表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
314/614

そういうことでいいことだってある

 白銀の鎧を身に付けている人物が不思議そうに見てくる。

 そこで、ドラゴンローブを掴んでいる人物が、先ほどまでの出来事を説明。

 主に俺が兵士三人組の一人を蹴り飛ばしたところから、ここに来るまでのことを。

 白銀の鎧を身に付けている人物は「なるほど。そのようなことが!」とか、「なんと、戦闘用魔道具なしで『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』と互角に渡り合ったのですか!」とか、驚きの連続といった感じだった。

 そして、ドラゴンローブを掴んでいる人物が、最後に締めくくった言葉は――。


「今、私たちは少しでも強い戦力が欲しい。それが『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』の者と渡り合えるのなら尚のこと」


「つまり、その者を味方に引き入れたい、ということですか?」


「そうです」


「ですが、その者の素性は知れません。それに、それくらい強い者であれば、既に話は広がっていることでしょう。それがない――噂でも聞いたことがない人物となれば、他国の者でしょう。私たちと同じ思いで戦ってくれるとは限りません」


「確かにそうかもしれません。ですが、彼はハッキリと言いました。『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』の一人に、敵だ、と。私にはそれが嘘であるとは思えません。また、強い怒りも感じました。私は、彼が心強い味方になると確信しています」


 ドラゴンローブを掴んでいる人物がそう言い、白銀の鎧を身に付けている人物とジッと視線を交じらせる。

 なんというか、互いの意思の強さを確認し合っているかのようだ。

 筋骨隆々の男性が興味深そうに俺を見てくるが、この人物は先ほどの「殿下」発言といい、余計なことを言いかねないので、放っておこう。

 というか、その前に――。


「いや、そもそも味方になるとは一言も言っていないが? 勝手に話を進めないでくれるか?」


 ハッキリとそう告げておく。

 このままなし崩し的に協力する気は一切ない。

 というか、そもそもその気はない。


「なら、どうしてここに来たのだ?」


 白銀の鎧を身に付けている人物が不思議そうに聞いてくる。

 その言葉の中に少しだけ敵意が交じっていたのは、味方ではない発言で警戒を強めたからだろう。

 俺はそれに答えず、掴まれているドラゴンローブに視線を向ける。

 白銀の鎧を身に付けている人物は俺の視線を追い、掴まれている部分を見て息を吐く。


「……はあ」


「え? ……あっ! あはは……はは……」


 そこで漸く解放されるドラゴンローブ。

 先ほどまでドラゴンローブを掴んでいた人物は苦笑いだ。

 危うく皺になるところだったのだから、少しは反省して欲しい。

 いや、まあ、ドラゴンローブに皺が付くかどうかは疑問というか、多分付かなそうだが。

 そうして、ドラゴンローブを掴んでいた人物と白銀の鎧を身に付けている人物が、俺に向けて頭を下げてきた。


「ごめん」


「申し訳ありませんでした」


「いや、別に……いや、こういうのは受けるのが良かったんだったな。謝罪は受け取った。それじゃ」


 そのまま出て行こうとするが、白銀の鎧を身に付けている人物が声をかけてくる。


「待っていただけませんか。確かに、この場に無理矢理連れて来られたような形ですし、私が実際に見た訳ではないので疑いを持っていますが、もし本当に『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』と対等に渡り合えるだけの力を有しているのなら、私たちに協力してくれませんか? もちろん、報酬は出します」


「悪いが、断る。今は個人で動きたいからな」


「……ですが、目を付けられたのではありませんか? 『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』に。わかっていますか? 『暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)』がどういう存在であるのか、を」


「心配は要らない。よくわかっている。団長含めて十三人の少数精鋭で、皇帝直属の最精鋭騎士団、だろう? 間違っているか?」


「いえ、その通りです。情報だけではなく、その強さも理解しているように見えますが……わかっていて、そこまで自然な態度ですか。この方の目を疑っていた訳ではありませんが、確かに欲しい人材と言えますが、残念ながらその当人にその気がないのであれば仕方ありません」


「わかってくれたのなら、何より。今回助けたのは結果でしかない。場の流れってヤツだ」


 肩をすくめて、そう答える。

 パンを踏まれてからの流れだったが……そこはまあ、詳しく言う必要はない。

 場の流れなのは間違いないのだから、そういうことでいいじゃないか。

 それに、白銀の鎧を身に付けている人物はわかっているようである。

 俺が「今は」と言い、今後その可能性がない訳ではない、ということを。

 なので、白銀の鎧を身に付けている人物は仕方ないという感じなので、このまま行こうとしたのだが――。


「では、その、助けてもらったお礼くらいは……」


 ドラゴンローブを掴んでいた人物が食い下がってきた。

 感謝を伝えたいという気持ちは伝わってくるが、そのままなし崩し的になりそうなので断る。


「元々そのつもりがあって助けた訳ではないから、気にしなくていい。それでもそっちが気にするというのなら、もし次に会う時があれば、受けることにするよ」


 それじゃ、と片手を上げ、今度こそこの場から去る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  ドラゴンローブを掴んでいた人物が引き下がってきた。 食い下がって、ではないでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ