まあ、それぐらいなら……には注意が必要
ラビンさんのダンジョンに戻ってから大体二か月経った。
いや、そんなには……いやいや、この感覚だともっとか?
……う~ん。わからない。
なんというか、こう……偶にラビンさんの隠れ家の方に行って、お茶とお菓子を嗜みながら陽の光を浴び、優雅な時間を過ごしていたのだが、大体はラビンさんのダンジョン最下層に居たため、時間の感覚がおかしくなっている気がする。
多分、二月は経っていると思うのだが……まあ、その辺りは別にいいか。
何か急いでいる訳ではない。
急ぐことも起こっていない。
次に行くところも決まっていない。
なので、久々にゆっくりと過ごすことができた――が、何もしなかった訳ではない。
時間ができたということで、徹底的に体を鍛えた。
二か月で劇的に変わった訳ではないが、少なくともこれまでより体力は付いたと思う。
腹筋も、まあ……薄っすらと割れた……ような?
これまでで貧弱から普通になっていたが、普通よりも上になったと思う。
ラビンさんや無のグラノさんたちから、次を受け継いでも大丈夫だと言われたので、成果があったのは間違いない。
ただ、次か……残るは、無のグラノさん、闇のアンクさん、土のアンススさんの三人。
………………。
………………。
もう少し考えよう。
まあ、俺は多少たくましくなった、といったところが変化だろうか。
他のところは――まあ、色々あった。
まず、アブさん。
やめた方がいいと思うのだが、自分のダンジョンの「青い空と海」の拠点に城を建てようとし始めたのだ。
独断っぽかったので、いや相談しろって言ったよな! と、俺は直ぐ「青い空と海」の船長のゼルさんに報告。
さすがにそれは……と船長のゼルさんはアブさんをとめて、「青い空と海」総出で話し合いが行われた。
「青い空と海」としては、場所を用意してくれるだけで充分という感じだったが、アブさんが何かしたいのだとまったく折れない。
「骨だけに」
「いや、骨は折れるだろう?」
「エルダーリッチはそれだけの骨密度だってことだよ」
「え? 俺はそれすら超えた存在だって聞いたぞ。確か『絶対的な死』だったか?」
「アブソ……なんだって?」
「しっかり聞いておけよ。アブソリレルトデュス噛んだ」
「いや、言えてねえよ!」
「舌がねえのに?」
「ちょっと歯の噛み合わせが悪くて骨伝導が」
ドッ! と笑う「青い空と海」。
そこの「青い空と海」。うるさい。
そうして、話し合いの結果――妥協案で砦建設となった。
……砦? と思わなくもないが、城から考えるとまだマシというか、まあ、それぐらいなら……と思えてしまうから不思議だ。
今は、必要だと思われる素材を揃えつつ、どのような形にするかの話し合いが続いている。
……まあ、なんにしても、アブさんも「青い空と海」も楽しそうなので、それで充分だと思う。
あと、前に来た時に見かけなかったドレアについてだが、ゼルさんによると、風のウィンヴィさんから海神の槍の使い方を聞いて、今はその訓練中らしい。
新たに設置したダンジョン間の魔法陣を利用して、「青い空と海」の面々に手伝ってもらいつつ、小島のダンジョンやアブさんのダンジョンを行ったり来たりしながら頑張っているそうだ。
まあ、海神の槍があれば小島のダンジョンから「青緑の海」の拠点がある町までは自分の意思で戻れるだろうし、今は訓練に集中させておこう。
迂闊に関わると、次に「青緑の海」に会った時に何を言われるか……。
頑張れ、ドレア!
心の中で応援しておいた。
次いで、ラビンさんと男性陣はこれまで通りというか、のんびりとした時間を過ごしているのだが、女性陣の方は、母さんとリノファが王都・ガレットで色々と購入してきた物を物色しながら和気あいあいとしている。
なんというか、あそこに交ざれる自信はない。
カーくんは、ブッくんの鍛錬を行っている。
当初、ボス部屋で行っていたのだが、ご近所――主に竜組以外の俺たち――から騒音の苦情が入り、カーくんがラビンさんに頼み込んで、新たな区画が作られた。
竜が竜のまま動いても問題ないくらいに広大な訓練部屋で、防音もしっかり。
これには皆もニッコリであった。
ホーちゃんからの応援を受けつつ、ブッくんは頑張っている。
「王雷」は少しの間ここに居たのだが、今は居ない。
その理由は一つ。
せっかくここにダンジョン――それも世界最大のダンジョンがあるなら、挑まない手はない! と現在ラビンさんのダンジョンを一から攻略中である。
ラビンさんのダンジョンがある国の冒険者ギルドを利用しているそうだが、冒険者資格は……ラフトが上手くやったんだと思う。
ただ、これで居場所がバレた訳だが………………さすがに仕事を放り出してまで来ないことを願うしかない。
ダンジョン攻略には水のリタさんも誘われたが、さすがに戦闘能力はないと辞退。
それなら三人でいけるところまで行く、と「王雷」というかニーグは言っていたが、水のリタさんは「無理しなくていいです。それで死なれても困りますから。新たなパーティメンバーは必要なので、探した方がいいです」と、自分のことは気にしないように、と告げていた。
「王雷」の安全の方が大事、ということだろう。
まあ、ラビンさんがこっそり観察しているそうなので大丈夫だとは思うが。
そんな感じで月日が経ち――漸くというべきか、次に受け継ぐ記憶と魔力を決めた。




