きっとすごい方法だったのだろう
扉が開けられたので中に入る。
兵士二人が気絶していた。
何か恐ろしいモノでも見たかのような表情で。
「こんな表情になるなんて………………どんな恐ろしいことをしたんだ? アブさん」
邪魔にならないようにか、部屋の天井付近に漂っていたアブさんにこそっと尋ねる。
アブさんは特に何も、と頭を振った。
いやいや、こんな表情をさせたんだから、何かしたでしょ? と再度尋ねるが、アブさんはどこか困った感じだ。
……なるほど。わかった。言えないような手段か。
アブさんが得意としているのは即死だから、死を感じさせるモノを直接心に刻ませたとか……いや、わざわざ隠すということは隠し玉――切り札の類だろうから、死を予感させる何かを召喚したとかだろうか?
そうだよな。切り札の類はそう簡単に明かさない……いや、明かしては効果が薄れるんだから、隠すのは当然だ。
うんうん。それに、これで証明されたはずだ。
「ほら、こうして通れた訳だし、アブさんが居ることはわかっただろ。まあ、まだ姿を見せるところまではいっていないが、それでも、俺の想像、妄想の類ではないと理解したか?」
共に脱出する全員にそう告げる。
すると、皆は即座に円陣を組み、話し合いを始め出した。
主に、どうやってここの兵士二人を気絶させて扉を開いたか――を、俺がどのような手品を使って。
いや、だから、アブさんにお願いして……おい、こら。実際にできそうな案を出すんじゃない!
……信じてくれなかった。
アブさんが望んでもいないのに、大勢の前に晒す訳にはいかない。
……もういいよ。結果的に脱獄できればそれで。
先を急ぐことにした。
事前に確認してくれているので、アブさんに先導してもらう。
共に脱獄する皆は、アブさんの先導に続く俺のあとを追ってくる感じだ。
これからするのは、共に脱獄する皆の装備品の回収である。
なので、向かうのはアブさんが見つけた、大きな箱がたくさん置かれている部屋。
途中、リミタリー帝国の兵士の姿も見かける。
見回りだろう。
最悪の場合は倒すが、下手に手を出すと連絡がないとかで脱獄が発覚する場合がある。
この場だけで済む話であれば、発覚までの時間が短くても突っ切るのだが、他にも救出する人たちが居るのでできるだけ発覚までの時間を伸ばさないといけない。
そのため、可能な限り――接触は避けていく。
それでも素早く動くことができるのは、やはりアブさんが居るからだろう。
相手から見えない上に、相手の行動を観察できるのは――この状況において非常に助かる。
時に大胆に進み――こけるんじゃない! 時に潜んでやり過ごし――そこ、はみ出ている! もっと腹を引っ込めろ! と着実に素早く進んでいき、どうにか一度も見つからずに目的の部屋に辿り着く。
確かに、大きな箱がたくさん置かれている。
まるで倉庫のようだった。
共に脱獄する皆の装備品を回収していくのだが……やはりというか、揃っている者も居れば、いくつか足りない者も居る。
アブさんが聞いた内容によると、調べて壊しているそうなので、それだろう。
先に竜杖、ドラゴンローブ、マジックバッグを回収しておいてくれたアブさんには感謝しかない。
何しろ、どれもラビンさん製作だ。
竜杖は空を飛ぶことができるし、ドラゴンローブは使用しているのがカーくんの鱗に、マジックバッグはそもそも物自体が貴重や希少である。
本当に無事に戻ってくれて良かった。
しかし、共に脱獄する皆のパーティメンバーの装備品はここにはないそうなので、そっちは捕らわれているところの建物内に、同じように置かれているのだろう。
似たような部屋があったと、アブさんも頷いている。
ただ、やはり――と言うべきか、セカンの装備は一つもない。
「まあ、元々黒い鎧を含めて、武具もリミタリー帝国からの提供品であったからな。仕方ない。それに、無手も心得ている。やってやれないことはない」
大丈夫だ、とセカンは笑みを浮かべて、拳を前に突き出す。
その姿は確かに様になっていた。
ただ、その突き出した拳が装備品の入っていた大きな箱を打ち貫き、少しばかり大きな音が出る。
『………………』
少し待ってみるが、不思議に思うような声や、こちらに駆けてくる音は聞こえてこない。
全員で、ホゥ~……と一息吐いて安堵した。
すまない、とセカンが小さく頭を下げる。
とりあえず、セカンは無手で問題ないとして、他の皆の回収した物の装備が終わると次へと向かう。
再びアブさんの先導の下、捕らわれている人たちの救出に向かった。
効率を考えれば、分散した方がいいのはわかっている。
だが、アブさんの先導なしでは発覚の危険が高まるし、捕らわれている人たちの牢屋や枷を鍵なしでどうにかできるのは俺だけだ。
いや、セカンもやれると言っているのだが、それでも発覚の可能性を高めてまで分散する必要はない。
そもそも、既にアブさんが脱出までの最短ルートを導き出しているのだ。
そうして、見つからないようにしつつ、手を出すのは最低限に留め、他の人たちを救出すると共に装備品も合わせて回収していく。
救出した者たちの中には、「暗黒騎士団」ではないがセカンの部下と言ってもいい人たちも居て、そのまま快く協力してくれることになった。
セカンは慕われているようである。
「お前たちは……」
セカンも満更ではない様子。
笑みが浮かび、嬉しいのを隠しきれていない。
他にもソロ冒険者だったり、リミタリー帝国に逆らった懲罰として入れられた者も居て、総勢で五十人くらいだろうか。
救出が必要な人は、これで全員。
あとは脱出するだけ――というところで、兵士たちが慌ただしく動き出し始めた、とアブさんが教えてくれる。
どうやらバレたようだ。




