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賢者巡礼  作者: ナハァト
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戸惑っている暇がない場合だってある

 見つかった。

 いや、まあ、これは仕方ない。

 いくら夜で明かりは少なくとも、ない訳ではないのだ。

 それに、こちらは既に五十人ほどの大所帯となっている。

 隠そうとして隠しきるのは難しい。

 まっ、見つかったモノは仕方ないというか、想定の範囲内。

 捕らえられていた人たちを助け出せた時点で充分なのだ。


「行くぞ! こっちだ!」


 先頭を駆けて、全員を誘導する。

 向かう先は、魔区の端――帝都の外壁。

 時折リミタリー帝国の兵士が現れるが、この人数もそうだが、皆中々強い。

 駆ける勢いをそのまま維持しながら、倒し進んでいく。

 ただ、騒ぎにはなる。

 何しろ――。


「見つけたぞ! こっちだ!」


「この人数は! 人を呼べ! 足りないぞ!」


 リミタリー帝国の兵士は俺たちを見つけると直ぐ人を呼ぶのだ。

 もっと自分の力でどうにかしようとは思わないのか?

 よっしゃ! 手柄だ! 捕らえて出世だ! 余計な手出しするなよ! とか言って挑んで来いよ。

 もちろん、返り討ちにするが。

 なので、騒ぎは大きくなる一方だ。

 既に後方からリミタリー帝国の兵士が大勢追いかけてきている。


「後方は私たちに任せてもらおう! まずは彼らの脱出を!」


 セカンとその元部下たちが最後尾に回り、後方から追い付いてきたリミタリー帝国の兵士たちを抑え込む。

 そうしている間に外壁に辿り着く。


「それで、これからどうするんだ?」


 途中で助けた冒険者パーティの一人が、そう口にしてくる。

 俺が入れられていた牢屋のところに居た人たち以外には詳しく話していなかったというか、一応俺のマジックバッグにある程度の物は入っているので大雑把な脱獄計画を書いて、アブさんに他のところへ届けてもらおうと考えもした。

 しかし、アブさんが単独で姿を見せると討伐の対象になりかねないし、姿を見せなくとも脱獄計画が書かれたモノがいきなり現れたら怪しいことこの上ない。

 そのため、その場で簡単な説明だけするということになった。

 それでも問題ないのは、やはり冒険者パーティのメンバーによる説明だから、だろう。

 今は状況的に付いて来ているようなモノだ。

 なので、不思議に思っても仕方ない。

 それに、詳しく知っている人たちも、どちらかと言えば半信半疑というか、この目で見るまでは信じられない、といったところだろうか。

 だから、その目に見せてやる、と魔法を発動する。


「これからこうするんだ! 『青流 その身はすべてを飲み込み その身は何も通じず うねる形ある流水 水蛇(アクア・スネーク)』」


 それこそ、人一人分くらいの幅がある水の大蛇が、地上から空に向かって伸びていき、帝都の外壁を越えると曲がり、今度は向こう側の地上に向けて下降していき辿り着く。


「これで外壁の向こう側に行ける! 水流が運んでくれるから入れ!」


 そう声をかける。

 ちなみに言うと、この水属性魔法の本来は名称が示しているように蛇であり、大蛇ではない。

 いや、大蛇くらいなら注ぐ魔力量次第でいけるだろうが、それでもここまで大きく長くならない。

 俺が受け継いだ莫大な魔力量だからこそ、可能なのだ。

 だからだろうか、皆、ポカンと口を開けて驚いたまま動こうとしない。


「そういうのはあとにしろ!」


 維持するのも大変なんだぞ、これ。

 いや、現出したままなのはいいんだ。それは余裕でできるので問題ない。

 大変なのは、下手をするとこれまで通りに過剰魔力注入で水の大蛇が今以上の大きさになって、外壁を破壊してもおかしくなくなるのだ。

 別に外壁に穴を開けてもいいのだが、それだと出たあとを追われやすくなるため、そうしない手段を取っているというのに。

 今も既にところどころでぴゅーっと水漏れしている。

 溢れ出しそうなギリギリの攻防が続いていた。

 集中を切らす訳にはいかない。


「今は脱出が先だ! 行け!」


 声を飛ばすと、それで我に返った者から水の大蛇の中に飛び込み、水流に乗って帝都の外壁の外へ。

 ここまで来ればあとは脱出だけなので、念のためアブさんには向こう側で様子を見てもらっている。

 魔物とか、居るかもしれないし。

 そうして、次々と飛び込んでいくが……さすがに五十人ほどとなるとそれなりに時間がかかる。

 リミタリー帝国の兵士たちが続々と集まり出していた。

 セカンと元部下たちが倒していく数よりも集まる数の方が多い。

 他にも脱出する前に魔法を放って援護したりしている者も居るが、多勢に無勢というか効果はそれほど大きくはなかった。

 それに、脱出した者が増えていくと、その分ここで戦う者が減っていく。

 どこかで一気に脱出させないといけない――のはわかっているのだが、考えていたよりもそれができない。

 いや、手段はある。

 ただ、水の大蛇を維持するのが思いのほか………………やればできる! 瞬間的でもいいのだ!


「『緑吹 荒れ狂う暴風は あらゆるモノを引き込み 渦巻く風はすべてを蹂躙する 大嵐(サイクロン)』」


 大竜巻は――起こらなかった。

 同時に発動ならまだしも、一つの魔法を発動中に別の魔法を発動するとか、

 その代わり、俺たちとリミタリー帝国の兵士たちとの間に暴風が吹き荒れて壁となる――だけではなく、リミタリー帝国の兵士たちは風の勢いに負けて倒れる。


「今だ! 急げ!」


 残って戦っていた者たちが次々と水の大蛇の中に飛び込んでいき、残るは俺とセカンだけとなった時、何やら強い気配を感じてセカンと共にリミタリー帝国の兵士たちの方に視線を向ける。

 視線の先に居たのは、要所に血のような赤い線の走った黒い鎧を身に付けている老齢の男性が居た。


「……『ワンド団長』が自らお出ましか」


 セカンがそう呟いた。

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