確認できるからといって、確認するかどうかは別
まずは、ということで、話せられるだけのことを話していく。
当初はもちろん信じてくれない。
いや、信じられない、と言うべきか。
それはそれだ。
他人の記憶をまるっと受け継いでいるなんて信じられる訳がない。
なので、俺は当時起こっていたことを可能な限り事細かに告げた。
「王雷」の三人にとっても別に古い記憶という訳ではないため、思い当たるモノばかり。
特にニーグのやらかしというか、ニーグによって巻き込まれた話を主に。
あとは、女性同士ということで、クララとよく話していたことも――は途中でやめておく。
ここを深く掘り下げてはいけない。
しっかりと確認もしてはいけない。
女性同士の秘密の会話である。
それに、魔法も使ってみせた。
もちろん、周囲に被害が出ないような微弱なモノで。
普通はそれで証明とはならないだろうが、俺が使うのではなく、記憶の中のリタさんの動きを真似るようにすれば、何か引っかかるというか思い当たると思ったからだ。
実際、そうそう。そうだった。と同じ魔法使いであるビライブが思い当たっていた。
そうして、どうして俺が「王雷」のことを知っているのかをわかってもらう。
「記憶を受け継ぐとか、そんなことあるんだな……ただ、そうなるとリタは……」
ニーグの言葉が重くなる。
クララとビライブの雰囲気も、だ。
何を思ったのかわかるので、否定する。
「いや、生きていますよ。リタさん」
「「「は?」」」
呆気に取られる「王雷」の三人。
なんとなくだが、水のリタさんはこの時の表情が見たかった、とか言いそうである。
「いや、生きているってどういうことだよ?」
「え? だって、え? 私たちが石化してからかなりの年月が経っているよね?」
「リタは私やクララのような長命種ではありません。さすがに生きているとは思えないのですが?」
困惑する「王雷」の三人。
まあ、普通はそう思うよな。
意味がわからない、と。
どういうことだ? と俺に視線が集まる。
「まあ、俺はそう思っているというだけで、他の人から見るとそれは生きているとはいえない、みたいなことを言うかもしれない、かな?」
まずはそう口にして、俺は水のリタさんの記憶に沿って――水のリタさんが転移してからどうなったのか、それと今はどうしているのか、と話す。
「王雷」の三人は真剣に聞き――。
「はっはっはっはっはっ! スケルトンって! リタがスケルトンって!」
ニーグは大きく笑ったあと――。
「ひー、腹痛い………………たく。馬鹿野郎が。そういう笑えるのは、まず俺がなってからにしろってんだ……くそが」
少しだけ、悲しそうな表情を浮かべた。
多分、心の中ではもっと悲しんでいるような気がする。
それはクララとビライブも同じ。
あの時、全員で逃げようとして、水のリタさんだけ転移し、その先でスケルトンになって――逃げられずに石化していた自分たちはあの当時のまま無事に戻ってきた。
後悔とか、申し訳なさ、自分への怒りとか、色々と感情が複雑に絡まっているように見えた。
だから、俺はきちんと言っておく。
「リタさんは、気にしていませんよ。そりゃ、当初は何かあったかもしれませんが、今は楽しくやっていますから。それに、巡り巡って『王雷』を助けることに繋がった。今回のことを――あなたたちが無事に戻るかもしれないと知った時、リタさんは喜んでいましたよ」
「そうか………………そうかあ……」
ゆっくりと受け入れるように、ニーグはソファーに深く座り直す。
クララとビライブも同様で、少し落ち着いたように見えた。
なので、「王雷」のリーダーであるニーグに尋ねる。
「それで、どうしますか?」
「どう、とは?」
「リタさんは自分のことを伝えると、皆さんが会いたいと言い出すと思っています。リタさんも、皆さんに会いたいんだと思います。会いたいですか?」
「そんなの当たり前だろ。どんな姿になろうが、リタはリタだ。俺等の――『王雷』の仲間だ」
ニーグはハッキリとそう言い、クララとビライブも同じ気持ちであると頷きを見せる。
良かった――と内心で安堵。
水のリタさんも喜ぶだろうな、と思っていると、ニーグがピンと人差し指を立てて、俺に声をかけてくる。
「ただ、その前に一つ!」
「何か?」
「その言葉遣いをやめろ。なんか無理しているだろ? お前がリタの記憶を受け継いで託されたのなら、俺たちの仲間だ! それに、記憶があるってことは俺が王族だってわかっているんだろうが、それはその当時の話であって、今更王族だなんて名乗って威張る気はねえよ。今の俺は、冒険者だ! 堅苦しかったり、面倒なところから漸く解放されて喜んでんだからよ。だから、気にすんな!」
「そうそう。気にしなくていいよ。ニーグにしたって、元々こんなだし……て、それも知っているのか。なら、わかるよね。ニーグは王族らしくない王族だって」
「そうですね。寧ろ、ニーグが王族らしい振る舞いをした時などありましたか? 私は憶えがありませんので、リタの記憶の中にそのような振る舞いがありましたら、教えて欲しいのですが」
「お・ま・え・ら・なぁ! 少しはあっただろ! 少しは! 自信はないがな!」
ははははは、と笑い合う。
わかった、と頷きを返し、このあとは「王雷」の三人との会話を楽しみ、穏やかな時間を過ごした。




