクソジジイが毎日のように長時間指名するから、俺とサファイアちゃんの時間が減ったんだよ! サファイアちゃんはなあ! 本当に可愛い子なんだ! 両親を亡くて大変なのに、それを表に少しも出さない心優しい子なんだ! 荒んだ心も癒す笑顔の持ち主なんだよ! 暗殺任務を受けたものの、中々標的が見つからずに陰鬱と過ごすしかなかった日々の中で出会えた、心のオアシスなんだ! 俺がサファイアちゃんを助けて支えないといけないんだ!」
そこ繋がりで俺にくるのかよ。
直接言えよ! と思わなくもない。
というか、黒ずくめの集団は共感するようにわかるわかると頷いて、それぞれ別の女性の名を口にして褒めちぎっているってことは……まさか、セカン以外の「夜明け騎士団」の……もう、そっちはそっちで解決して……ん? あれ?
「暗殺任務って……お前たち暗殺者なのか?」
「何故わかった!」
黒ずくめの集団が一気に警戒してくる。
いや、わかるだろ。その服装で。
というか、今――。
「口走ったよな。暗殺任務を受けたって」
「はっ! そうか! しまった! サファイアちゃんのことを話すと、つい口が軽く……」
軽くなるの? 暗殺者の口が?
それはすごいわ。
なんかここまでくると、俺もそのサファイアちゃんという女性に会いたくなってきた。
「くそっ。暗殺任務中であることがバレてしまうなんて……これも暗殺対象の情報が、曖昧過ぎるのが悪いのだ。間抜けそうな顔に妙なローブと、竜が装飾された杖を持っている男性と言われても! 名前くらい調べておけよ! 見つかる訳ないだろ!」
前に出ていた一人がそう言って、俺を見てくる。
上から下まで。確認するように。
「……お前かっ!」
「いや、今気付くのかよ」
「う、うるさい! しかし、手当たり次第に町を回っていたが、こうして出会えたのはお前にとって運の尽き……いや、サファイアちゃんの思し召しに違いない!」
前に出ているヤツがどこからか取り出した短剣を手に取り、構える。
他の黒ずくめたちも一斉に武器を構えて、それぞれ別の女性の名を口にして感謝していく。
黒ずくめの集団が急にやる気になったので俺も身構えるが……これまでの話を聞いて思うことを口にする。
「別にやり合うのはいいし、やられるつもりはないんだが、いいのか? もし俺を殺ってしまうと『夜明け騎士団』を叱るというかとめるヤツが居なくなると思うが?」
『………………はっ!』
黒ずくめの集団から戦意というか殺意というか、そういうのが一切消える。
「……くっ」
前に出ているヤツが呻き、崩れ落ちる。
拳を握り、どん! どん! と大地を叩き出し――。
「どうすりゃいいんだよ~!」
魂の叫びのような咆哮が、森の中に消えていく。
いや、それは俺が言いたい、と思った。




