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賢者巡礼  作者: ナハァト
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サイド リミタリー帝国

 リミタリー帝国。帝都・エンペリアルリミタール。

 その中心地にある帝城――その一室。

 そこにあるのはすべてが一流……いや、超一流と呼べる品質の物ばかりが揃えられていた。

 本棚も。テーブルも。椅子も。花瓶も。生ける花も。何もかもが。

 合わせて、執務机と椅子も、当然超一流の品質である。

 ここまで超一流品質で揃っているとなると、それこそ、それ以下の物がここにあるのは許されない、と言わんばかりだ。

 だが、この部屋の中には、それすらも上――いや、霞むと言ってもおかしくない存在がある、と部屋の主は思っていた。

 それは自分自身。

 部屋の主である、リミタリー帝国の皇帝――「ラトール・リミタリー」。

 白髪交じりの金髪で、相手に冷たい印象を与える目を持つ、五十代ほどの男性。

 歳を感じさせない鍛えられた体付きの上に、皇帝であると示すように超一流品質のローブを羽織っている。

 ラトールは、皇帝である自分はそれだけの存在――超一流を超えていると思っていた。

 故に、だろうか。

 ラトールは常に自分自身への絶対の自信を持っているため、皇帝らしいとも言える尊大な態度の者である。

 椅子に深く座り、下腹部付近で手を組むラトール。

 その視線は目の前にある執務机を越えた先で、立っている者に向けられていた。


「……あれは確か、魔道具師長であるお前が製作した物だったな、『ジャアム』」


 ジャアムと呼ばれた者が笑みを浮かべる。

 茶髪に、鋭い目付きの、三十代後半くらいの男性。

 鍛えてはいないのだろうが、細身……いや、ガリガリと言っても遜色ない体付きの上に、白衣を身に纏っている。

 ラトールから非難されているのはわかっているのだが、それでもジャアムは笑みを浮かべた。


「ええ、その通りですよ、リミタリー皇帝陛下」


「その割には反省のようなモノが見えないな。不出来な魔道具だったというのに」


「いいえ、いいえ。それは違います。リミタリー皇帝陛下。寧ろこれは喜ばしいことなのですよ。それに、アレは別に壊れた訳ではありません。測定値以上であったため、処理ができずに爆発してしまったのですよ」


「……何が違うというのだ?」


「大きく違います。私が作った魔力量を計測する魔道具が計測できずに爆発するような魔力量を持っている者が手に入ったのですよ。これで使用できる魔力量が一気に増えました。アレの完成はもう間近となるでしょう」


「なるほど。故障ではなく想定外――それも、こちらにとって都合のいい展開という訳か。そいつは魔法使いか? 既に捕らえているのだろうな?」


「ええ。抜かりなく。計測魔道具が爆発したと報告を受けて、それだけの魔力量保持者であれば相応の魔法の使い手であると思い、念のためにと『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』のイドとレイブンに行ってもらいました。事実、それなりに強い魔法使いだったようですが……まあ、最上位品質の戦闘用魔道具を使用している『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』の前では敵は居ませんから」


 ヒッヒッヒッ、と笑うジャアム。

 笑うジャアムを見ても、ラトールは表情を変えない。

 ラトールにとって、重要なのはそこではないからだ。


「既に終わったことならそれでいい。だが、隠蔽はしっかりと行ったのだろうな?」


「はい。それはもちろん。危険人物を『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』が取り押さえた、といった風の情報を流させております」


「それならいい。下手に騒がれると面倒だからな。それで、魔力に余裕ができたのなら、アレの完成を急げよ。そろそろ、元周辺国の者共が本格的に動き出しそうだからな。一掃するのに丁度いい。それが終われば、次は世界の制覇に使うのだからな」


「かしこまりました。ですが、よろしいのですか? 元周辺国の者共を率いているのは――」


「構わん。能力があろうが、我が意に沿わないのであれば必要ない。代わりは居る。きちんと我が意に沿うのがな」


「そうでしたな」


 思い当たることがあると、うんうんと頷くジャアム。

 そうして、ラトールに対して敬うように一礼する。


「では、報告も終わりましたし、私はアレの製作に向かいます」


「ああ、期待している」


 そう口にするラトールだが、その表情や態度、雰囲気といった部分から、とても言葉通りに思っているとは見えない。

 しかし、これはいつも通りであるのか、ジャアムは気にした様子もなく、「ヒッヒッヒッ」と笑いながら執務室から出ていった。

 執務室に一人残ったラトールは、大きく深く息を吐く。


「……漸く完成の目途が立つか。間に合うかどうかは……まあ、どちらでもいいか。いざとなれば、『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』で駆逐すればいい」


 そう口にして……小さく首を振る。


「いや、『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』を信用し過ぎるのは良くないな。それでは、今も時折恐怖に震えている父親と同じ道を歩むことになりかねない。まあ、そのおかげで早い内に皇帝になれたし、アレの製作のきっかけにもなったのだから、悪いことばかりではなかったが」


 笑みを浮かべるラトール。

 その笑みには傲慢なだけではなく、邪悪なモノも含まれていた。

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