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賢者巡礼  作者: ナハァト
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遊びの中で知ることだってある

 ゼブライエン辺境伯が前線に出て、シュライク男爵とやり合いながら色々と聞くことができた。

 今対峙しているシュライク男爵領軍の奥に国軍が待機しているらしく、きちんと戦っているか監視しているらしい。

 少しでも手を抜いた様子が見えれば、シュライク男爵の治める「ツァード」で捕らえられているシュライク男爵の妻と娘――だけではなく、他にも領軍関係者の身内も人質として捕らわれていて、即座に殺すと脅されているのが今の状況である。

 また、国軍は希少な通信魔道具を持参してきているそうで、「ツァード」に残している国軍と直ぐ連絡が取れるらしく、大人しく従わなければ……と反抗も封じられているそうだ。

 あとは、シュライク男爵領軍と反乱軍がある程度疲弊すれば国軍が動くだろうから、それまでに何かしらの策が必要だと、今思案中らしい。

 人質を助けようにも、ここから「ツァード」までは馬車を飛ばしても一日はかかる距離にあって、情報を知ったとしても反乱軍では直ぐに対応できないということ。

「ツァード」の方をどうにかして戻ってくる前に、ここでの状況に決着がつくだろう。

 だからだろうか、シュライク男爵は「もしもの時は自分のことはいいから、できれば妻と娘――それと街の連中を可能な限り助けて欲しい」とゼブライエン辺境伯に伝えてきたそうだ。


「私は国軍を許すことができません!」


 ゼブライエン辺境伯が報告をしながら耐えられないと、怒りを露わにする。


「……胸糞悪いぜ」


「新緑の大樹」のリューンを筆頭に、この場に居る全員の思いがそれだった。

 今この状況で、シュライク男爵とその領軍、それと「ツァード」で人質にとられている人たち、その両方を助けることはできない――普通なら。


     ―――


 はい。という訳で、「ツァード」に来ました。

 正確には、その近く。付近。

 陽が落ちてまだそんなに経っていないので、夜が明ける前に片を付けることができるかもしれない。


「だから、急がないと」


 俺はうしろに居るゼブライエン辺境伯と「新緑の大樹」の面々に向けてそう言う。

 ゼブライエン辺境伯は平気そうだが、「新緑の大樹」の方はへばっていた。

 何か恐怖体験でもしてきたかのように。


「お前は杖に跨っていただけだし、慣れてるんだろうが、こっちは初めてなんだ! 少しは気遣ってくれてもいいだろ!」


「新緑の大樹」のリューンさんから苦情が入る。


「……リューンさん」


「な、なんだ?」


「あんまり大声出すとバレますよ。一応これ隠密行動なんで」


「だ! ……誰のせいだと」


 声を荒げようとして、「新緑の大樹」のリューンさんの声が小さくなる。

 状況を思い出しだのだろう。

 あと、周りに居る仲間からもシー……と、静かにするようにと合図が送られている。


「そうだな。手段はどうであれ、こうして短時間で来れたのだ。あとは……」


 ゼブライエン辺境伯が「ツァード」を見る。

 獰猛な表情を浮かべているのは、これからのことを考えると頼もしい。

 そのまま俺を見る。


「アルムのおかげだ。さすがは、通りすがりの凄腕魔法使いだな」


 よくやった、とニヤリと笑みを浮かべる。

 俺も笑みを浮かべ返した。

 短時間でここまで来ることができたのは、竜杖のおかげだ。

 竜杖があれば空を飛ぶことができて、魔力を注げば加速する。

 それと、「新緑の大樹」が護衛としてついて、遊びで乗せたり、ぶら下がってもらったりしたことで発見したのだが、加速とは別に魔力を注ぐと、引っかけているモノやぶらさげているモノの重量が軽くなることがわかったのだ。

 魔力を注げば注ぐだけ、竜杖で運べる量が増えるようなモノ。

 ただ、加速と違って注いだ魔力の消耗速度がかなり速いので、重量によっては常に注がないといけなくなる。

「火」のヒストさんの魔力を受け継いでいるからどうにか取れる方法だが、並の魔法使いなら直ぐ魔力切れになりそうなくらいの消費具合だ。


 今回はその方法を用いて、馬車を土台だけに分解して、そこにゼブライエン辺境伯と「新緑の大樹」を乗せ、途中で切れないように丈夫な縄で馬車の土台四方と竜杖を結び付け、あとは俺が魔力をガンガン使ってここまで運んできたのである。

 無茶な方法だが、緊急なのと、ここまで運べるのならと、ゼブライエン辺境伯が後押ししてくれた。

 出発時、テレイルが羨ましそうにしていたけど……あとで乗せろとか言わないよな?


 ここまで来た理由は一つ。

 人質を人質でなくせばいいだけ。

 つまり、少数精鋭で「ツァード」に居る国軍を倒して解放すれば、もう反乱軍とシュライク男爵領軍が争う理由はない。

 あとは、出張っている方の国軍を倒せば終わりである。

 ここに居る俺たちでは難しいかもしれないが、「ツァード」にもシュライク男爵領軍は残っているだろうから、そこと協力すれば可能なはずだ。

 それに、「ツァード」に残っている国軍は油断している。

 ここに俺たちが居るとは露ほども思っていないだろう。


「……行くぞ」


 ゼブライエン辺境伯の合図の下、闇夜に紛れて「ツァード」に向かう。


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