思い出すと改めてって思うこともある
いくつかの町を経由して、セカンが目指す町へと向かう。
既に数日経ったが、あの盗賊を捕まえてから特に何かが起こるということはなかった。
それに途中で分かれる人も居るかと思ったが、全員付いて来ている。
その理由だが、セカンの目的は殿下と呼ばれる人物が率いる元周辺国の方に合流してリミタリー帝国と戦うことなのだが、それを共にするためだ。
捕らえられていたことに思うところがありまくりでやり返したい、という訳である。
それが終わるまでは、セカンの部下として動くそうだ。
俺? 俺はもちろん個人で動く。
いや、正確にはアブさんと共に、だ。
殿下については、これから会おうとしている人物であるし、一応聞いた。
リミタリー帝国の現皇帝である「ラトール・リミタリー」の息子。
名は「アンル・リミタリー」。
セカン曰く、リミタリー皇族において、まともな人物だそうだ。
……多分、俺のドラゴンローブを掴んで放さなかったヤツだと思うが……まとも?
いや、思わず、という可能性もあるし、決め付けるのは良くない。
まあ、このままいけば会うことになるし、その時に確認すればいいだけだ。
ともかく、この五十人近くは、誰もが強い騎士や冒険者ばかりなので、大きな戦力になるのは間違いない。
なので、俺だけではなくセカンも、リミタリー帝国からの追っ手が来ても大丈夫だと思っていたのだが、その追っ手が現れることはなかった。
上手く撒けたということだろうか。
セカンがそれだけ優秀ということもあるだろうが……どうにも不安が残る。
エラルとワンドには俺の目的が伝わったはずだ。
もっとこう、苛烈な追跡を出すとか、わかりやすい反応を出してくると思っていたが……静かなのは寧ろ不気味に感じる。
恐怖で手を出すのに臆している――ならいいのだが、もし何かを企んでいるのなら……いや、考えていても仕方ない。
何か企んでいるのなら、それごと潰す。
その方がエラルとワンドには効果がありそうだ。
なので、来るなら来いの精神。そういう気持ち……心構えである。
そうして、セカンの案内の下、さらに日を重ねて移動し……元周辺国の領土に入ってから目的としていた町へと辿り着く。
ただ、ここは町という割には大きく、外壁も頑丈そうで立派で、町中もそれなりに賑わって発展している。
一国の王都と言ってもおかしくない。
そう思いながら町中を移動し、セカンに尋ねる。
「それは当たっている。ここは前に周囲一帯を治めていた国の王都だ」
セカンがそう教えてくれた。
なるほど。俺の勘も悪くない。
「ここで、その殿下とやらと合流するのか?」
……あっ、殿下ということであの時のことを思い出したら、あの美味しいパンを踏んだヤツ……もっと懲らしめてやれば良かった気がしてきた。
もっとこう、踏まれたパンの気持ちを味わえと大きなパンを上から押し付けるとか……いや、それだと人を上から押し付けるような大きなパンをどうやって用意するか問題なので、別の……そうだ! あのパンの美味しさを知るために常に咥えている状態で行動を……何故だろう。運命の出会いをしそうな気がするのは……不思議だ。
ぐぬぬ。
「……どうしていきなり怒気を発している?」
「いや、なんでもない。それで、合流するのか?」
あの時は断ったが、結局協力することになったな。
まあ、それはいいのだが、セカンたちはともかく、あの時居た……居た……名前は思い出せないが、確か白銀の鎧を身に付けている方が乗り気でなかったし、許可するかどうかだな。
……駄目なら駄目で勝手に動くだけだが。
「いや、合流はしない。正確にはできない、だろうか。どこに居るのか知らないからな。それを知るため、それと連絡を取るためにここに来たのだ」
「情報屋とか協力者とか、そういうのが居るってことか」
「ああ、その通りだ。だが、確認に時間がかかる可能性はある。それに、私の推測のままで進めば、まだ内戦が始まるまでの時間はある。その間にできるだけのことをしておきたい」
「というと?」
「一応、ここまで来れば一安心と言える。リミタリー帝国の影響力は間違いなく落ちているからだ。だが、こちらも捕らえられていた状況からそのままここまで来た。失った装備がある者も居ることだし、ここで一旦足りないモノを補ってからでも遅くない。ここは元王都ということもあって品揃えも豊富だからな。人も多く、その分隠れやすくもある。色々と好都合なのだ」
「まあ、確かに、これからのことを考えて準備する時間は必要だな」
「そういうことだ。それに、ここまで一気に来たことで金関係や食事など、アルムに頼り切っていた。もう限界か、それに近いのではないか?」
セカンの問いに苦笑いを浮かべる。
その通りなのだ。
俺以外のお金はすべてリミタリー帝国に奪われており、帝都脱出して盗賊を捕まえた時に多少なりとも手に入れたが、こちらは五十人近くの大所帯である。
足りない。足りない。
町に寄っても直ぐ出発していたので野宿が多かったが、それでも疲れを取るために町に宿泊することもあったし、食事に関しては町で食べる時は俺が出す場合が多く、野宿時は基本狩りや採取で自給自足的な部分が多かったのだが、マジックバッグの中から食事を出すこともあった。
現在、俺の財布とマジックバッグの中の料理はすっからかんだ。
マジックバッグ自体の重さは変わらないので、これでバッグが軽くなった、とか軽い冗談が言えないのは非常に残念だが、どのみちこれ以上強行するのは無理だったので、ここで諸々を補充するのは丁度いいのは間違いない。
「だから、これまで払ってくれていたモノを返しつつ、自分たちの状況も万全にしようと考えている」
「まっ、俺としては返してくれるのならそれでいいさ」
という訳で、ここで少しの間準備を整えることになった。




