初対面でも被る時は被る
兵士二人が襲いかかってくる。
それぞれ、剣と槍を持っているのだが――。
「『燃えろ』!」
「『切り裂け』!」
剣は剣身部分が火に包まれ、槍は穂先が風を纏う。
それだけではない。
追っていた時もそうだったが、兵士は鎧を身に付けているというのに、それを感じさせない素早さがある。
けれど、先ほど罪深い兵士の一人を蹴り飛ばした時は、しっかりと鎧の感触というか堅さがあった。
不思議な感覚である。
けれど、それだけ。
武器が特殊で、鎧がないような速さがあるというだけだ。
「『赤燃 上に立つことを認めず 噴出し立ち昇り その罪を燃やし断ずる 罪炎柱』」
タイミングを合わせて、迫る二人の兵士の足元から炎の柱を出現させて燃やす。
「「ぎゃあああああっ!」」
近接武器を持っている相手と、わざわざ近接でやる必要はない。
もちろん、そのまま焼失させるだけの火力を出すこともできるが、そこまではしなかった。
パンを踏んだ兵士ならまだしも、パンを踏んでいない二人の兵士に恨みはないからだ。
「「ぐふっ」」
こんがりと焼けた二人の兵士がその場に倒れる。
ピクピクしているので死んではない。
やはり、火属性は最初に受け継いだこともあって、加減や調整が一番上手くできるようになっている。
上達したな、と思いつつ、懸念が一つ。
怒りで我を忘れてしまったが……この兵士三人組に手を出して良かったのだろうか?
これで実は追いかけられていた三人組の方が悪者で――はっ! 追いかけられていた三人組! と視線を向ければ、倒れている兵士三人組を見て呆けていた。
「……いくら下級とはいえ、こんな簡単に三人を」
三人組の中の一人がそう口にする。
容姿はフード付きローブでわからないが、声から男性だとわかった。
それと、三人組の中で比較的意識がはっきりしているようなので、その男性に声をかける。
「あの~、これは一体どういう状況というか」
「はっ! 見ている場合ではありません! 今直ぐここから離れないといけません! あなたも逃げてください! 危険なのです! 今ここには――」
その男性が言い切る前に何やら背後から強い気配を感じる。
振り返れば、黒い槍を肩で担ぐ男性がこちらに向けて近付いてきていた。
ツンツンしている青い髪を後方に流し、整った顔立ちに不敵な笑みを浮かべ、兵士三人組と似た型の真っ黒な鎧を身に付けている。
それだけではない。
逃げている周囲の人たちの間から、兵士三人組と同じ格好の兵士たちが現れ、俺と三人組を取り囲んでいく。
「おいおい。この俺が出張って来ているのに、逃げられると思っているのか?」
ツンツン青い髪の男性が、肩に担いでいた黒い槍を構える。
合わせて、周囲の兵たちも武器を構えた。
ただ、気になることが一つ。
ツンツン青い髪の男性が構える黒い槍の穂先が俺に向けられているということ。
少し左にずれてみる。
穂先があとを追ってきた。
元の位置に戻り、さらに右に動く。
穂先があとを追ってきた。
ついでに言えば、ツンツン青い髪の男性の視線は俺に固定されている。
「……え? 俺? 関係なくない?」
自分を指差して確認を取る。
いやいや、どう見ても狙っていたのは三人組の方だ。
俺は関係ないと思うが。
「え? 関係ないの?」
ツンツン青い髪の男性が戸惑いの声を上げる。
「いや、でも、え? 関係あるから助けたんだろ?」
ツンツン青い髪の男性が指し示すのは、俺のうしろに居る三人組。
三人組を一瞥して――。
「「いえ、初対面ですけど」」
声が被った。
見れば、先ほど応じてくれた男性と思われる者が一緒に答えたようだ。
「……なんか、相性いいのかな、俺たち」
「そうですね。まさか同じタイミングで同じ言葉を口にするとは思いませんでした」
ははは、と笑い合う俺と男性と思われる者。
「いやいやいや、その感じ、初対面ではないだろ」
「「だから、初対面ですって」」
また被り、再度笑い合う。
ツンツン青い髪の男性は疑り深いのだろうか?
「という訳で、初対面なので行っていいか?」
そう言いながら、兵士たちによる囲いの外へ出ようと――したのだが、ツンツン青い髪の男性が俺の行く先に回り込んできてとめられる。
「いやいやいや、待て待て。仮にお前たちが初対面だとしても、だ。お前を逃がす訳にはいかない。下級とはいえ、リミタリー帝国の兵士を倒したのだ。それはしっかりと見ている。その強さは捨て置けない」
くっ。見られていたか。
それなら仕方ない……いや、待て。
今、何て言った?
「……リミタリー帝国の兵士?」
「当然だろう。ここをどこだと思っている。いくら国境に近い地とはいえ、ここはリミタリー帝国だぞ」
「……ああ、確かに。そうだ。その通りだ」
「随分と間の抜けた返答だが、その強さには見どころがある。どうだ? 初対面だと言うのなら。無関係だと言うのなら。リミタリー帝国に仕えてみないか? なんなら、口添えしてやってもいいぞ?」
「はっ! 冗談でも笑えないな。リミタリー帝国になんか仕える訳ないだろ」
ハッキリと答えると、ツンツン青い髪の男性は好戦的な笑みを浮かべる。
「ほお……その物言いに態度。それでは、敵かな?」
「わからないなら、ハッキリ言ってやるよ。ああ、敵だ」
答えた瞬間、ツンツン青い髪の男性が飛び出しきて黒い槍を振るってきたので、即座に身体強化魔法を発動して、竜杖で受けて払う。




