それはさすがに無理があるかと
ラビンさんの隠れ家に向かう。
その速度はこれまでで一番速かった。
何しろ、カーくん、ブッくん、ホーちゃんの竜組の速度が異常だったのである。
いや、さすがは竜だ、ということだろう。
また、カーくんはニーグを、ブッくんはビライブを背に乗せ、ホーちゃんはクララを手に乗せて飛んでいるのだが、貴重な体験である故に「王雷」の――特にニーグはものすごく盛り上がり、誰よりも先に行こう! とカーくんを促し、カーくんがそれに応じて速度を上げたのだが、そこでブッくんが負けじと速度を上げたことで――競争のような形になってしまった。
力ならまだしも速度なら負けない、とホーちゃんも張り合うから、もうとめることはできない。
落ち着けよ、と俺としては言いたいが――。
「いきなさい! アルム! 私の息子が負ける訳ありません!」
母さんに言われたのなら、俺も負ける訳にはいかない。
「俺たちも行くぞ! アブさん!」
「え? どこにだ?」
竜杖にガンガン魔力を注いで、竜組に負けない速度で飛ぶ。
アブさんもどうにか付いて来ているようだ。
先頭が何度入れ替わる空中競争に突入したが……まあ、何がどうなろうが、何をどうしようがカーくんが本命であることに変わりはない。
何しろ、俺、ブッくん、ホーちゃんは必死でも、カーくんだけはまだまだ余裕があるからだ。
それでも、母さんの前で無様な姿を晒す訳にはいかない。
持ち得る魔力のすべてを注いでも――という時に気付く。
カーくんはニーグ。ブッくんはビライブ。ホーちゃんはクララ。アブさんは単身。それで、俺は母さんとリノファ。
………………。
………………。
いや、二人の体重がとかそういう話ではなく単純に人数の問題というか……俺がハンデを負うっておかしくないだろうか?
「アルム。言いたいことはわかります」
「……母さん」
「ですが、アルムには理不尽を蹴り飛ばすだけの力があると信じています」
「母さん!」
「それと、私とリノファは決して重くありません。精々、二人で一人分の体重です」
いや、それは無理があるかと。
リノファが呪われていた頃ならまだしも、今はもう普通というか……いや、そういう部分に触れるのは良くない、というか口にも態度にも出してはいけない。
それと、もしここで勝たないと……あとが怖い気がする。
竜杖に注ぐ魔力を増やした。
―――
結果としては――途中まではほぼ同着で、勝ったのは母さんといったところだろうか。
正確には、ラビンさんの隠れ家が見えたところでカーくんが速度を増して突っ込んだのだが、その時に母さんがカーくんの背に飛び降り、カーくんはそれに気付かないまま地上に降りたところで母さんも降りて誰よりも早くラビンさんの隠れ家の扉の前に立ったのだ。
「当然の結果です。つまり、体重というハンデは存在していないのと同義」
そういうことらしい。
カーくんは悔しがるが、ニーグは「凄いな! アルムの母親!」と褒め称えた。
まあなっ! 自慢の母さんだ!
ニーグ。悪いヤツではない。
そうして、ラビンさんの隠れ家に入るのだが、竜組は一度人化してから。
「王雷」は興味深そうに内部を見つつ、全員で魔法陣の上に。
一瞬でラビンさんのダンジョンの最下層に到達する。
「おおおおおっ! すげえな、これっ!」
……思い返してみると、ここでニーグのような素直な反応を見るのは初めてのような気がする。
クララとビライブも、声には出さないが似たようなモノだ。
ラビンさんが作成したモノだが、どことなく嬉しくなる。
ブッくんとホーちゃんも驚いているようで、カーくんはどこか誇らしげだ。
まずは、全員でボス部屋へ。
そこが一番広いし、何よりそこで色々やっているから居るならそこだろう。
そうしてボス部屋に向かい、中に入ると――。
「おかえり」
ラビンさんが出迎えてくれて、無のグラノさんたちも居たので、こちらもブッくんとホーちゃん、「王雷」を紹介したのだが、無のグラノさんたちの中に水のリタさんが居ない。
「あれ? リタさんは?」
「別にここで会えばいいと思うのだが直前でヘタレてな。今はワシらの居住の方に居る」
無のグラノさんがそう説明してくれる。
……まあ、そうなってもおかしくはない、な。
自分だけスケルトンになったのだから、会いたいとは思っても、いざその時が来たら怖くなってしまうのは。
でも、大丈夫だと思う。
何故なら、「王雷」は誰も気にした様子もなく、無のグラノさんたちと挨拶を交わしている。
一応、ここに来る前に説明しておいたが、心配は一切必要なかったと思うくらいに。
だから、早速水のリタさんのところへ案内する。
母さんとリノファ、カーくん、ブッくんとホーちゃんはこの場に残り、アブさんは「青い空と海」が気になるとそっちに向かった。
無のグラノさんたちの居住部屋に向かうのは、俺と「王雷」だけ。
まずは俺だけで居住部屋の中に入る。
水のリタさんはどこか落ち着きがないようにウロウロしていた。
「戻ったよ、リタさん」
「あっ、アルム。おかえりなさい。……それで、その」
「ああ、『王雷』の石化は無事に解けた。一緒に来て、今は部屋の外に居る」
「そう、ですか。その……会って大丈夫だと思いますか?」
「ああ、問題ない。リタさんの方にも、『王雷』の方にも」
「……」
黙る水のリタさん。
俺も黙って少しだけ待つ。
すると、水のリタさんが一つ頷く。
覚悟ができたのだろう。
俺は「王雷」を中に招く。
水のリタさんと「王雷」が面と向かって会う。
先に口を開いたのは「王雷」――ニーグ。
「ああ、安心したわ」
「え?」
「スケルトンって見た目大体同じだろ。でも、お前がリタだってのはなんか見ただけでわかったわ。だから……まあ、なんだ。俺らがこうして助かったのは、そんな姿になってまでリタが今に繋いでくれたからだ。いつも、俺らを助けてくれるのはリタだった。だから、ありがとう」
「……無茶と無謀はニーグ王子のおかげで慣れましたから。それと、さらっとクララとビライブを自分の方に巻き込ませないでください」
「そうですよ! 私はリタに迷惑なんてかけていません!」
「そうですね。こればっかりはニーグに同意はできません」
「ええ! お前ら、俺を裏切るのか!」
和気あいあいとした空気が流れる。
これが「王雷」なのだと、漸く揃ったのだと、俺の中の水のリタさんの記憶が訴えてくる。
良かった――と思いつつ、この場の空気を壊さないように、そっと俺は居住部屋から出て行った。




