体力って大事
ツンツン青い髪の男性から放たれた黒い槍を竜杖で受けて払い、こちらも身構える。
身体強化魔法は継続したまま。
というのも、初手でわかったが、このツンツン青い髪の男性も、鎧を身に付けているのにそれを感じさせないくらいに動きが速い。
先ほど反応できたのは運が良かったというか、会話の流れで来そうだと思っていたからだ。
正直なところ……油断はできない。
ツンツン青い髪の男性が再度襲いかかってくる。
今度は突っ込みながら連続突き。
しかも、全部急所狙いである。
竜杖ですべて払い流し、最後の一突きは流しながらそのまま前に出て、勢いを付けて竜杖を振るう。
狙いはツンツン青い髪の男性の頭部。
――スカッ。外れ。
いや、俺が外した訳ではない。
ツンツン青い髪の男性が体を深く沈み込ませてかわしたのだ。
「やるなぁ、お前っ!」
そのまま飛び上がるようにして、ツンツン青い髪の男性が黒い槍を突き上げてくる。
「ちぃ!」
直ぐに竜杖を振り戻して受け払おうとしたが、受けた段階でツンツン青い髪の男性が黒い槍を突き上げるのをやめ、振り抜くように押してくる。
逆に跳ね返してやろうかと力が込めるが……ツンツン青い髪の男性の力の方が強い。
筋骨隆々という訳でもないのに、どこにそんな筋肉があるのかと問いたい。
なんというか、速度もそうだが、力も見た目と合っていない。
このまま押し切られるのはマズいと判断して、払うのではなく、竜杖を横にして受け流す。
地を蹴って一旦距離を取ろうとするが、そんな俺の動きに合わせて黒い槍の突きが再度迫る。
受け流された勢いのまま体を回転させて突いてきたようだ。
一息くらい吐かせて欲しい。
竜杖で払っても押し切られそうなため――地に足が付くのと同時に前へ。
頭部を横にずらすと同時に黒い槍の穂先が頬をかすめて痛みが走り、多少鮮血が舞うが――今は我慢してさらに前に出て、ツンツン青い髪の男性を蹴り飛ばす。
といっても、ツンツン青い髪の男性はしっかりと反応していて、蹴り足の前に片腕を差し込んできっちり防御されたため、飛んだといっても数歩分だけ。
けれど、それで問題ない。
こっちも後方に下がり、それなりに開いた距離で対峙する。
頬の傷はあとで回復薬を使うから大丈夫。
一旦落ち着くように一息。
空中にアブさんの姿が見え、手を貸そうか? とジェスチャーで尋ねてくるが、小さく首を振って断っておく。
なんというか、これでアブさんの存在自体がバレるとは思わないが、それでもそういうことができる何かしらの存在を匂わせるのは危険な感じがしたのだ。
だから、ここは俺だけで乗り切る――と思っていると、ツンツン青い髪の男性が不敵な笑みを俺に向けてくる。
「……その恰好から魔法使いかと思っていたが、違っていたか?」
「いいや、魔法使いであっている」
寧ろ、それ以外の恰好には見えないと思うが?
杖にローブ。
間違いない。
……そういえば、どうして鎧を身に付ける魔法使いって居ないのだろうか。
いや、わかるよ。基本的に頭脳労働で体力がないから、鎧を身に付けると満足に動けないというか、戦闘面だけでなく普段の移動とかにも支障が出るためだということが。
だったら、その分の体力を付けて鎧を身に付ける方が安全だと思うのだが……まあ、そんな時間があれば魔法の方に力を割きたい、ということかもしれない。
カーくんの鱗を使用した――ある意味で最強のローブを身に付けている俺が言うのもなんだが。
……あれ? もしかして、このローブなら黒い槍の突きも防げた?
………………。
………………。
深く考えないようにしよう。
ただ、ツンツン青い髪の男性は納得ができないようだ。
「魔法使い、ね。普通、魔法使いが近接職と近接戦でやり合えるはずはないんだが……いや、そもそもいくら身体強化魔法で強化しようとも、こうして対等に渡り合えているのがおかしいんだよな」
俺もそう思うし、同意だ。
ただ、それでも普通ではないのは、莫大な魔力による身体強化魔法でより強化されているから反応できているだけ――というのもあるが、ラビンさんのダンジョン最下層で普段カーくんとやり合っているのだ。
カーくんよりも弱いのなら、充分対処できる。
……まあ、だからといって勝てるとは限らないが。
「おかしいと言われてもな。こうしてやり合えているんだ。現実を見たらどうだ?」
何より、少しやり合ってわかったことがある。
俺もそうだが、ツンツン青い髪の男性もまだ本気ではない。
「……なるほど。それはそうだ。それに、本気を出せる相手など久しく居なかった。存分に楽しませてもらう」
ツンツン青い髪の男性ががっつり俺を見てくる。
うん。本気の目だ、あれは。
これは俺も本気で……の前に――。
「『赤燃 道先を遮り 留め囲いて 此処に縫い付け閉ざす 炎檻』」
本来はそっちが狙いであっただろう三人組を、炎の檻で取り囲んでおく。
周囲を取り囲んでいる兵たちが手を出そうとしていたからだ。
「ちっ。てめえら、余計な手出しをしてんじゃねえよ! 萎えるじゃねえか!」
邪魔されたと思ったのか、ツンツン青い髪の男性が怒りを露わにする。
取り囲んでいる兵たちは気圧されて委縮した。
「さあ、仕切り直しだ。続きを――」
ツンツン青い髪の男性が黒い槍を構えると、喧騒が耳に届く。
ここではない。
どこかそう遠くないところから、こちらに向かってきているような感じに、段々と大きくなってくる。
ツンツン青い髪の男性は、露骨に面倒だという表情を浮かべた。
「この状況じゃ、これ以上は楽しめないか。……お前、名はなんだ?」
ツンツン青い髪の男性は、明らかに俺を見て問うている。
「は? 通りすがりの凄腕魔法使いだ」
「なんだそりゃ。間違っちゃいないが……通り名を聞いてもな」
「なら、もし次会う時があれば、教えてやるよ」
「そうこなくっちゃ。なら、俺の名を教えておく。『ファイ』だ。『暗黒騎士団』の一人」
そう言って、ツンツン青い髪の男性と取り囲んでいた兵たちは、俺が先ほど倒した兵士三人組を運びながら、この場から去っていく。
……さて。俺も。
炎の檻を消し、それじゃ! と片手を上げて去ろうとしたが、受け答えをしていた男性がドラゴンローブを掴んで引き留めてくる。
「少しお話をしませんか?」
しません。




