まず謝りましょう
牢屋に捕らわれている全員で脱獄することにした。
俺を含めて、十人。
元「暗黒騎士団」の人を除けば、全員冒険者だった。
ついでに、元「暗黒騎士団」の人に名を尋ねれば、「セカン」と名乗ったので次から呼ぶことにする。
そこで、一つの問題。
――外の状況。わからない。
「……居るの……」
セカンに尋ねてみたが、元々ここの担当ではなかったため、詳しく知らなかった。
帝国外の人がこうして使われている現状も、聞いて確認しただけだそうで、そうして確認したところ以外はわからない、と。
誰に聞いたかは……まあ、聞くまでもないというか、セカンがここから出たら馳せ参じると言っていたし、殿下だろう。
ただ、セカンによると、ここ以外にも同じ用途の牢屋があるらしい。
「……アル……のか……」
他にもあるという牢屋だが、ここは特別らしく、魔力量が特に多い者だけが捕らえられていて、そうでない者はそっちに、ということのようだ。
おそらく、と付け足し、セカンはここに捕らえられているのが冒険者ということもあって、そのパーティメンバーがそっちに捕らえられている可能性がある、と言う。
「……おかしい……ここから……気配……いや、骨伝導で伝わ……」
セカンは、だから俺のパーティメンバーもそっちに居るだろうから安心しろ、と言ってきた。
………………いや、ソロですが、何か?
何故だろう。薄暗いし、牢屋の壁で大体の人の様子は見えないが、サッと顔を逸らされたような気がする。
「……寝ている? ……いくらアルムでも……眠り続け………………あり得る」
まあ、正確にはアブさんが居るのだが、端からはソロに見えるのは間違いない。
……いや、その内いい人が見つかるだろうから安心しろって、別に慰めて欲しい訳ではないのだが?
そもそも、別に必要としていな………………ん? アブさんっ! そうだ! アブさん!
この状況で忘れていたが、アブさんはどうしたんだ? 今、何をしている?
「……寝ている……もう少し大きな声で……アルム。もし寝ているのなら、返事をしろ」
「いや、寝ていたらさすがに返事はできないだろ。もししていても、それは寝言だ。アブさん」
………………。
………………。
アブさんっ! どこかから、アブさんの声が聞こえる!
聞こえてきた方に向かえば、そこは俺が入れられていた牢屋。
そこの鉄格子付きの小さな窓から、内部を覗くアブさんの姿が――。
「アブさん!」
「おお、起きたのか!」
「いや、元々寝てな――いや、そんなことより、無事なのか?」
「問題ない。寧ろ、アルムの方が大丈夫なのか?」
「ああ、俺自身はなんとも。ただ、持ち物が取られたから取り返さないと」
「アルムが無事ならいい。それに、そっちは問題ない」
そう言って、アブさんが鉄格子の間から、何かを落とし入れる。
確認すると、それはマジックバッグだった。
もちろん、俺の。
「アブさん、これ……」
「うむ。取り返しておいた。もう少し詳しく言うのであれば、アルムの装備を外したあと、地下へと連れて行った際に、装備を入れた箱を放って誰も居なくなったからな。壊すと言っていたし、その隙に回収しておいたのだ。それに、アルムなら気にしているだろうと思ってな。竜杖とドラゴンローブもその中に入れている」
「……アブさん。ありがとう。本当に、ありがとう」
「気にするな。仲間のため、友のためにやったことだ」
うっ。泣きそう。
本当に感謝しかない。
アブさん……できるスケルトン――じゃなくて、リッチ――でもなく、ダンジョンマスター……だけど、さすがは「絶対的な死」だよ、まったく。
マジックバッグの中を確認するが、特に取り出したモノはなさそうだ。
ラビンさんの本も無事。
ドラゴンローブはあとで着るとして、今は竜杖のご機嫌である。
竜杖を出すと………………私、不機嫌です――と装飾の竜が訴えてきているような気がした。
私と離れるなど――マジックバッグの中に入れるなど――と、怒りも感じられる。
竜杖を壁に立てかけ、俺はひたすら謝った。
傍から見ると、杖に向けて必死に謝る俺は変に映るかもしれない。
けれど、それがどうした。
不機嫌な竜杖の機嫌を取る方が大事である。
俺の羞恥心など関係ない。
ひたすら謝り、時に褒め、竜杖の機嫌が戻る。
カッコいい、可愛い、というのは駄目だった。
美しい、というのが正解だった。
あと、この場に長く居たくないようで、早く出るように、と言われた気がする。
もちろん、と答えたいが、今から脱獄計画を練ろうかというところだったので、もう少しだけ待った欲しいと伝えると、仕方ない、と竜杖は納得してくれた。
これで一旦落ち着き――。
「というか、アブさんはどうして外に居るままなんだ? 通り抜けられるだろ」
「いや、なんというか、入らない方がいい気がしてな」
「……ああ、もしかしてだけど、ここに居ると魔力が吸われるからか?」
「そうなのか! もしそうなら、そのせいだな」
間違いない、と頷くアブさん。
まあ、特殊な存在であることは間違いないし、魔力関係には敏感なんだろう。
「ところで、脱獄しようとしていたのか?」
「ああ、そうなんだよ。この場に居る全員で脱獄するとまでは決めたんだが、外の様子が何もわからなくてな。どうしたものかとこれから相談するところ」
「それなら、某が見て来ようか? 某なら見つからない」
……ああ! その通りだ!
懸念していたことが一気に解決したような気がした。




