サイド アブの追跡 2
この場のおかしな状況に気を取られて、危うくアルムを見失うところだった。
黒い鎧の騎士二人が、この場でもっとも大きな建物の中に入っていく。
ここも、他に数か所あるところと同じように、地下の方から妙な魔力の流れを感じる。
……違った。骨伝導で伝わってくる。
う~む。この言い回しに早く慣れないといけないな。
そうすれば、「青い空と海」ともっと仲良くなれるはず。
そういう意味という訳ではないが、アルムはこの言い回しを見事に使いこなしていそうな気がする。
正直、羨ましい。
某にはないセンスというか……これが骨身と生身の違いだろうか。
肉体か……今はもう………………あっ、某は生まれた時からこうだった。
肉体があった時なんてなかった。
しかし、ないならないで気になることがある。
某に肉体があれば、どのような姿なのだろうか?
いやいや、わかる。きっと良い男性だったのは間違いない。
それも、町中を歩けば女性十人が十人とも振り返るのは間違いないレベルの……いや、それは言い過ぎか。美化し過ぎていたかもしれない。
……女性十人中九人くらいにしておこう。
……フッ。某はそれだけ罪な男性ということか。
まあ、未だ人が怖いので町中を歩くなんてとてもできないし、そもそも肉体の方にも興味はまったくないが。
――って、アルム! あとを追わなければ!
しっかりとあとを追って、ここぞという時に動けないと、助けられる時に助けられない。
某も壁抜けを利用して、もっとも大きな建物の中に侵入する。
―――
………………。
………………。
はい。見失いました。
だが、これは仕方ない……そう、仕方ないのだ。
何しろ、壁抜けはできても、壁の向こうを見ること――透視はできない。
建物の中であとを追うのはできな……いや、待てよ。そう、そうだ。こういう時こそ、骨伝導ではないのか?
それに気付く某の頭脳が怖い。神懸っている。
さあ、某の骨よ……アルムの骨の震えを骨伝導で感じと――わかるか!
壁が邪魔で無理だ。いや、熟練なら可能かもしれないが、少なくとも某には無理。
さすがに今から練習して熟練の域に達する頃では遅過ぎるだろう。
……仕方ない。一部屋ずつ見て回るか。
―――
「くそっ! 想定していた反応ではない! 原因はなんだ、素材か? それとも魔力の質か」
何やらごちゃごちゃとした部屋の中で男性が荒ぶっていた。
どうやら、何か失敗して原因を探っているようだが、その中に自身の腕前が考慮されていないのは……それだけ自惚れている、ということだろうか?
まあ、なんだろうが某には関係ないので、次へと向かう。
―――
「……はあ」
ごちゃごちゃしている部屋は先ほどと変わらないが、その部屋の中で男性が一人深い息を吐いていた。
「……早く結婚しろと言われても、そんな相手居な………………いや、待てよ。居ないなら、造れば良くね? ……そうだよ! 魔道具で自立型の人形を造れば! 容姿も体型も俺好みに! 理想の女性をこの手で!」
高笑いを上げる男性。
……大丈夫だろうか? 何やら妙に極まっているような。
まあ、今はアルムを見つけることが優先である。
―――
「てめえ! 彼女は俺の腕前に惚れているんだよ!」
「はあ? 俺の方がお前より上なんだが! つまり、彼女は俺に惚れているってことだ!」
「やめて! 私を取り合って争わないで!」
……修羅場? だろうか。
二人の男性が一人の女性を前にして争っている。
特に興味はないので次へ。
―――
……ん? なんだ、ここは?
縦長の箱がたくさん置かれているが……。
「あのクソ上司。今日も『期待しているから頑張ってね!』とか言いながら、私の肩を軽く揉んできてさ」
「それってセクハラ」
「しかも、そいつ顔を合わせて話す時、チラチラ胸を見てくるとか……バレバレなのに」
「うーわ。最悪。それ」
姿は見えぬが、女性二人による会話が聞こえてくる。
よくわからないが、長居しない方がいいというか、そもそもする気はないので、さっさと次へと向かう。
―――
妙な部屋に着いた。
大きな箱が数多く置かれ、箱の中には武具類が入れられている。
しかも、中身はバラバラ。
特徴というか、共通項のようなモノはない。
一つの箱の中に数人分の装備品をそのまま放り込んだような感じだ。
なんとなく、この部屋のことは覚えておいた方がいい気がしたので、記憶に留めておく。
ここに人は居なかったので、次へと向かった。
―――
見つけた!
辿り着いたのは、地下へと続く階段がある部屋。
そこで、黒い鎧の騎士二人がアルムの所持品――竜杖、ドラゴンローブ、マジックバッグを外し、大きな箱の中に放り込んでいく。
その様子を階段前に居る兵士二人が見ている。
「ふむ。中々上等そうな杖とローブだな。このバッグはマジックバッグか?」
筋骨隆々の方がそう言い――。
「……どうでもいい。どうせ、魔道具師たちが調べて壊すだろうし」
「まっ、それもそうだ。どのみち、杖だと使い道はないしな! ハッハッハッ!」
細身の方が答えると、筋骨隆々の方が豪快な笑い声を上げる。
そして、黒い鎧の騎士二人は装備を外したアルムを兵士二人に渡し、この場を去っていく。
アルムを受け取った兵士たちは、アルムを地下へと連れていった。
この場に残るは某だけ。
……ふむ。直感というか感覚というか、某がこのまま地下に行くのは危険な気がする。
そういえば、この建物の下に地下の様子が見えそうな隙間があったな。
そこを見てからの方がいいかもしれない。
そう判断してこの場から離れようと思った時、ふと大きな箱が目に付く。
おそらく、あの箱ばかりの部屋に行くのだろうが……アルムに直ぐ渡せるように、この場で回収しておいた方がいい気がする。
マジックバッグに竜杖とドラゴンローブを入れ、某の透明化範囲に組み込まれるように持ち、この場をあとにした。




