退こうとしても退けない時がある
答えたのは筋骨隆々の方。
「なんのつもりもない! 見極めだ! 敵かどうかのな! そして、貴様は防いだ! 敵意ありだと判断する!」
「……無茶苦茶言うな。誰だってとめるだろう……斬る気満々だったぞ、こいつ」
「それはすまんな! そいつは少し行き過ぎたところがあるんだ! まあ、死んでなければ治療くらいはしていたから安心しろ! 爆発した理由がこちらの考えている通りなら、使い道があるからな!」
「行動したあとにそんなことを言われて、はいそうですか、と頷けるとでも?」
ズズ……と体が少し下がる。
いや、押された、だろうか。
細身の方の力が増していっている。
その身のどこにこれだけの力が……。
「まあ、今は別の使い道になっているがな!」
「……別?」
「そうだ! 何しろ、我々『暗黒騎士団』の相手ができる者となると限られていてな! 相手にならない者ばかりで、腕が落ちないかと常に心配しているのだ!」
「……丁度いい相手だと?」
その通り、と細身の方が笑みを深くする。
同時に、こちらに向けられる殺意が強くなった。
……殺る気満々過ぎるだろ、こいつ。
「頑張ってくれたまえ! 死にたくなければ、できる限りの抵抗をすることをお勧めする!」
「……一つ、抜け落ちているぞ」
「抜け落ちている? はて、何かな?」
「……俺がこのままお前らを潰すかもしれないということだ」
「できるものならやってみたまえ! ハッハッハッ!」
筋骨隆々の方が豪快な笑いを上げるのと同時に、細身の方が動き出す。
力が一気に増して、双剣を受けとめていた竜杖が弾かれる。
細身とは思えない怪力だ。
……まいった。これ以上の身体強化魔法は体への負担が大きくなり過ぎる。
無理を通してもいいが、まだそこまでではない。
細身の方が襲いかかってくる。
双剣による連斬が振るわれるが、そのすべてをかわし、時に竜杖で受けるか流す。
危険だと思うのは、見た目と力が違い過ぎるということ部分である。
細身の素早さ、身軽さに、人を飛ばせるほどの怪力持ち――厄介という他ない。
上空に居るアブさんの姿が見える。
俺を手伝おうとしているようだが、視線で断っておく。
もし、捕らえられるのなら、アブさんの存在を今感じさせる訳にはいかない。
あとで必要になる。
また、戦いが始まったことで、周囲が一気に混乱し出した。
門番が兵士ということで周囲の人を下がらせたり、宥めようと声をかけるが、そう簡単に落ち着く訳もない。
迷惑をかけている形だが、これは俺のせいではないというか、どう考えても斬りかかってきている細身の方が悪いと思う。
それに、細身の方は周囲の状況なんか気にしていない。
「……どうした? 避けるだけか? それならつまらないのだが」
細身の方が、こちらを嘲るような笑みを浮かべる。
「漸く口を開いたかと思えば……近接職が魔法使いを相手に近接でやり合って、得意げにするなよ。底が知れるってもんだ」
「……なるほど。だからどうした」
細身の方はそういうのを気にしないらしく、双剣による連斬が繰り出され続けて俺も息吐く暇がない。
というか、いい加減面倒だ。
馬鹿正直にやり合う必要はないし、こんなことがまかり通っているようなら、結局のところリミタリー帝国もまともではない。
……せめて、目的を果たしたかったが、こうなってしまっては難しいだろう。
まあ、手段が他にない訳ではない。
ここは一度退くか。
「……『白輝 闇を裂き 流星のように降り注ぐ 拡散する一筋の煌めき 光輝雨』」
双剣の連斬の合間を縫うように詠唱し、放つ。
細身の方の頭上に魔法陣が出現し、そこから光の筋が数十と降り注ぐ。
同時に、俺は細身の方から距離を取って、退き――。
「ハハハハハッ! そうこなくてはな!」
急に上機嫌となった細身の方が、双剣の連斬で降り注ぐ光の筋をすべて斬り払っていく。
……そんなことができる威力ではないというか、少なくとも双剣がもたない……はずなんだが、双剣は欠けてもいない。
しかも、すべて防がれ、細身の方は一発も受けていなかった。
……というか、細身なんだから防ぐんじゃなくて避けろよ。
わざわざ防ぐというか斬り払う必要はないと思うのだが……まあ、そこまで気にする必要はないか。
さっさと退こうと帝都の外に出ようと――。
「どこに行こうというのかね?」
そんな声が聞こえたと同時に、横から衝撃を受ける。
咄嗟に身体強化魔法をさらに強くするが、衝撃の威力が高く、吹き飛んで帝都の外壁に体を打ち付けた。
ドラゴンローブと身体強化魔法を強くしたことで、そこまで大きなダメージとはなっていない。
それでも多少は受けたので、意識をハッキリさせるように頭を振り、何が起こったのかを確認する。
視線を向けた先に居たのは、巨大な槌を振り抜いた姿勢の筋骨隆々の方。
……そういうことか。筋骨隆々の方も細身の方と似たようなモノ――いや、その逆。力の強さは見た目通りで、さらに見た目にそぐわない素早さ、ということか。
「どこに行く、か……ちょっとそこまで? 詳しく聞くなよ。恥ずかしいだろ」
「そうかそうか! だが、まずはこちらの用件を片付けてからにしてもらおうか!」
筋骨隆々の方が突っ込んでくる。
合わせて、細身の方も。
いや、一対二はずるくないか?
両者の猛攻をさばくだけで精一杯となり、魔法を放つ隙がない。
こうなってくると、あとは体力の問題。
身体能力の強化は魔法でできるが、さすがに体力はできない。
そこまで豊富な体力を持っている訳ではないので、俺は息が切れるのと同時に追い詰められていく。
「まあ、思っていた以上に粘ったな! そう悲観する必要はないぞ!」
「もう少し遊びたかったが、仕方ない」
細身の方の双剣を回避するが、そこに追い打ちとして筋骨隆々の方の巨大な槌が振るわれて、打ち飛ばされる。
再度帝都の外壁にぶつかり、衝撃で視界が暗転し――気を失う。




