妙に期待されても困る時がある
次に受け継ぐ記憶と魔力を決めた。
受け継ぐのは――闇のアンクさん。
特に理由はない――ということもなく、相談すると無のグラノさんは自分を最後にして欲しいと言い、土のアンススさんはもう少し待って欲しいと自分の中で折り合いをつけるのが必要そうだったため、闇のアンクさんが「それじゃあ、自分だね」と口にして、俺もそうすると決めたのである。
ただ――。
「もし自分の記憶がアルムにとってつらいモノになるのなら、無理に思い出す必要もないし、自分の無念に対してどうこうしようとしなくてもいいよ。時間が解決しているかもしれないし、大事なのはアルムが無事で居ることだからね」
闇のアンクさんはそう口にした。
俺はわかったと頷き、早速受け継ぐ。
ラビンさんにお願いして、いつもの魔法陣が用意される。
繋がった二つの魔法陣。
片方に闇のアンクさんが立ち、もう片方に俺が立つ。
その間にラビンさんが立ち、見守るのはいつもの人たち……だけではない。
「何が始まるんだ?」
「さあ? でも、これだけ集まっているんだ。きっと面白いことだろ」
「そうそう。きっとすっげー笑えるヤツだぜ」
「マジか。もつのか……俺の骨……大爆笑という骨伝導に耐えられるかどうか……」
「……どうした? あいつ。なんかあった?」
「ん? ああ、あいつは、ほら、スケルトンマンだから骨伝導が繊細なんだよ。大爆笑によって起こる骨伝導に耐えられるかどうか不安ってところだな」
「なるほどなあ」
「……耐えられるのか、俺の肉体。これで腐り落ちるかもしれないのか……」
「いや、ゾンビもかよ」
「当たり前だ! 大爆笑の骨伝導でずり落ちるかもしれないだろ!」
いや、いやいや、勝手に大爆笑にするな。
そんな予定は一切ない。
勝手に期待を高めていくんじゃないよ。
「……アルムなら、やってくれる。やってみせるさ」
アブさんも、「青い空と海」の中で腕組みして、何やらそれっぽい雰囲気を醸しながら、期待を持たせることを言わないで欲しいのだが……。
これまでのことを知っている、母さんとリノファ、ラビンさんや無のグラノさんたちは特に何も思っていないようだが、「青い空と海」からは妙な期待を感じる。
……え? 何かやらないといけない感じ?
何も考えていないというか、アレだからな?
いつも場の流れというか、新たな魔力を得た高揚感でやっているだけだが……あれ? アブさんはそのことを知っていると思うのだが、どうしてそこで高めるようなことを言うのか。
しかし、それは何もアブさんだけではない。
「……フッ。アルムはここに来てから我も鍛えていた。言うなれば、お前の兄弟子のようなモノだ。ブッくん。よく見ておくといい。兄弟子の雄姿を」
カーくんも、アブさんと似たようなことを口にしている。
その対象はブッくんだが……。
「は、はあ」
ブッくんは少し困惑しているように見えた。
いや、わかっているのだ。
別に何かが起こる訳ではない、ということを。
そう。その通りなんだよ! ブッくん! 変に期待されても困るんだ!
そのままのブッくんで居て欲しい。
俺の中でブッくんとはこれからも仲良くやっていきたい、という思いが強く生まれる。
一方、ホーちゃんはニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
あの笑みは……わかった上で楽しんでいる気がする。
………………。
………………。
深く考えるのはやめよう。
どうせ、こういう時は何を見せても笑いは取れ………………ん? 待てよ。
……いけるかもしれない。
思い、付いた!
「それじゃあ、やるよ! 二人共準備はいいね?」
ラビンさんの合図に俺と闇のアンクさんが頷きを返し、始める。
始まれば、そう時間のかかることではない。
闇のアンクさんの方の魔法陣が光り輝き、その光が俺の方の魔法陣に移動してくる。
俺に受け継がれていく闇のアンクさんの記憶と魔力。
次第に闇のアンクさんの方の魔法陣の輝きが治まり、俺の方の魔法陣も輝きが治まれば……無事に受け継がれたことを示す。
そして、俺は新たな記憶と魔力を受け継いだ高揚感のまま、行動に移す。
「闇よ」
口を開くと同時にパチンと指を鳴らせば、周囲一帯が闇に包まれた。
魔力をふんだんに遠慮なく使うことで、誰からも、誰も見えない不可視の闇とする。
これが大事。
俺は自分で作り出した闇だからか、多少の視界不良感はあるが動く分には問題ない。
「光は見通せず」
竜杖を構えて突く。
「すべてを包み込み」
武術の演武のように竜杖を振るいながら舞う。
足取りがおかしい気もするが問題ない。
「何者も逃れられぬ」
不格好な演舞だとわかっているが、それでも大丈夫なのだ。
何故なら、誰からも見えていないから。
……見えていない、よな?
大丈夫。みんなの視線は周囲の様子を窺っていて見えていない。
「辿り着くは終焉」
これが、俺の思い付いた方法だ。
これなら、何をしようが見えないのだからわからないということになる。
だって、受け継いだのは闇属性なのだから、やはりその特性を最大に活かした手法でなければ、な。
「そこから、再びすべてが始まる」
最後に、竜杖を斬り裂くように振り抜くと、闇が晴れた。
周囲に向いていた視線が俺に向けられる。
少し沈黙となるが、「青い空と海」の面々が「嵌められた」、「上手くやられた」、とどちらかと言えば感心するような声が上がり、他の皆からも似たような言葉をもらう。
ホッと安堵。
アブさんは――「フッ……やるじゃないか」とでも言いたげな雰囲気である。
多分、あれは何も見えていなかったな。
ただ、一部……ラビンさんはニッコリと笑みを浮かべ、カーくんはまだまだだな、と言いたげな雰囲気だった。
……あれ? もしかして俺のお粗末な演舞が見えていた?
ま、まあ、元から知っている人に見えている分には問題ない。
闇のアンクさんの記憶と魔力を受け継いだことに変わりはないのだから。




