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賢者巡礼  作者: ナハァト
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見た目に反してなんてよくある

「ツァード」に入るのは……思いのほか簡単だった。

 というより、ゼブライエン辺境伯のおかげ。

「ツァード」に入るための門は閉じられていたが、門番は居た。

 なんでも、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵は本当に仲がいいようで、この街と辺境都市を何度も訪れているそうだ。


「その……すまん。緊急事態ということで、一つ」


 筋骨隆々な体でありながら、音一つなく門番に忍び寄って襲撃したゼブライエン辺境伯が、門番の顔を覚えていて、余裕で人の顔を殴り潰しそうな拳を門番の眼前でとめながら、そう謝った。

 門番もゼブライエン辺境伯のことを知っていたので、事なきを得る。

「マジで死んだかと思った……」と門番は本気で安堵していた。

 その門番から追加の情報を得る。

 どうやら、「ツァード」に残っている国軍は最低限だそうだ。

 というのも、シュライク男爵領軍の後方に陣取っている国軍は監視の意味ではなく、反乱軍とシュライク男爵領軍が戦い、両軍が疲弊したところを狙って介入し、まとめて倒すつもりらしい。

「ツァード」に残っている国軍の一人から、上手く聞き出したそうだ。

 ゼブライエン辺境伯がさらにキレる。

 シュライク男爵に伝えようにも、ここもやはり距離が問題であり、間に合わないのは確実。

 また、「ツァード」に残されたシュライク男爵領軍も最低限しか居らず、反抗は人質をとられている状態では難しく、定期的に人数確認もされているため、伝令を出すこともできないそうだ。

 けれど、これはチャンス。

 俺たちのことは確実に知られていないため、自由に動くことができる。

 当初の予定通り、人質さえ解放できれば解決なのだ。

 門番……というよりは、「ツァード」に残されたシュライク男爵領軍は、いざという時のためにかなり情報を集めていて、同時に共有もしていた。

 人質にとられている人たちのことを教えてもらう。

 シュライク男爵の妻と娘は、シュライク男爵の屋敷の一室。

 他にシュライク男爵領軍における隊長クラスの人たちの家族も人質にとっていて、そちらは「ツァード」内にある、比較的裕福な者たちが住まう区画の大きな家に纏められているそうだ。

 どちらかを優先した場合、もう一方に発覚する可能性がある。

 なので、二手に分かれることになった。

 ――ゼブライエン辺境伯と俺が、シュライク男爵の屋敷へ。

 ――「新緑の大樹」が、大きな家の方へ。

 ちなみにだが、シュライク男爵の屋敷の方が厳重に警戒されているそうだ。


「いやいや、待って。俺、魔法以外は大したことないのだが?」


 本当に。

 それは説明したはずなのに、なんで厳重な方へ?


「これが適切な配置だ。そもそも、そこのおっさ……ゼブライエン辺境伯が居るだけで、戦力としては充分だ。ただ、一人だと何か不都合があるかもしれない。だから、アルムを付ける」


「新緑の大樹」のリューンが簡潔に説明してきた。

 いや、言いたいことはなんとなくわかるというか伝わってくるし、人質の人数を考えれば敵は大きな家の方が多いからその分人を多くするのも、それならば「新緑の大樹」のパーティとして動いた方がいいのもわかる。

 わかるのだが――。


「何故か納得できない」


「諦めろ」


「そもそも、『新緑の大樹』は俺の護衛なのでは?」


 なのに、俺から離れるとはどういうことだ。


「道中の安全は確保するから任せろ。うしろから付いてくればいい」


 むんっ! と筋肉を傍聴させるゼブライエン辺境伯。

 わー、たくましい。

 ……無理なので諦めた。

 それに、せっかく急いでここまで来たのだし、ここで時間を浪費する訳にはいかない。

 素早く行動に移す。


     ―――


 正直に現状を確認するのであれば……俺、要らなくない? だった。


「ふっ――」


 ゼブライエン辺境伯が短い呼吸と共に飛び出すように前へ。

 なお、その際一切の足音――いや、音自体が一切ない。

 寧ろ、俺の歩く音の方がうるさいまである。

 そんなことを思っている内に、ゼブライエン辺境伯は角から現れた国軍の兵士一人を、声を出させないように羽交い絞めにして気絶させた。

 そのまま音を立てないようにして、床の目立たない隅の方に寝させる。

 そう。床。

 もう、シュライク男爵の屋敷に侵入しているのが現状。

 ゼブライエン辺境伯が何度も来ているのは本当のようで、地理に明るく、見張りに見つからない場所を直ぐに見つけてシュライク男爵の屋敷の裏手に行き、裏口の鍵を針金のようなモノを使って音もなく開けて中に入ったのだ。

 しかも、俺というお荷物を抱えている状況で。

 この人、本当に辺境伯というか貴族? と疑問に思ったくらい手際がいい。

 見た目に反する技術が高過ぎないかと思ってしまう。

 手招きされたので、あくまで自分なりに音を立てないように歩いて近付き、そっと声をかける。


「生かすんですか?」


「生かすというよりは残すだな。自由になったあとの領軍の怒り矛先は少しでも多い方がいいだろ」


 ニヤリ、と悪い笑みを浮かべるゼブライエン辺境伯。

 その方が似合っていると思いつつ、俺も悪い笑みを浮かべる。

 まっ、人質をとってこんなことをしたのだから、それ相応の報いを与えないと。

 そんな感じで、屋敷の中を進んでいく。


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