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賢者巡礼  作者: ナハァト
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披露しようと思っても、できるとは限らない

 脱獄を開始する――の前に、まずは一休みを挟む必要がある。

 何しろ、俺以外はそんな直ぐに動けないのだ。

 というのも、俺は少しも魔力が減らなかったといったまったく効果はない魔力の吸い取りに、つい先ほどまで他の皆は受けていたのである。

 魔力枯渇一歩手前までいっていて、多少は回復しないと満足に動けないのだ。

 なので、一休み。

 その間に、俺は竜杖、ドラゴンローブ、マジックバッグを装備して、身体強化魔法で鉄格子を曲げて牢屋の外に出ると、軽く準備運動をしておく。

 さーて、これから忙しくなるぞ。


「……なんで平気……なんだ」


「信じ……られない……」


「……化け物、か」


 俺が準備運動しているとわかったのだろうか、そんな呻くような声の呟きが聞こえてくる。

 う~む。薄暗い空間と相まって、なんか恐怖を感じるな。

 怨嗟のように聞こえなくもないからだろうか。

 さすがに幽霊系は居ないと思うが………………何故だろう? 不思議だ。暗闇の中を一点集中で見ていると、そこに何かが居るんじゃないかと思ってしまう……ような気がする。

 いや、実際は居ないんだけど……そんな気がするだけだ。

 そうして、皆が一休みして皆が動けるようになれば、次いで俺の出番である。

 身体強化魔法で牢屋の鉄格子を曲げ、合わせて枷も破壊。

 それを全員分行う。


「……自由か。良いモノだな。少なくとも、『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』としてリミタリー帝国に囚われている状態であるより、ずっといいモノだ」


 枷から解き放たれたセカンがそう口にする。

 他の皆も同じように枷がなくなったことを喜んでいた。

 ただ、本当に自由になった訳ではない。

 それはこれからだ。

 薄暗い中、この場に一つだけある扉へと向かう。

 当然、この扉は鍵がかけられている。

 さらに扉の向こうには兵士が二名、常駐している部屋がある――のは、アブさんから教えられた。

 普通に出れば見つかるのは間違いないが、問題はない。

 既に手は打っている。


     ―――


 扉の向こう側にある、兵士二人が常駐している部屋。

 作業机と椅子のセットが二つ置かれ、それぞれに若い兵士と年配の兵士が座っている。

 年配の兵士は書物に目を通しているのだが、若い兵士は椅子を傾けてぶらぶらとし、とても暇そうにしていた。


「……ああ、暇ですね」


「まあ、そういう場所だからな、ここは」


「……もう少し、こう……張り合いが欲しいですね」


「張り合い? ここに? あったら困るな。それはアレだろ。捕らえているのが逃げ出す――脱獄されるってことだろ?」


「まあ、そうですね。でも、そうなれば、ほら、戦いになりますから、俺の『爆発する剣エクスプロージョン・ソード』が火を噴きますから」


「いや、爆発するのか、火を噴くのか、どっちなの、それ? というか、どっちも危ないよね、それ。というか、脱獄って異常事態だから。わかっている? そうなると報告が必要だよね? つまり、上に報告しなければいけない訳だが、こんな夜中にそんな報告をすると――『お前、こんな夜中に報告って……とりあえず、アレな。給料減給な』と理不尽に晒される可能性高いよ?」


「ええ~、そうなんですか? 給料減らされるのは困るなあ……今月色々と買ってピンチだし」


「給料はもう少し計画的に使おうね。アレだよ。おじさんみたいに歳を重ねた時、残しておけば良かった、と思う時があるから」


「あるんですか? そんな時?」


「あるよ。おじさん、つい昨日も、ギャンブルで……」


「ああ……兵士としては尊敬していますけど、そういうところは反面にさせてもらいます」


「うん。そうする方がいいよ。こうやって、身をもって駄目だと教えることも、大人の役目だと思っているからさ」


「……別に、いい感じに纏まってないですよ、それ」


「そうかい? まあ、失敗を恐れてはいけないということを教えたと思えば、おじさんの心も平穏そのものだよ」


「いや、大失敗だと思うんですが……まあ、いいですけど。そういえば、知っていますか? 昨日の話を」


「もう少しおじさんの心をケアして欲しかったけど……まあいいか。それで、昨日の話って? おじさん、そういう流行の話に付いていくのがもうつらくて」


「別に流行ってはいないですよ。それで昨日の話ですが、なんでもこの魔区の各所で変な気配とか声が聞こえてくるらしいですよ。でも、姿は一切ないんです。幽霊でも現れたんじゃないかって」


「え? 何それ。怖い。おじさん、そういうの駄目なんだよ。ほら、幽霊系って物理が効かないし」


 書物から視線を上げて、若い兵士を見る年配の兵士。

 話を振っていたということもあって、若い兵士も年配の兵士を見ていた。

 交わる視線の間に――「絶対的な死(アブソリュート・デス)」――アブが現れる。


「ふむ。それはもしや、某のことか?」


「「――――――」」


 驚き――兵士二人はのけ反り、椅子が倒れ、頭部を打って気絶した。


「え? いやいや、あれ? え? ……寧ろ、これからというか……『中々気概のある兵士のようだ。某を相手にここまで頑張るとは……だが、絶望はこれから! 某が司る属性は即死だ!』という決め台詞まで考えていたのに……あれ? 現れただけで?」


 披露する場がなかった、と少しばかり意気消沈しながら、アブは壁にかけられていた鍵を手に取り、牢屋に続く扉を開錠して開ける。

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