思わず出てしまう一言ってある
竜杖に乗って空を進む。
俺の隣にはアブさんが一緒に飛んでおり――。
「……なんというか、また出会いそうな感じだな」
「……何が?」
「言わなくてもわかるだろう。あの黒い鎧の」
「あー、あー。聞こえない。やめてくれ、アブさん。そういうのは口にしない方がいい。口にすると、現実に起こるかもしれなくなるからな」
「なんだ? 会うのが嫌なのか? 案外、アルムと気が合いそうな者のように見えたが?」
「合うとは思わないが、そもそも相手をするのが面倒なのは間違いないな」
できれば会いたくないが……アブさんと同意見と言うか、なんとなくまた会いそうな気がしないでもない。
妙な縁ができてしまった気がする。
「……アブさん」
「なんだ?」
「アブさんの即死魔法で、直接的な命ではなく、妙な縁とか即死できないか?」
「意味がわからん。どうやって即死させるのだ?」
「だよな。言ってみただけだ」
もしまた会うことがあったら、今回と同じように流せたらいいんだが……さすがに次は無理そうな気がした。
「暗黒騎士団」の一人だからということそうだが、そもそもああいうタイプは簡単に倒せなさそうな気がして面倒なんだよな。
リミタリー帝国……ロクなもんじゃないな、と思いつつ、帝都に向けて飛んでいく。
―――
町から町へ。繋がる街道が見える上空を飛んでいく。
リミタリー帝国に入って直ぐに面倒に巻き込まれたような形であったが、それ以降はなんだかんだと何かに巻き込まれるようなことはなかった。
正直に言えば、その心配が一番大きかったのは間違いない。
ただ、気になる点がなかった訳ではなかった。
帝都に向かうまでの間にいくつか町に立ち寄ったのだが、どこもピリピリしているというか、殺気立っているような雰囲気があった、ということだ。
それは帝都に近付けば近付くほど、強くなっていく。
どこも内戦が起こるのを察しているのだろう。
……俺が思っているより、内戦が起こる日は近いのかもしれない。
アブさんにもそういう感じがないか尋ねてみたが、同じ意見だった。
なんというか、国全体に死の気配が漂っている、と。
「なんといっても某は即死属性持ちだからな。そういうのに敏感なのだ」
「……そういうのは、骨伝導ではなく?」
「………………」
「………………」
「………………はっ! しまった!」
そう返すのが正解だった! と悔やむアブさん。
アブさんではなく俺がそれを言ってどうする、と俺は俺で思うところがある。
自分で思っている以上に浸透しているのかもしれない。
それでも救いがあるのなら、俺とアブさんはそんな雰囲気に飲まれることなく、いつも通りだということだろう。
アブさんが共に来てくれて、本当に良かった。
そうこうしている内に、帝都に辿り着く。
――リミタリー帝国。帝都。エンペリアルリミタール。
長い。闇のアンクさんの記憶があるので言うことはできるが、俺自身が覚える気は一切ない。
……ま、まあ、帝国はここにしかないし、帝都と呼べる場所もここにしかないので、そのまま帝都でいくんだが、闇のアンクさんの記憶の中にある帝都と、何も変わらない姿の帝都が今目の前にある。
堅牢な防壁に囲まれた巨大都市。
内部は中央にある帝城を中心とした区画整理が行われていて、居住区、商業区、貴族区と大きく分かれているのだが、帝都だけの特殊な区画が二つ存在している。
一つは、「暗黒区」。
ふざけているのではなく、大真面目。
まあ、闇のアンクさんの記憶で知った時、これを考えた皇帝は何を考えて? と言いたくなって、多分自信満々の顔だったんだろうな、と思うのだが、今も続いている区画だ。
ここは公爵、侯爵クラスの貴族家と共に、帝城をぐるっと囲うような位置にある区画で、皇帝直属の「暗黒騎士団」が居住している。
「暗黒騎士団」には、力だけではなく、それだけの権力も与えられている、ということの証明でもあるのだ。
実際、皇帝を除けば、場所が示しているように、公爵、侯爵クラスといった所謂上位貴族と同等の地位にある。
もう一つは、「魔区」。
「暗黒区」に隣接されている、広大な面積を誇る一区画。
元リミタリー王国が帝国と呼ばれるまで発展――周辺国を支配できたのは、魔法と魔道具の力による部分が非常に大きい。
特に魔道具。
それも戦闘用に開発・運用されている魔道具は他の追随を許さず、その性能は世界一と称されているほどだ。
その戦闘用魔道具の開発と生産が行われている場所であり、リミタリー帝国を落とすなら、まず「魔区」を潰して魔道具をどうにかしないといけない、と言われるくらいに重要な区画である。
だからこそ、ここの護りは厳重であり、何かあれば「暗黒騎士団」が直ぐ現れるようになっているため、ここをどうにかするのは決して容易ではない。
そんな特殊な二つの区画を有している帝都に、冒険者ギルドカードを提示して、巨大な門をくぐって足を踏み入れ――。
《ビイイイイイ――ボンッ!》
警報のような音が鳴り響くと同時に小さな爆発音が頭上から響く。
視線を上げれば、門の上部で小さな爆発が起こったようで、黒煙がもくもくと昇っていっている。
……もしかして俺のせい? なんかやった?
「そこの者! とまれ! 動くな!」
門番の兵士に呼びとめられる。




