そう簡単にはもらえないモノだってある
闇のアンクさんの記憶と魔力を受け継いだ。
記憶を確認した俺は、闇のアンクさんに言う。
「……これから向かうよ。だから、もし居れば……俺が代わりに晴らすよ。必ず」
「そこまで気にしなくても構わないよ。アルムが気負うことはない。それは自分の怒りであって、アルムの怒りではない。でも、その気持ちは嬉しく思う。ありがとう。だからという訳ではないけれど、一つだけお願いしてもいいかな?」
「ああ。もちろん」
「……もし国が何も変わっていなければ……その時は……」
「わかった。その時は、俺ができることをやるよ」
「……ありがとう」
闇のアンクさんと約束するように握手を交わし、出発に向けて準備をする。
といっても、これといった準備は特にない――のだが、ラビンさんから特製回復薬と状態異常回復薬を余分にもらう。
「アンクくんからお願いされてね。余分に渡しておいて欲しいって」
「そうか……うん。そうだな。ありがたく受け取っておくよ」
受け取った特製回復薬と状態異常回復薬をマジックバッグの中に入れて準備完了……ではなかった。
アブさんを探して声をかける。
「アブさん。そろそろ出発するけど、今回はどうする? 一緒に行く? それとも残る?」
少し考える素振りを見せるアブさん。
「……ふむ。砦に必要な素材は揃え終わっているし、そろそろ某も活躍しないとな。それに、アルムも一人旅だと寂しいだろう。うんうん」
何度も頷くアブさん。
いや、そうでもない――と思ったが、それは口にしない。
誰かと一緒に行動するのは楽しいからだ。
というのもあるが、一人ではない。我が共に居る。と竜杖が訴えているような気がしないでもない。
確かにその通りだ、と竜杖の装飾の竜を撫でておく。
そうして、皆に見送られながら、アブさんと共に出発する。
―――
竜杖に乗って空を飛ぶ。
地図を片手に、アブさんの案内を受けつつ、向かうは北東にある――「リミタリー帝国」。
フォーマンス王国に居た時から、この国の名は聞こえていた。
元は王国であったが、周辺国を攻め落とし、北東部一帯を治める帝国となり、その戦力となる部分を支えているのは、戦闘用に開発された数々の魔道具だと言われている。
その戦闘用魔道具の力によって、一般兵でも非常に強くなったらしく、リミタリー帝国こそが世界の覇者であると唱えていたのだが、数十年前からそんな様子は一切見せなくなったそうだ
落ち着いたのか……それとも何か企てているのか……。
そんな国が、闇のアンクさんの故郷だった。
今からそこに向かうのだが……今はどうなっているのやら……。
まあ、そのままであるのなら……とてもではないがいい状態ではな――。
「きゃー! 誰か助けてー!」
地上からの叫び声が耳に届く。
「アブさん!」
「わかっている! あちらから聞こえたぞ!」
アブさんの案内で向かった先で見えた光景は、森の中でゴブリン五体に襲われそうになっている女性の姿であった。
見たところ、女性は丸腰で普通の衣服であり、冒険者であるとかそういう戦闘職の人ではなさそうだ。
おそらく、近くに村か町があって、何かしらの用があって森の中に入り、そこで襲われて逃げたが追い付かれた、といったところだろうか。
それ以上の状況判断は助けたあとだと、魔法を放とうとした時――。
「ゲコッ!」
近場の草陰から人サイズの、軽装を着たカエルが飛び出し、その手に持った両刃の剣を閃光のような速度で振り抜いていく。
カエルの脚力があればこその速度だろうか。
ゴブリン五体を瞬殺。
カエル……剣士? ――うん。カエル剣士が女性を救った。
「え? あ? カエル? 助けられ……」
困惑の見える女性だが、助けられたことはわかったようだ。
カエル剣士は女性の前に跪き、片手を胸に、片手を前に出す。
「please kiss me」
ここにお願いします、とキス顔を浮かべるカエル剣士。
そのまま「ん~……」と女性の顔にキス顔を近付けていく。
「……いや、ちょっ! 何っ! 来ないで! この、変態カエルがっ!」
女性はカエル剣士の顎にアッパーカットを食らわせる。
空中に浮き上がるカエル剣士に、女性は飛び上がって蹴りを振り下ろす。
まともに受けたカエル剣士は地面に頭部が埋まった。
「助けられた礼として、これで勘弁してやるよ、この変態カエル」
くるくる回りながら着地した女性は、カエル剣士に向かってそう吐き捨てて去っていった。
……いや、ゴブリン五体。やれたんじゃね?
そう思うが……まあ、数的不利は否めないし、一対多は苦手なのかもしれない。
そういうことにしておこう。
「あわわわわわ……」
アブさんはすっかり怯えてしまっていた。
ただ、まあ……あのまま放置もなんか可哀想なので、カエル剣士を助けることにする。
近場に下りて、一声。
「あの……手、貸そうか?」
「お、おお! どこのどなた知りませんが、お願いできますか! あっ! ただ、それと、カエルなんで驚かないで欲しい!」
多分。そう答えてきた。
実際は土の中だし、くぐもって聞こえ辛かったが、間違っていないと思う。
大丈夫だと伝えて、アブさんと協力して土の中から引っ張り出した。
そして、そのままここで休憩を取ることにしたのだが、その時にカエル剣士の身の上話を聞く。
なんでも、本当かどうかはわからないが、元人間――それも王子だそうだ。
「「嘘くさい」」
俺とアブさんは揃ってそう口にした。
なら、何故そのような姿になっているのかと言えば呪いらしく、解呪するためには乙女からのキスが必要なんだそうだ。
まあ、呪いならリノファの時のように俺の魔法で解呪できるかもしれないが……。
「一ついいか? 呪われた原因に心当たりは?」
「この姿になったのは女遊びが激しい時で、その中の誰かだとは思うのですが……さすがにこうなってから、自分は最低だったと反省しています」
うん。なるほど。
なら、自力でどうにかしないとな。
もうしばらくはそのままでいいんじゃないかと思う。
とりあえず、あとは自分でどうにかするだろうと、俺とアブさんは先へと進む。
―――
これが、のちに……のちに……会うことあるだろうか?
そもそも、本当に元人間であるのなら、再び会った時に人間に戻っていれば気付かないだろうし……まあ、有名なカエル剣士になっていれば面白いな、とも思った。




