話しながらノッてくることもある
夢か、現実か。
死んでいるのか、生きているのか。
今、自分がどうなっているのかはわからない。
わかっているのは、骸骨たちに囲まれているということ。
こういう存在を、スケルトンと呼ぶんだったな。
その数――七体。
絶望的な状況だ。
一体ですら、俺にとっては脅威そのものなのに、それが七体ともなると……逃げ場がない。
それに、そもそもの岩に囲まれているような場所で、出入口のようなモノが見えない。
それでも内部が明るいのは、空中に光る玉が浮いているからだ。
ダンジョンにはモンスターハウスと呼ばれる、魔物だらけの部屋があると言われているけれど、それがここなのだろうか?
ただ、気になることがある。
襲われる気配がない……というよりは、俺の様子を窺っているようだ。
何か気になることが――。
「はっ! わかった! これからここで生き残りを賭けた戦いが始まるのか! スケルトン同士の争い! そして、最後の一体が手にする賞品は、俺! 肉体を求めているに違いない! 俺の骨を抜き取り、勝者のスケルトンが代わりに中に入って」
『いやいやいやいや! 怖い怖い怖い怖い!』
ん? あれ? なんかスケルトンたちが怖がるように震えている。
「こわっ! 何その発想!」
「私たちがそんな風に見えるってこと?」
「いや、まあ、仕方ないんじゃないか? だって、見た目は完全にスケルトンだし」
「だからって、骨抜いて中に入るって発想にはならないでしょ、普通は」
「……恐怖」
「落ちた衝撃で頭でも打った?」
「そんなミスはしていないと思うんじゃが……」
……あれ? なんか困惑しているし、そもそも戦いも始まらない。
というか、スケルトンたちの様子がなんか他と違うような……。
「……もしかして、違った?」
『そうだよ!』
全スケルトンからそう言われる。
違ったようだ。
でも、そうなると、俺が今襲われない理由とはなんだろうか。
「そもそも、僕たちをそこらのスケルトンと一緒にしないで欲しいかな。どう見ても違うでしょ」
スケルトンの一体がそう言ってきた。
そう言われてみると、魔物っぽくないというか、そういう雰囲気がないというか、動きが妙に人間臭く見える。
それに、普通のスケルトンは大体全裸……何も隠さずすべてを晒しているか、鎧を身に纏って武装しているモノだが、ここに居る七体はそれぞれ違う服を着ていて、それぞれ別の存在であるかのように――所謂、個性のようなモノが感じられた。
違いとなると、それくらいしか――。
「わからないかな? まず別のことを気にするというか、気付くと思うんだけど?」
スケルトンの一体がそう尋ねてきたので考える。
「しかし、気にすると言われても、何が……」
「だから、まずこうして普通に話していることに気付こうよ。普通、こんな風に話せないでしょ?」
「………………あっ、確かに」
言われてみると、という感じだ。
盲点だった。
一本取られたような感覚を抱く。
しかし、事実は事実。
目の前の七体のスケルトンは普通のスケルトンではないということを認めないといけない。
ただ、何をもって普通のスケルトンではないと――。
「……はっ! そうか! 上位種や希少種ということか!」
『そっちにいったかあ……』
全スケルトンから落胆の声が漏れた。
なんだろう。
こういう時、なんか悪いことをしてしまった気になるから不思議だ。
ただ、その前に考えなければいけないことがある。
「……スケルトン改。……スケルトンⅡ。……ハイスケルトン。……服スケルトン。……新スケルトン。……いや、新より真の方が……」
「何言ってんだ、こいつは」
「多分じゃが、ワシらがスケルトンとは違う――上位種や希少種なら、何かしらの呼称を、と考えているのではないか?」
「意味がわからん。そうなる意味がわからん」
考え事に集中できないので少し静かにして欲しい。
いや、待てよ。
俺だけで考えることではないし、俺が決めることでもない。
意見は大事だし、みんなで考えた方がより良い案が出るんじゃないだろうか。
「えっと、どんな名称がお好みか、意見を広く募集」
『そうじゃない!』
「……真なる真より、新しい新の方がいいってことだろうか?」
『まったく違う!』
また全スケルトンから否定された。
それにしても、綺麗に息が揃っていて、この七体のスケルトンの仲の良さがよくわかる。
まるで、七体で一体のスケルトンのように……。
「わかった! 元は一体のスケルトンの骨だった! 頭部とか胸部とか腕部とか腰部とか脚部とか! そして、もしもの時は元の骨の形に変形して戻って合体し、元の一体のスケルトンに……そう! 巨大な大スケルトンに――」
『ならねぇよ!』
これも違ったようだ。
自信があったというか、途中から楽しくなってきたのに残念でしかない。
しかし、手詰まりになってしまった。
もう他に――と考え始める。
「元人間って発想は出ないの?」
スケルトンの一体から、どこか呆れたような口調で言われる。
「………………確かに」
『漸くかよ!』
スケルトンたちから、深いため息が漏れた。