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賢者巡礼  作者: ナハァト
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できない=役立たず、ではない

 ゼブライエン辺境伯に任せるだけで、すいすいと進んでいく。

 俺のやることがない。

 ゼブライエン辺境伯が倒したあとに、竜杖でポカポカと叩くことさえ必要ない。

 何しろ、俺が今使える魔法は火属性。

 しかも黒い靄を燃やした時以外は、まだ魔法行使は失敗中である。

 あれは偶々上手くいっただけのようだが、そんな状態で今魔法を使えばどうなるか。

 考えるまでもない。

 真夜中の「ツァード」を照らす大きな焚き火の出来上がりである。

 なので、魔法が使えないとなると……なんで俺はこっちに居るのだろうか?

 いや、「新緑の大樹」の方に行っても同じか。

 魔力操作が甘い今の俺は、この状況で戦力に数えない方がいい。

 ……役立たず感が増したが……そうだ。

 人質を助け出せば即座に戻らないといけない。

 その時のための魔力を残しておくと考えれば、まだ……まあ、受け継いだ魔力が豊富なので、ここで魔法を使いまくっても余裕で戻れるけど。

 なんてことを考えている間に、ゼブライエン辺境伯が巡回の兵士を二回無力化して断言する。


「……どうやら、他に巡回しているのは居なさそうだ」


「わかるのか?」


「気配でわかる」


 いや、わからない。


「わからないって顔だな。まあ、こういうのは魔法使いというよりは武芸者の方が得意だからな」


「確かに、俺にはさっぱりだ。ただ、気配がわかるのなら」


「ああ、あとは気配が集まっているところに向かうだけだ。位置的に……ガオルの執務室だ。ある意味、予想通りだと言える」


「そうなのか?」


「ああ。この屋敷に牢や地下室のようなモノはないからな。執務室は重要種類なども扱う関係上、部屋自体の防衛にも力を入れているのだ」


 なるほど。

 まあ、気配なんてわからないし、先行するゼブライエン辺境伯のあとに付いて行き――執務室の直前でとまる。


「……居るな」


 ゼブライエン辺境伯から感じられる圧力が増す。

 ついでに筋肉の厚みも増したようだ。

 うしろから様子を窺うと、執務室だと思われる扉の前に、騎士だと思われる鎧姿の男性が一人立っていた。

 抜き身の剣を持ち、どこか狂気を感じさせるような笑みを浮かべてこちらを見ている。


「……おや、そのお姿はもしやゼブライエン辺境伯ですか? これは驚いた。シュライク男爵が反乱軍を押さえていると思っていましたが、一体どのような手段でこちらへ?」


「さてな。ただ、もう少し言葉と表情を合わせた方がいいぞ。驚いているようには見えんな」


 ゼブライエン辺境伯が言うように、騎士の男性は狂気性を感じさせる笑みを一切崩していない。


「ええ、どのような手段にしろ、ここまで来たのであればどうでもいいことですから。寧ろ、名が通っているゼブライエン辺境伯を殺れるのですから」


 そう言って、騎士の男性が襲いかかってくる。


「下がっていろ」


 ゼブライエン辺境伯も前に出て、騎士の男性と戦い始めた。

 言われた通りに下がり、大人しく観戦。

 正直戦闘技法自体さっぱりなので、何がどうとかは一切わからない。

 なので、見たままで言えば互角――いや、ゼブライエン辺境伯の方が、分が悪そうに見える。

 ゼブライエン辺境伯は騎士の男性が持つ剣で斬られないことに重きを置いていて、今は避けることに気を遣っているように見えた。


「ふっ。さすがはゼブライエン辺境伯。まさか一斬りもできないとは」


「こちらも驚いている。想像以上の剣の使い手が居たからな。だが、負ける気はない」


「その武で名をはせたゼブライエン辺境伯……斬らせていただきますよ」


 再び戦い始める二人。

 そのまま様子を窺っていると、ゼブライエン辺境伯は騎士の男性もそうだが、その剣の方により注意を向けているような気がした。

 まあ、感覚的な話なので、実際はどうかわからないが。

 それでも、戦闘が続くにつれて、ゼブライエン辺境伯には余裕が、騎士の男性には焦りが出始めているように見える。

 そうして考え事に集中していたのが悪かった。

 戦いの中、ゼブライエン辺境伯と騎士の男性の立ち位置が逆になった瞬間、騎士の男性が俺に斬りかかってくる。


「しまっ!」


 ゼブライエン辺境伯の焦る声。


「はははっ! 敵の数は減らせる時に減らさないと!」


 愉快そうな騎士の男性。

 人を殺そうとしているのに、楽しそうだ。


「逃げろっ!」


 ゼブライエン辺境伯が何か言っているような気がする。

 一瞬――体が固まったように反応してくれない。

 けれど、殺意を向けてくる騎士の男性が、公爵家の跡継ぎが俺を蹴り落とした時の姿と被り……意地で動かす。

 ここで一瞬でも騎士の男性の動きをとめることができれば、あとは追っているゼブライエン辺境伯がどうにかしてくれそうな気がしたというのもある。

 といっても、取れる行動は少ない。

 騎士の男性が振り下ろしてくる剣と合わさるように、竜杖を持ち上げる。


「馬鹿めっ! これの剣身は総ミスリルだ! そんな杖など――」


 騎士の男性の剣と竜杖がぶつかった瞬間、キン! と甲高い音が鳴ったかと思えば、騎士の男性の剣が竜杖と衝突したところからポッキリと折れた。

 ポカン、とする騎士の男性。

 それは俺も同じ。

 ちなみに、竜杖には少しも傷が付いていない。

 そして、折れた剣身部分が空中でくるくると回りながら壁と天井にぶつかって、最終的に騎士の男性の背中にサクッと刺さった。


「うっ」


 そんな呻き声を上げて、騎士の男性が倒れる。


「………………」


「………………」


 倒れた騎士の男性を挟んで、ゼブライエン辺境伯となんとも言えない雰囲気になった。


「……まあ、切れ味が良過ぎるのも考えものだな」


 良しとした。


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