そういうことでいいことだってある
白銀の鎧を身に付けている人物が不思議そうに見てくる。
そこで、ドラゴンローブを掴んでいる人物が、先ほどまでの出来事を説明。
主に俺が兵士三人組の一人を蹴り飛ばしたところから、ここに来るまでのことを。
白銀の鎧を身に付けている人物は「なるほど。そのようなことが!」とか、「なんと、戦闘用魔道具なしで『暗黒騎士団』と互角に渡り合ったのですか!」とか、驚きの連続といった感じだった。
そして、ドラゴンローブを掴んでいる人物が、最後に締めくくった言葉は――。
「今、私たちは少しでも強い戦力が欲しい。それが『暗黒騎士団』の者と渡り合えるのなら尚のこと」
「つまり、その者を味方に引き入れたい、ということですか?」
「そうです」
「ですが、その者の素性は知れません。それに、それくらい強い者であれば、既に話は広がっていることでしょう。それがない――噂でも聞いたことがない人物となれば、他国の者でしょう。私たちと同じ思いで戦ってくれるとは限りません」
「確かにそうかもしれません。ですが、彼はハッキリと言いました。『暗黒騎士団』の一人に、敵だ、と。私にはそれが嘘であるとは思えません。また、強い怒りも感じました。私は、彼が心強い味方になると確信しています」
ドラゴンローブを掴んでいる人物がそう言い、白銀の鎧を身に付けている人物とジッと視線を交じらせる。
なんというか、互いの意思の強さを確認し合っているかのようだ。
筋骨隆々の男性が興味深そうに俺を見てくるが、この人物は先ほどの「殿下」発言といい、余計なことを言いかねないので、放っておこう。
というか、その前に――。
「いや、そもそも味方になるとは一言も言っていないが? 勝手に話を進めないでくれるか?」
ハッキリとそう告げておく。
このままなし崩し的に協力する気は一切ない。
というか、そもそもその気はない。
「なら、どうしてここに来たのだ?」
白銀の鎧を身に付けている人物が不思議そうに聞いてくる。
その言葉の中に少しだけ敵意が交じっていたのは、味方ではない発言で警戒を強めたからだろう。
俺はそれに答えず、掴まれているドラゴンローブに視線を向ける。
白銀の鎧を身に付けている人物は俺の視線を追い、掴まれている部分を見て息を吐く。
「……はあ」
「え? ……あっ! あはは……はは……」
そこで漸く解放されるドラゴンローブ。
先ほどまでドラゴンローブを掴んでいた人物は苦笑いだ。
危うく皺になるところだったのだから、少しは反省して欲しい。
いや、まあ、ドラゴンローブに皺が付くかどうかは疑問というか、多分付かなそうだが。
そうして、ドラゴンローブを掴んでいた人物と白銀の鎧を身に付けている人物が、俺に向けて頭を下げてきた。
「ごめん」
「申し訳ありませんでした」
「いや、別に……いや、こういうのは受けるのが良かったんだったな。謝罪は受け取った。それじゃ」
そのまま出て行こうとするが、白銀の鎧を身に付けている人物が声をかけてくる。
「待っていただけませんか。確かに、この場に無理矢理連れて来られたような形ですし、私が実際に見た訳ではないので疑いを持っていますが、もし本当に『暗黒騎士団』と対等に渡り合えるだけの力を有しているのなら、私たちに協力してくれませんか? もちろん、報酬は出します」
「悪いが、断る。今は個人で動きたいからな」
「……ですが、目を付けられたのではありませんか? 『暗黒騎士団』に。わかっていますか? 『暗黒騎士団』がどういう存在であるのか、を」
「心配は要らない。よくわかっている。団長含めて十三人の少数精鋭で、皇帝直属の最精鋭騎士団、だろう? 間違っているか?」
「いえ、その通りです。情報だけではなく、その強さも理解しているように見えますが……わかっていて、そこまで自然な態度ですか。この方の目を疑っていた訳ではありませんが、確かに欲しい人材と言えますが、残念ながらその当人にその気がないのであれば仕方ありません」
「わかってくれたのなら、何より。今回助けたのは結果でしかない。場の流れってヤツだ」
肩をすくめて、そう答える。
パンを踏まれてからの流れだったが……そこはまあ、詳しく言う必要はない。
場の流れなのは間違いないのだから、そういうことでいいじゃないか。
それに、白銀の鎧を身に付けている人物はわかっているようである。
俺が「今は」と言い、今後その可能性がない訳ではない、ということを。
なので、白銀の鎧を身に付けている人物は仕方ないという感じなので、このまま行こうとしたのだが――。
「では、その、助けてもらったお礼くらいは……」
ドラゴンローブを掴んでいた人物が食い下がってきた。
感謝を伝えたいという気持ちは伝わってくるが、そのままなし崩し的になりそうなので断る。
「元々そのつもりがあって助けた訳ではないから、気にしなくていい。それでもそっちが気にするというのなら、もし次に会う時があれば、受けることにするよ」
それじゃ、と片手を上げ、今度こそこの場から去る。




