表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
318/614

俺のせい……ではないような

 門番の兵士に呼びとめられ、足をとめる。

 先ほど門の上部で起こった爆発と関係あるのかもしれない。

 ここで逃げ出せば、余計に怪しい。

 妙な疑いをかけられると困る。

 できれば目的を果たすまでは目立ちたくなかったが、こうなってしまっては無理だろう。

 ……まあ、いざという時は仕方ないと割り切って動くつもりだが、今はその時ではないか。

 状況がわからないのだ。

 ここで少しでも知っておくために、大人しく流れに身を任せて様子を窺うことにする。

 門番の兵士が三人現れ、俺を取り囲む。

 しかも、既に武器を抜いており、剣や槍の切っ先が俺に向けられる。


「……随分と物騒だな」


 俺はそう答えつつ、周囲の様子を窺う。

 ざわざわとし出してきた。

 それもそうだろう。

 門での騒動だ。

 人の目があり過ぎる。

 それに、帝都もこれまでに寄った町と変わらずというか、既にピリピリとした雰囲気が流れているようだ。

 ……あっ、それはこの状況のせいか。


「……何をした?」


 槍を構える門番の兵士の一人が、そう口にする。

 強い敵意付きで。


「何かした覚えはないが?」


「何もせずに、アレが爆発する訳ないだろ」


「アレと言われても、そもそもそれがなんなのか、俺は知らないんだが?」


「そんな言葉が通じるとでも?」


「そう言われてもな……俺は事実しか口にしていない」


「こちらからすれば、貴様が通って魔道具が爆発したのだ。なら、貴様が何かしたとしか思えない」


「……爆発したのは魔道具なのか? なんの魔道具だ?」


 しまった! と表情に出る門番の兵士の一人。

 口が滑った、というヤツだろう。


「………………」


 そのまま黙ってしまう、門番の兵士の一人。

 いや、それは他の二人もそうだった。

 余計なことを言わないように、だろう。

 まあ、もう言ってしまったあとっぽいが。

 ただ、会話もなくなってしまった。

 え? これからどうしたらいいんだろう。

 ……行っていいのかな? と思って一歩前に行くと、合わせて門番の兵士の三人も一歩前に動く。

 行ったら駄目っぽい。

 なら、と一歩うしろに下がる。

 合わせて門番の兵士の三人も一歩うしろに動く。

 ……どういう状況、これ?

 俺をこの場から動かす気がない、というのはなんとなく伝わってくるのだが……何か、誰か来るのを待っているのだろうか?

 他の門番は……俺の相手は三人に任せて、通常の門番業務を行っている。

 ただ、俺が居るのは門から入って直ぐの中央なので、少しばかり邪魔になっている感は否めない。

 ……なんか、すみません。

 ……いや、待てよ。ここから動くなと言ったのは門番の兵士だし、俺はその通りにしているだけで、今通行の妨げになっているのは俺のせいではなく、動くなと言った門番の兵士のせいではないだろうか?

 ………………。

 ………………。

 間違いない。

 というか、誰か来るとして、まだ来ないのか?

 なら、別のことを考えるか。

 ……爆発したのが魔道具だったのは……本当になんの魔道具だったんだ?

 俺が通ったら爆発するとか……意味がわからない。

 まさか、敵味方判定? ……いや、どうやってそれを判別するんだ。

 敵意? ……可能性はあるな。

 俺の敵意は爆発するほどだぜ! ………………いやいや、ないない。

 となると、今のリミタリー帝国の情勢を考えれば、元周辺国の者……だと俺に反応するのはおかしいから、リミタリー帝国出身以外に……それこそどうやって判別するんだ?

 そもそも、判別できたとして、爆発するのはおかしくないか?

 しかし、それ以外の俺に反応して爆発……いやいや、違う。その考えだと、俺のせいということになってしまう。

 まだ確定していない。

 丁度爆発するタイミングで俺が通っただけかもしれないのだ。

 ……無理があるけど。

 いや、諦めてはいけない。

 可能性として、ゼロではないのだ。

 そんなことを考えていると、帝都の奥の方からこちらに向かってくる強い気配を感じる。

 視線を向ければ、一台の馬車がこちらに向けて駆けて来ていて、気付いた人が次々と避け、ここまでの真っ直ぐな道ができた。

 馬車はそこを通ってこちらまで来て、とまる。

 どことなく嫌な予感。

 そう感じるのは、馬車が黒塗りだからだろうか。

 そして、そんな俺の予感を体現するように、黒塗りの馬車から黒い鎧を身に付けた者が二人降りてきた。

 リミタリー帝国において、黒い鎧を身に付けている者は限られている。

暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」であることの証明なのだ。

 一人は、四十代くらいの筋骨隆々な男性で、巨大な槌を背負っている。

 もう一人は、二十代後半くらいの細身の男性で、双剣を腰に差していた。

 筋骨隆々な方が、爆発した門の上部を見て笑みを浮かべる。


「おお! 本当に爆発しているぞ! そいつが通ったら爆発したということで間違いはないな?」


 問いかけた先は、門番の兵士の一人。


「はっ! 間違いありません! この者が通ると同時に爆発しました!」


「そうかそうか! よくぞ、直ぐに引きとめた! 職務に忠実なようで何よりだ!」


「はっ! ありがとうございます!」


 嬉しそうに答える門番の兵士の一人――をしり目に俺は身体強化魔法を発動して、竜杖を縦に持って前に突き出す。

 ギィン! と金属同士がぶつかる甲高い音が響く。

 なんてことはない。

 細身の方が双剣を抜いて襲いかかってきたので、それを受けとめたのである。


「なんのつもりだ?」


 俺の問いかけると、細身の方は残忍そうな笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ