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賢者巡礼  作者: ナハァト
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偉い人の前に親戚ってだけ

 リノファはそのまま俺からある程度の事情は聞いていることを口にし、自ら「聖女」スキル保持者であることを明かした。

 ただし、これはこの場だけの公開にして欲しい、と付け足して。

 石化解除は秘密裏にというか、公にして行われていないので元々それで問題ないため、ジルフリートさんは了承を返し……いや、必ずそうする、そうするべきだとした。

 この場に居た騎士たちにも徹底させている。

 多分だが石化解除にあたっている全員に、もう一度念押しするだろうということがわかるくらいだった。

 それほどまでに気を遣っている。

 リノファにもそうだが……どちらかといえば「聖女」という部分に、だろうか。

 そういえば、ジルフリートさんやラフトとビネスも、何かというか、どこかに借りを作ることを気にしていたな。

 その辺りが関係しているのかもしれない。

 ただ、そこはあとだ。

 まあ、いざという時は――リノファが「聖女」スキル持ちであるということが明らかになったとしても、ラビンさんのダンジョンの最下層という安全な場所があるから、そこまで気にしなくても大丈夫という思いがある。

 それに、実質的にリノファはカーくんの弟子のようなモノだ。

 リノファに対して余計な手出しをすれば、カーくんが黙っていないだろう。

 たとえそれが国であったとしても関係ない……問題ない。

 世界からその国が消えるだけ。

 なので、今はそこを気にせず、石化解除に集中しよう。

 といっても、俺がやれることはない。

 一応という感じで、ジルフリートさんに母さん――リノファの専属メイドとして、カーくん――ブッくんとホーちゃんに用がある、と紹介し、早速とばかりにジルフリートさんはリノファに協力を頼み、リノファも応える。

 ジルフリートさんは自由に過ごして構わないと言い、リノファと共に部屋を出て行く。

 母さんはそれに付き添い、騎士たちもジルフリートさんのあとに付いていった。

 この部屋に残されたのは、俺とアブさん、カーくんだけ。

 アブさんはちょっと見学と言って壁をすり抜けてどこかに行く。

 母さんとリノファのあとを追った――いや、聖属性は不死系にマズいだろうから、城内の様子でも見に行ったのだろう。

 そう判断して、カーくんに声をかける。


「……カーくんは行かなくていいのか? 念のため」


「聖属性の力は充分に鍛えられておる。我が手を出さずとも大丈夫だ」


「そうか。なら、どうする? ブッくんとホーちゃんを探しにでも行くか」


「その必要はない」


 え? どういうこと? と思ったところで、部屋の扉からノック音が響き、どうぞと答えると騎士が入ってくる。


「あっ、本当に居た」


 開口一番がそれであった。

 どこか気安い感じだったのは、この騎士はバジリスク・特殊個体戦には居なかったが、64階から61階まで戻る通路を守っていた騎士だからだろう。

 参加していた騎士は、皆戦友である。


「居たって……何か用か?」


「ああ、あの天塔(ヘブンタワー)で紹介された、ブック殿とホーラー殿がアルムに会わせて欲しいと来ていて」


 ブック? ホーラー? 誰のこ………………ああ! 思い出した!

 そういえば、ブッくんとホーちゃんを紹介した時、そういう偽名にしていたんだった!

 ああ、そうか。ブッくんとホーちゃんが……あれ? なんで来た? いや、理由はわかるけど、どうしてここに居ることがわかった?

 ……思わずというか、確認のためにカーくんを見る。


「うむ。この溢れる筋肉が吸い寄せてしまったようだ! 罪深い筋肉である!」


 むんっ! と胸筋を誇るようなポーズを取るカーくん。

 いや、吸い寄せる筋肉って……何?

 普通に、カーくんの存在を感じ取ったのだろう。


「ああ、わかった。問題ない。連れて来てくれ」


 騎士にそうお願いした。


     ―――


 ブッくんとホーちゃんは部屋に入って直ぐ、カーくんを見て平伏した。

 カーくんの方は腕を組んで、うむ、と頷いている。

 俺は俺で、ブッくんとホーちゃんがいきなり平伏したことに驚いていた。

 カーくん、ブッくんとホーちゃんを見比べ、ブッくんとホーちゃんの方に声をかける。


「えっと、そこまでしないといけない感じ?」


「当然だ。竜としての格が違い過ぎる」


 ブッくんがそう答え、ホーちゃんも同意するように頷く。

 ……そうか。カーくんって、そこまで凄い竜だったのか。

 いや、凄いことはもちろん知っているし、名前からして相当上である、ということはわかる。

 それでも、他の竜が緊張するならまだしも、いきなり平伏すまでの……とは思っていなかった。

 凄かったんだな、とカーくんに視線を向ければ、俺の視線に気付いたカーくんは、そうだ! 我は凄い竜なのだ! もっと褒め称えてくれも構わないのだぞ! とでもいうように胸筋を大きく張る。

 ……まあ、これはアレだな。

 子供の頃に仲良くしていた親戚の大人が、自分が大人になって初めてその親戚の大人が凄い人だった、というのを知ったけれど、それよりも仲良くしていた時の印象の方が強くて、結局は何も変わらないような……そんな感じか?

 実際、俺もカーくんはカーくんとしか思えないし、だから? という感じである。

 まあ、カーくんの方も、俺の態度は別に変わらない、とわかったのか、それはそれで嬉しいこと、という感じだ。

 とりあえず、この場は竜たちの話なので、俺は余計な口は挟まない。


「大体の事情はアルムから聞いた。そこの黒い方は、我に鍛えて欲しい、ということで間違いないな?」


「はい! 強くなりたいのです!」


「ふむ。どうして強さを求めるのだ?」


「それは、彼女を……ホーちゃんを何からも守れるくらいに強くなりたいからです!」


「何からも、か。それは、言ってみれば我よりも強くなりたい、ということだが?」


「己の才がそこまであるかはわかりません。ですが、それだけの強さが必要であるのなら、必ず手にしてみせます!」


 ブッくんが顔を上げ、カーくんを見る。

 カーくんは暫しそんなブッくんを見続け、ホーちゃんは言い切ったブッくんを嬉しそうに見つめていて――。


「グワハッハッハッ! その心意気や良し! いいだろう! 我が直々に鍛えてやろう! 覚悟するが良い! 我は厳しいぞ!」


「「あ、ありがとうございます!」」


 豪快に笑ったかと思えば、カーくんはそう告げ、ブッくんとホーちゃんは嬉しそうに感謝の言葉を述べた。

 まあ、こうなるとは思っていたが、とりあえず、そうなったことにホッと安堵する。


「それにしても、良い心意気であった! 我の若い頃を思い出したぞ! グワハッハッハッ!」


 そう言って、再度豪快に笑うカーくん。

 いや、若い頃って……え? それってつまり、ブッくんもカーくんみたいに筋骨隆々な体付きになるってこと?

 ……まあ、ブッくんがそれを望むのであれば応援しよう。

 その前にホーちゃんがとめそうな気がするけど。

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