経験が突き動かすこともある
屋台で食事をしていると、突然町中に爆発音が響いて黒煙が上がる。
「おおぅ……」
何か起こった予感。
町の雰囲気が暗いのと関係あるのかもしれない。
そういえば、先ほど屋台の親父さんが何か言いかけていたような……。
親父さんに尋ねようとすると、再び爆発音が響き、黒煙が上がった。
爆発音が先ほどよりも大きく聞こえ、黒煙が上がる様子もハッキリと見える。
「なあ、親父さん、あの爆発って――」
何か思い当たると思って尋ねようとすると、再び同じことが起こった。
より大きく。よりハッキリと。
合わせて、人々の悲鳴のようなモノが耳に届く。
………………。
………………。
なんか、近付いて来ている?
「や、やばい! 兄ちゃんも早く逃げな!」
屋台の親父さんが逃げ支度をしながら、俺にそう声をかけてくる。
いや、屋台の親父さんだけではなく、周囲の人たちもこの場から逃げ出そうとしていた――が、遅かった。
直ぐそこ――大通りの先にある十字路付近で爆発が起こり、黒煙が大通りを駆けて上っていく。
そんな黒煙の中から、自身の姿を隠すようにフード付きローブを被った三人組が飛び出してくる。
三人組には逃走しているような焦燥感があるのだが、それでもなりふり構わずということではなく、周囲の人たちを避けるようにしながら俺の横を駆け抜けていく。
狙われている? とその後ろ姿に視線を向けていると――。
「散れ! 愚民共が!」
「死にたいのか!」
「邪魔するのならまずお前らから殺すぞ!」
怒りを滲ませた罵声のようなモノが聞こえてきたので視線を向けると、今度は黒煙の中から兵士のように鎧を身に付け、手には剣や槍を持つ、同じく三人組が現れる。
兵士三人組の方は周囲の人たちがどうなろうと知ったことではないのか、目の前に立つ者を突き飛ばすように払い除けながら、先を行く三人組のあとを真っ直ぐに追っていく。
「どけ! 邪魔だ!」
丁度、兵士三人組の内の一人の直線上に居た俺は、その一人に突き飛ばすように押しのけられる。
それが思ったよりも強い力であるために、少しばかり体勢が崩れた。
もちろん、俺だって鍛えているのでそれで倒れるようなヘマはしない。
ただ、手に持っていたモノの一つ――食べかけのパンを手放してしまい、放物線を描いて食べかけのパンは少し先の地面に落ちる。
兵士三人組はそのまま先を行く三人組のあとを追うように駆けていく。
地面に落ちた食べかけのパンを踏んで。
………………。
………………。
「ふう。行ったか。だが、追われていたのは……兄ちゃん。悪いが今日は店じまいだ。やることが………………兄ちゃん。踏まれたパンをジッと見てどうした? 大丈夫か? 何か、あっ」
「てめえら! よくもパンを踏みやがったなあ!」
怒りのままに追いかける。
フォーマンス王国で虐げられてきたからこそ、食べ物を粗末に扱う者は許せない。
毎日満足に食べられなかった経験が、俺を今突き動かす。
先を進む三人組と追いかける兵士三人組の足は速く、追い付けない――ならこっちはより速くするだけだ、と身体強化魔法で脚部を強化して駆けていく。
そのまま追いかけていくと、兵士三人組は町中だというのに気にした様子もなく魔法を放ち、先を進む三人組に攻撃を加えている。
先を進む三人組は放たれた魔法が周囲の人たちに当たらないように対処しながら逃げているのだが、その対応で速度が落ち、兵士三人組との距離は段々と縮まっていき――近場で発生させられた魔法の爆発による爆風によって一人が倒れ、残る二人が倒れた一人を起き上がらせたところで兵士三人組が追いついた。
「よおし! 追いついたぜ!」
「殺すなよ。まあ、痛めつけるのはいいが」
「他の二人は必要なのか?」
兵士三人組がそんなことを口にしていた。
逃げられないと思ったのか、三人組は兵士三人組に向けて身構えている。
そっちはどうでもいい。
許せないのは兵士三人組の方である。
「てめえだけは許さねえ!」
パンを踏んだ兵士の背中に後ろから飛び蹴りをかます。
「うおっ!」
鎧があろうが関係ない。
今の強化している脚力で、兵士を蹴り飛ばす。
「はっ!」
「な、なんだあ!」
他の二人の兵士が驚きの声を上げるが、そんなのは無視。
まずは蹴り飛ばした兵士である。
「食べ物の恨みを思い知れえっ!」
前に詰め寄ると、蹴り飛ばされた兵士は手に持っている剣を振る――といっても、こちらに向けてはいるが適当というか、俺がどう迫っているのかわからず、まずは牽制といったところだろうか。
即座に反撃に動く辺り、訓練された兵士と思われる。
だが、そんなのは関係ない。
こっちだってそれなりに修羅場は潜ってきているのだ。
牽制として振るわれる剣に当たる訳もなく、そのままもう一回蹴り飛ばす。
兵士は飛んでいった先の壁にぶつかり、気を失って倒れた。
「踏まれたパンはもっと痛かったぞお!」
何しろ、くっきりと踏まれた跡が付くくらいぺしゃんこになったのだから、間違いない。
パンの怒りを露わにすると、残った二人の兵士が俺に殺気を向けてくる。
「……お前。どこの誰だか知らないが、手を出した以上、無事でいられると思うなよ」
………………んー。踏まれたパンのためなので後悔はないが、まさかこれ、自ら巻き込まれにいった、みたいな形なんだろうか?




