相談する暇がない時だってある
とりあえず、俺だけで決めるのもなんなので、全員を集めて情報を共有してみる。
「……こちらはほぼ着の身着のままで物資も少ないというか、今はアルム頼りであるし、色々と手にするいい機会だな」
「脱獄から脱出に、神経張り巡らせて夜の森の中を進んでいるんだ。そろそろ休憩くらいは取りたいな」
「暫く牢屋に入れられていたし、体が鈍っているかもしれない。それを確かめるのに丁度いいな」
全員――男女問わず、年齢関係なく、凶悪な表情を浮かべていた。
やる気満々って訳ね。
早速とばかりに、誰がどのように動くというか、動けるのかを確認し始める。
全員を纏めているのはセカン。
なんかリーダーっぽいというか、そういう纏めるのが上手いんだよな。
だから、捕らわれていた元部下っぽい人たちもこうして付いて来ている訳だし。
俺にはないすごい力だと思う。
という訳で、戦力確認はセカンに任せるとして、俺はアブさんに詳しい場所を――あれ? そういえば……。
「アブさん。アブさん」
小声で確認する。
「ん? なんだ?」
「どうして盗賊だとわかったんだ?」
「簡単だ。それっぽい会話を聞いたのだ」
「それっぽい? どんな?」
「うむ。要点だけ纏めると、今日襲った商隊の中にお頭好みの女が居たから早速引き渡そう。で、残りの女は俺らのお楽しみだ、と」
はい。相談している暇ありません。行きますよ、皆。
―――
森と繋がる岩山。その麓付近にある洞窟。
そこが盗賊のアジトだった。
その証拠に、洞窟入口には松明に火が焚かれ、見張りが二人立っていた。
見張りは暇そうに会話をしている。
聞こえてくる内容は、自分たちも中で楽しみたいのにこんな日に見張りだなんてついてない、と嘆いているとうか愚痴っていた。
なんて見ていたら、こちらから冒険者パーティ二つが左右から駆けていく。
その速度は速く、夜の闇も相まって、盗賊二人は直前まで気付けずに、声を出すまでに襲撃されて倒される。
大丈夫だと手振りで呼ばれるので、こちらも洞窟入口付近まで向かう。
「てめ、こいつ。何がお楽しみよ」
「ふざけんじゃないわよ」
倒された盗賊二人は、女性冒険者からフルボッコにされていた。
もちろん、極力音を立てないようにしている――という冷静さも感じられて怖い。
ただ、ここで立ち止まっている訳にはいかない。
幸いと言っていいのか、盗賊はまだこちらに気付いていないので、今の内にできるだけ行動しておかないと――。
「………………商隊の人たちが居なければ、洞窟入口から火属性魔法を撃ち込んで洞窟内部をすべて焼き払うのに」
それができないのは残念だ。
と思っていると、全員の視線が俺に向けられていた。
……もしかして、口に出ていたのか?
「まあ、そこのやられているのが話していたし、中に襲われた人が居るのは確定したのだ。そのような真似はしてくれるなよ」
セカンから注意を受けた。
それぐらいはわかっている。
だから、商隊の人が居なければ、だ。
そして、セカンの指示の下、洞窟内に突入する。
―――
セカンや元部下の騎士たちは思っていた通りだが、冒険者たちの方もかなり強かった。
三柱の国・ラピスラという本部がある場所で、Sランク、Aランクという高ランク冒険者を見てきたが、そのAランクと同等くらいの強さは持っているように見える。
捕らえて魔力を吸い取るのに豊富な魔力量持ちを狙っていただろうから、必然的に強い魔法使いばかり――ということは、そういう魔法使いが居る強いパーティ、ということになったのだろう。
また、そういう強いパーティということはそれなりの経験も積んでいるので、盗賊退治も経験がある。
その結果――攻略はものすごく速かった。
セカンの指示もあるにはあるが、冒険者パーティの方は特に自分たちがどのように動けばいいのかを理解しているため、サクサクと進んでいく。
盗賊が居ても瞬殺――まではいかないが、瞬ボコだろうか。
そうして進んでいくと分かれ道にぶつかり、俺とセカンは分かれ、それぞれ半々くらい引き連れて進んでいく。
もちろん、こそっとアブさんもこちらに付いて来ている。
そうして、俺の方が辿り着いたのは、盗賊の頭が居るところだった。
洞窟の奥――開けた場所に十人ほどの、如何にも盗賊という者たちが飲み食いしており、その中で一人、厳つい顔の筋骨隆々のヤツが居る。
雰囲気的に、それが頭だろう。
その頭と思われる者の前に、両手足を縛られた女性が居る。
ギリギリ間に合ったようだ、と冒険者たちと頷き合い、早速盗賊を倒そうと突入を――。
「すいません。チェンジで」
感情のこもっていない声で、女性はそう口にした。
すると、頭と思われる盗賊の横に居る、元気な盗賊が口を開く。
「いや、チェンジじゃねぇから! そんなことできないから! お前は頭に抱かれるんだよ! そのためにここに居んの!」
「は? 私にだって選ぶ権利はあるんですけど?」
「ねえよ! 状況わかっている? ねえ! お前は俺たちに襲われてここに居んの! 生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ!」
「だったら余計に相手は選びたいんですけど! そっちのお兄さんとか、どう? そこの厳ついのなんかより、とっぽど顔がいいし。頭が抱こうとしている女を自分のモノにできるのよ? 興奮しない? やってやろうって思わない?」
「おいこら! 余計な火種を作ろうとしてんじゃねぇよ! 確かに頭は顔が厳ついけど俺たちには優しいの! 腹減っていたら、食うか? て用意してくれんの! 俺たち皆慕っているんだからな! だから、お前も、『え?』みたいな反応すんな! 頭! 頭もなんか言ってやってくださいよ!」
元気な盗賊が頭に話を振る。
ガツンと言って欲しいのだろう。
「……もう……いいよぉ。結局顔なんだろう……」
頭はいじけていた。
泣いてもいる。
それを見て盗賊が何を、と思うが……こう、いたたまれない。
それは共に居る冒険者たちも同じだった。
「……終わらせるか」
「……そっすね」
強襲し、手際良く倒す、
その際、頭は精神的ダメージが大きかったのかほぼ無抵抗で、逆に顔で選ばれた盗賊がどさくさに紛れて頭を倒そうとして、元気な盗賊に殴り返される――といったことがあった。
また、女性はこちらが戦闘中は早く倒してと言い続け、その上、助けたあとはこちらの中で一番顔のいい冒険者に言い寄っていたのは……なんというか、強いな、と思う。
―――
セカンたちが行った方には商隊の人たちが捕らえられて、無事に助け出すことができた。
なので、女性を引き取ってもらう。
荷物も無事だったそうで、それ以外の盗賊が奪っていた物も、こちらが必要な物以外はすべて引き取ってもらった。
荷の中には縄があったので、生き残った盗賊たちをそれで縛っておく。
どうやらここは街道付近にあるらしく、そこを辿った先に町がある――元々セカンはそこを目指していた――そうなので、そこに連行して引き渡して金をもらう予定だ。
何しろ、当然のようにというか、俺以外誰も金を持っていないので。
そのあとは想定していた通りにこの場で一旦休憩してから、出発。
特に何かが起こることなく町に辿り着き、盗賊たちを引き渡し、先を急ぐので商隊からの歓待は断ろうとしたが、一泊はするので食事だけ共にする。
ついでに宿代も出してくれた。
翌日。準備を整えて、セカンが目指す町に向けて出発する。




