表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
332/614

退こうとしてできる場合だってある

 白髪の短髪に、年齢を感じさせる皺はあるが、それでも厳ついと言える顔立ちの男性。

 計算すると、今の年齢は八十くらいだろうか。

 それでもしっかりと鍛えられた体付きであり、その上に血のような赤い線が走った黒い鎧を身に付け、その手には剣が握られている。

 その人物こそが、リミタリー帝国における皇帝直属の最強騎士団「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」の団長である「ワンド」。

 そのワンドが、こちらに向けて駆けて来ている。

 ……ああ、間違いない。

 あの頃より歳は重ねているが、顔立ちは別に変っていないのだ。

 間違えようがない。

 ……心に強い怒りを感じる。

 闇のアンクさんの記憶が反応しているのだ。

 だが、迂闊に飛び出すような真似はしない。

 したい気持ちはあるが。

 まあ、このままここで待っていれば、そう時間もかからずに対峙することになる。

 そこまで待つ気もない。

 何故なら、「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」は団長であるワンド以外も駆けて来ているのだ。

 帝都の門で俺に襲いかかってきた細身のヤツと筋骨隆々のヤツ。それと他にも黒い鎧を身に付けているのが数名見える。

 皇帝のお膝元ということもあって、戦力は充実しているようだ。

 さすがに、それだけの数を纏めて相手にするのは面倒である。

 無理だと思わないのは、まあ、やろうと思えばできなくないからだ。

 その代わり、魔力全開なので帝都が更地になるだろうけど。


「……貴様は!」


「あっ! お前は!」


 細身のヤツと筋骨隆々のヤツが声を上げて、俺を指差しているのが見える。

 あっ、気付きました? ここら辺はまだ暗いのによくわかったな。どうも、外に出ました。と肩をすくめてみる。

 細身のヤツと筋骨隆々のヤツがイラッとしてそう。

 その反応をワンドがチラリと見て、俺を見てくる。

 ……あっ? と見返す。

 怒りが交ざり、睨む。

 ただ、ワンドの俺を見る目は、まるでそこらの小石でも見ているかのようで、脅威とすら捉えていない。

 まあ、こっちは知っていても、ワンドはこっちを知らないから当然と言えば当然の反応だろう。

 ワンドは興味をなくしたかのように、視線を俺からセカンに向けて声を張り上げる。


「セカン! 牢に入れれば反省するかと思えば、まさか脱獄をしでかすとはな! 元部下ということで情けをかけて生かしてやったというのに……飼い犬に手を噛まれたような気分だ!」


 セカンを見るワンドの目にはハッキリと怒りが宿っている。

 対するセカンは冷静だ。

 それでも、胸の内を伝えるように大声を張り上げる。


「私としてもこのような結果となったのは残念だ! ワンド団長……いや、ワンド! 牢屋に入れられようとも、私の気持ちは変わらない! このような手段! 力は必要だ! だが力だけでは駄目なのだ! 力だけでの支配では! この国に未来はない!」


「お前の言う未来がないのは、中途半端な力を持つことしかできなかったがための未来だ! 要は、望む未来すら得られる、すべてをねじ伏せるだけの力を持てばいいだけのこと! それを、もう少しでリミタリー帝国は得ることになるだろう!」


「あなたは! いや、あなただけではない! 前皇帝も! 力を得るということに取り憑かれ過ぎている! その結果、皇帝まで――」


 遮るように、俺はセカンの腕を掴む。


「熱くなり過ぎだ。それに、今は言い争いをしている暇はない。違うか?」


 気持ちはわかるが、今は脱獄……はもうしたから帝都からの脱出が先だ。

 面倒なのが、もうそこまで迫っている。

 今は……ワンドが健在だとこの目でハッキリと確認できただけで充分。

 口振りから、前皇帝も健在のようだしな。

 セカンは俺の言葉に反応しようと口を大きく開けるが、それは飲み込んで、代わりに息を吐く。


「だが! ……いや、その通りだ」


 セカンはワンドを一瞥したあと、水の大蛇の中に入り、水流によって外へ。

 それを見届けたあと、水の大蛇を消す。

 あとは俺自身が脱出するだけだが、それは別に難しいことではない。


「飛翔」


 竜杖に乗り、空へ。

暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」の手が届く前に上空へ行けたが、油断はできない。

 空を飛ぶことはできないと思うが、飛び上がってはこれそうな気がするからだ。

 実際、「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」は足をとめたが、その場で飛び上がろうとしていた。

 本来なら、このままさっさと脱出すればいいだけなんだが、月明かりに照らされて、アブさんが気になると言っていたモノが視界に入ってくる。

 帝都を覆う外壁よりも高い塔。

 その屋上部分には、巨大なU型の建造物があった。

 何故かはわからないが、見ているだけで言いようのない不気味さを覚える。

 あれは……壊した方がいい気がした。


「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球(ファイヤーボール)』」


 魔力を抑える必要もないので、数m級の巨大火炎球を作り出し、U型建造物に向けて放つ。

 ワンドは巨大火炎球に対して多少驚きを見せたが、それが自分を――自分たちを狙っていないと気付き、なら何を――と向かう先に視線を向ける。


「いかん! なんとしても防げ!」


 ワンドが大声を張り上げ、それに応えるように「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」の面々が近くにある建物の外部を駆け上がり、飛び上がって、数人がかりで巨大火炎球をその身で受けとめて防いだ。

 黒い鎧は魔法に対して相当強いのだろう。

 ダメージらしいダメージを受けたようには見えない。

 防ぎきったことで満足そうにしているような気がするが――誰が一発だけだと言った?

 二発、三発、四発――と、十発くらい連続して放つ。

 さすがに、空中でもう一度飛び上がることはできないのだろう。

 残りの巨大火炎球はU型建造物に着弾し、巨大な火柱を上げて燃え尽かせる。

 これで大丈夫……だと思う。

 あとはここから去るだけ、と思ったところで、地上で俺を憎々しげに見ているワンドが見えた。


「貴様ぁ……」


 怨嗟のようなワンドの声が聞こえる。

 それはこちらも同じだ。

 俺はお前たちの敵だとわからせるため、大声で告げる。


「ワンド! これで終わりと思うなよ! これは……元「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」副団長! アンクの復讐の続きだ!」


 ワンドの両目が大きく見開かれる姿を見て、俺はこの場をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ