これまであったモノがなくなると寂しくなる
「王雷」からお呼びがかかったので、早速向かう。
………………。
………………。
どこに? とこのことを伝えに来た騎士に尋ねると、「王雷」は三人共が今王城でお世話になっているそうなので、向かうことにした。
しかし、ここには俺一人だけで来ている訳ではない。
まず、カーくんたち――竜たちは、どちらにとって運がいいのか悪いのか、鍛錬に出ているので居ない。
アブさんも……初対面はつらいだろうし、今はこれまで興味を抱いていなかったのだが、建築が気になると王城や王都・ガレットの建物を観察している。
「青い空と海」の拠点のためだろう。
段々多才になっていっている気がする。
それでも運良くというかアブさんを見かけたので声をかけたが、今回の件には関わっていないということで辞退してきた。
母さんとリノファにも声をかけたのだが、今は忙しいと断られる。
何をしているかと言えば、買い物。
久々に外に出たということで、色々と買っておきたいモノがあるそうだ。
金は? と聞けば、皆――ラビンさんや無のグラノさんたちもこういうのがあれば欲しいというのがあるらしく、そこら辺から出ていて、荷物持ちは? と尋ねれば、ラビンさんから俺のと似たような形のマジックバッグを預かっていた。
うん。準備万端のようである。
ただ、リノファには関しては石化を解くのに協力したことだし、「王雷」も会いたいと思うのだが――。
「一応、秘密裏とはいえ、他国の王族がそう何度も出入りするのは少々……それに、ラビンさまのダンジョンに連れて行かれるのでしょう? ならば、その時にお話ししますので、お気遣いなく」
いや、まだ来るとは……いや、来ると思うが。
というか、それは建前だよな?
だって、もう目というか雰囲気が、「お買い物します!」と全力で訴えている。
スケルトンが居る時ほどではないが、圧のようなモノを感じられた。
母さんも。
……うん。これは邪魔をしてはいけない。
今の母さんとリノファは誰にもとめられないと思う。
という訳で、俺だけで向かうことになった。
……まあ、いいか。
王城に向かう。
今や恒例と言ってもいい、後輩門番による通せんぼが……通せんぼが……あれ?
「居ない?」
いつも居た後輩門番が居ない。
その場所には知らない門番が居た。
逆に、その知らない門番が俺の反応を見て首を傾げる。
「ああ、あいつは今日休みだから安心して通ってくれ」
先輩門番は居て、そう教えてくれる。
「……そうか」
なんだろうな。
何故か一抹の寂しさのようなモノが……あるような、ないような。
先輩門番も似たようなモノを抱いているのか、どこか戸惑っているように見えなくもない。
まあ、結論としては、平和が一番、になるとは思うが。
そんなことを思っていると、王城の方から迎えの騎士が来て、案内されるまま付いていく。
その途中で副団長に会った。
「無事に戻ったようで何よりです」
「アルムくんのおかげだよ。ありがとう」
いえいえ、石化解除はリノファのおかげです。
「もう活発に動いて大丈夫なんですか?」
「問題ない。それに、半身近くが動かなくなったことで、改めて全身が動くことが如何に素晴らしいかを実感できたよ。だから、今は動けることが嬉しいし、安堵も感じられている」
そう言う副団長は本当に嬉しそうだ。
半身近くが石化していた反動で、今は精力的に動いているといったところだろうか。
ただ、副団長はやはり立場的に忙しいようで、そう長くは話せなかった。
まあ、無事な姿を見ることができただけで充分である。
そうして、騎士に案内されて着いたのは、いつもの部屋ではなく、これまで立ち入ったことがない奥の部屋。
騎士が部屋の扉をノックして一声かけ、中から返事があると扉を開いて俺を中へと促す。
どうやら、俺だけで入るようだ。
騎士に案内ありがとうと一礼して、中に入る。
部屋の広さもそうだが、置いてある調度品から何まで、質が全然違っていた。
いつもの部屋より数段は上、と言った感じである。
そんな部屋の中ほどにテーブルとソファがセットで置かれており、そこに「王雷」の三人が居た。
「おう! 来たな!」
「王雷」のリーダーであるニーグが、そう声をかけて手招きするので、一礼してから近付く。
「お前が俺たちを見つけてくれたのか。まあ、座れよ」
ニーグが自分の隣をポンポンと叩く。
なんというか、本当にあなたは王族ですか? と疑いたくなるような気安さがあった。
どちらかと言えば、王族よりも冒険者の方が近い。
……まあ、そこしか空いていないので、そうするしかない。
腰を下ろす。
隣はニーグ。
テーブルを挟んだ対面にはクララとビライブ。
……なんというか、水のリタさんの記憶があるからだろう。
俺が腰を下ろした位置は、いつもなら水のリタさんが座っていた場所だ。
いつもこの位置で三人を見ていて……少しだけ泣きそうになった。
それを誤魔化すように、改めて三人の姿を見る。
――ニーグ。
銀髪で顔立ちも良く、格闘家ということで細身ながら鍛え抜かれた体付きである。
当時のままなので、俺と同年代くらいに見えた。
――クララ。
黒髪の幼顔の美少女で、エルダードワーフの戦士。
本来というか戦闘時は重装備だが、今は可愛らしい服を着ている。
――ビライブ。
金髪碧眼の美青年で、ハイエルフの魔法使い。
ゆったりとしたローブを身に纏っていた。
この三人に水のリタさんを加えれば、本来の「王雷」である。
「いや、本当に助かった! ありがとうな!」
ニーグがそう口にして――。
「本当にありがとう。ラフト兄ちゃんにまた会えたのも、キミのおかげだよ」
「感謝しかありません。私たち自身が無事だったというのは幸運でしかありませんが、ここにこうして戻ってくることができたのは、間違いなくあなたのおかげです」
クララとビライブからも感謝の言葉をもらう。
なんというか気恥ずかしい。
どうも、と一礼だけ返しておいた。
すると――。
「それで、ジルフリートから大体のことは聞いたが、一つだけ疑問があるんだ。なんでも最初から俺たちが誰かわかっていたそうじゃないか。そこら辺の理由は教えてくれるのか?」
ニーグがそう口にした。
挑戦的にとか、懐疑的にという訳ではなく、確認のために口にした、という感じだ。
俺はもちろんと頷く。
そのために来たのだから。
「俺が『王雷』のことを知っていたのは――」
隠すことはないと口を開く。




