サイド アブの追跡 1
時は遡り――。
―――
アルムと共に向かった国……ミリ……リミタ……帝国。そう、帝国。
それは間違いない。
国名など興味がないので憶えていないが、帝国であったことは確か。
その帝国に着いてから色々と起こったが、その中心地――アルムから教えてもらったが、長ったらしい名前の帝都に辿り着く。
そもそも国の中心地なのだから、憶えやすい名前の方がいいと思うのだが……まあ、某には関係ないことだ。
しかし、その帝都で問題が発生。
それも大きなのが。
上空で見ていると――現れた黒い鎧の騎士二人に、アルムが負けた、ということだ。
ただ、完膚なきまでに、という訳ではない。
状況が悪かったのだ。
アルムが得意としているのは、超火力による超範囲魔法攻撃である。
帝都の中ではそれが満足に振るえない。
それに、体付きはしっかりしてきたが、体力はまだまだなのだ。
何より、一対二と数的不利。
身体強化魔法を使用していたようだが、無理のない範囲での強化のようであったし、当然の結果と言えなくもない。
アルムもな……もう少し魔法の扱いが上手くなればというか、魔法の威力や範囲などを狙った通りに調整できるようになれば、もっと様々な手段が取れるのだが……・
しかし、それよりもおかしく感じるのは、黒い鎧の騎士二人の方だ。
見た目での判断だが、そこまで強そうには見えない。
いや、某はダンジョンマスター。言わば上位存在。
生身の人間からすれば強そうに見えるのかもしれない……ということはあるかもしれないが、それでもそもそもがおかしいのだ。
なんというか、魔力の流れが……はっ! ここだ! つまり、黒い鎧の騎士二人から伝わってくる骨伝導がおかしいのである! ……ふっ。決まった。
思わず笑みが零れてしまう。
まあ、そもそも骨なので表情として表れることはできないが。
というか……待てよ。アルムが負けたということは、そのアルムに負けた某よりも、黒い鎧の騎士二人の方が強いということか?
………………。
………………。
いや、負けないが? 某ならあんな二人即死で一発だが?
アルムには効果はなかったが、黒い鎧の騎士二人には効くだろう。
いや、効く気がする。これが普通。
アルムがおかしいのだ。
つまり、これは相性の問題と言えなくもない。
それに、即死であれば帝都の方にも被害が出ないし、数的不利も関係ないのだ。
某であれば、纏めて即死させるなど容易である。
伊達にダンジョンマスターではないのだよ。
……あっ! アルムが連れて行かれる。
助けた方が……いや、待てよ。助けることは容易だが、それは某という存在を明らか……にならないな。そんな下手を打つ真似を某がするはずもない。だから、大丈夫だ。
しかし、この状況で助けた場合、気絶しているアルムを守りながら、という不利を自ら抱え込むことになる。まあ、それでも某の即死であれば余裕だが。
だが、絶対はない。
某だって今は姿を隠しているが、何がどうなって発覚するかわからないのだ。まあ、某ならそれでも発覚してしまうなんてことにはならないが。
……あれ? それだと問題なし?
これは困ったな。某が優秀であるが故に、ただそれだけで大抵の問題が問題ではなくなってしまう。……そう。某が優秀であるが故に。
二回言うことが大事な気がした。
「――っ!」
某が某の優秀性を再理解している間に、アルムが黒い鎧の騎士二人に連れ去られていく。
……ん? 待てよ。連れ去る?
どうして殺さないのだ? さすがにそこまでやるのであれば、某も姿を現わすことになろうがアルムを助けていた。……はっ! まさか、某を恐れて!
……いや、向こうは某を認知していない。
ということは、アルムを殺すのではなく連れ去るのは……そうする理由があるということか。
直ぐ殺さないのなら……仕方ない。まずは様子見をして、その辺りを見極める方がいいかもしれない。
そう判断を――待ってくれ! 某を置いていかないでくれ!
空中から、アルムを連れ去る黒い鎧の騎士二人のあとを追っていく。
―――
アルムが連れて行かれたのは、帝都の一区画、だろうか。
帝城かと思っていたのだが、違った。
居住する場……ではなさそうだ。
何しろ、普通の家屋のようなモノは見えない。
その代わりという訳ではないが、いくつかの平屋が合わさったような幅のある広大な建物がいくつか点在していて、多くの人がそこに出入りしている。
そこが重要そうに見えるのは、家屋のような木製ではなく、外壁部分が鉄製だからだろうか。
また、ここには広大な建物だけではなく、大なり小なり妙な建造物も多い。
特に目に付くのは、帝都の外壁よりも高い塔。
その屋上部分に造られているU型建造物。
あれは一体……いや、気になる部分は他にもある。
いくつかの建物の下――地下から妙な気配が感じられた。
地下から魔力が建物全体……いや、周囲一帯に流れているのは……明らかに異質。異常の類だ。
考えなしに地下に向かうのは危険だな。
だが、ここには……何かある。間違いない。
某の直感がピンときている。
臭う……臭うぞ……。
ここには怪しい臭いがぷんぷんする。
……まあ、某に鼻はないが。
………………。
………………。
はっ! 間違えた! ここが怪しいと、骨伝導で伝わってくる!




