のめり込むことだってある
暫くかどうかはわからないが……少なくとも、少しの間この大きな町――元周辺国の元王都・オジナルに留まることになった。
基本的に帝都脱出してからの大体の経費はすべて俺が出していたので、それを返してくれるのであれば、正直言ってありがたい。
まあ、それが普通だと思うが。
セカンの元部下の一人――いや、もう完全に部下になっているので、部下でいいか――部下の一人が諸々計算してくれていたようなので、きっちり返ってくると思う。
マジックバッグに入れていて提供した料理の分も、金額計算してその分を足して返してくれるそうだ。
それで、この元王都・オジナルで料理もできるだけ補充しておこう。
いつでも美味しいモノが食べられる。
これ大事。
捕まった時に、改めてそう思った。
ここで、俺たちは二手に分かれる。
一つは、セカンを中心として、その部下たちと共に、殿下というか元周辺国の内戦を起こそうという陣営……もう反乱軍でいいか、そういう感じだし――との連絡を取り、現状の把握を行う方。
ちなみに、金勘定もしている。
もう一つは、冒険者たちで、簡単に言えば冒険者ギルドで依頼を受けて、金稼ぎだ。
改めて確認したところ、冒険者たちはそのほとんどがAランクで、寧ろBランクの方が少ないと、ガチの一流ばかりであった。
俺はセカンの方に交ざっても堅苦しいだけなので、冒険者の方に交ざっている。
どちらかと言えば冒険者に近いし、これでいいのだ。
―――
まず、初日は誰もが金がないということもあって、俺も含めて冒険者ギルドで簡単な依頼を受けてから宿を取った。
五十人近くを纏めて泊められる宿となると限られるので、まとめ役であるセカンに自分の場所だけ告げて各自バラける。
俺としてもアブさんと気楽に接することができるのでそっちの方がいい。
―――
翌日。
セカンは早速情報を集めてきていて、やはりというか、反乱軍が内戦を起こすまでまだ時間があるそうだ。
連絡も既に取っていて、今は返答待ちとのこと。
そっちの方はセカンと部下たちに任せることにする。
軽く依頼を受けて、のんびりと過ごした。
まあ、冒険者ギルドカード表記はFランクなので、大した依頼が受けられないということもある。
ただ、冒険者ギルドは妙に騒がしかった。
何かあったのだろうか。
―――
さらに数日後。
金が倍で戻ってきた。
ここまで助けられた感謝の気持ち分らしい。
セカンと部下たちの金策もそうだが、冒険者たちの活躍が大きかったそうだ。
というのも、冒険者たちはガチのA、Bランクで、高ランクの依頼を受けることができる。
高ランクの依頼ということは、それだけ報酬も大きい。
俺への返金分なんてあっという間である。
金が倍で戻ってきたということで、アブさんと共に元王都・オジナルを観光しつつ、美味しい料理も買ってマジックバッグに補充していく。
―――
さらに数日後。
偶には、と冒険者ギルドに依頼を受けに行くと、冒険者たちが英雄扱いされていた。
受付嬢に詳しく聞くと、元周辺国の元王都ということで、元々A、Bランクが居ない訳ではなかったのだが、今は出払っているそうだ。
どこか言いづらそうにしていたので、多分反乱軍に協力しているのだと思う。
それで、どうして英雄扱いされているかというと、こういう時に限ってというか、A、Bランク相当の依頼が溜まってしまっていたらしい。
それを片っ端から受けて達成したため、非常に助かったのだ、と。
その結果での英雄扱いである。
なるほど。
こっちは金を稼げてウハウハ。冒険者ギルドは溜まっていた依頼が片付いてウハウハ。
双方が勝利したような形、だろうか。
いいことだ、と思いながら簡単な依頼を受けると、「あの人たちを目指して頑張ってくださいね」と受付嬢から応援された。
……俺だってやろうと思えばできるんだからな!
―――
その翌日。
冒険者たちは調子に乗った。
乗りに乗った
失った装備品もある程度整い、金銭的余裕が生まれたのだろう。
夜のお店に行くようになった。
英雄扱いで気も大きくなっている。
だからだろう。
一部の冒険者たちが、いつまでも気を張っていると疲れるだろう? とセカンとその部下たちを巻き込んだ。
……夜を明かしたらしい。
―――
そこから数日後。
ここ元王都・オジナルで、「暗黒騎士団」に対抗するように、「夜明け騎士団」という名の一団が誕生していた。
聞くところによると、その団員はセカンを筆頭にした部下たちと一部の冒険者たち。
その名の由来は、連日夜のお店で夜が明けてから帰る――ということからだった。
セカンたちは夜のお店とか初めてだったらしく、のめり込んでしまったようだ。
………………。
………………。
なるほど。まあ、影響が出なければいいんじゃないかと思う。
そう思っていたのだが、何故かその他の冒険者たちからどうにかして欲しいと懇願される。
さすがに連日は、と。
影響が出ていたようだ。
もちろん、「夜明け騎士団」もやるべきことはきちんとやっているようなのだが……というか、何故俺に言う、と思わなくもないが……仕方ない。
「夜明け騎士団」を集めて、行くなとは言わないが、もう少し控えろと説教したのだが――。
「いや、それはわかっているのだが、サファイアちゃんは両親を失い、今まで本当に苦労していてな。私が支えてやらないといけないのだ。いや、別にやましい気持ちは一切ない。これは父性。そう、父親代わりなのだ。サファイアちゃんのために何かしてやりたいと……だから、毎晩指名しているのだ。これは、私にしかできないことなのだ」
セカンだけではなく、他の者たちもそれに同意するように頷く。
「いや、お前以外にもできるし、お前にしかできないことは別にあるからな!」
効果があったかはわからない。
―――
その次の日。
偶にはと冒険者ギルドで依頼を受けて、近くの森へ採取に向かう。
そこで、黒ずくめの集団に囲まれた。




