流れるような動きだった
王都・ガレット内を王城に向けて歩んでいく。
度々勧誘を受ける。
お前らは大人しく「天塔」に行っておけよ、と思わなくもない。
ただ、リノファは苦笑を浮かべ、カーくんは筋肉が褒められて上機嫌……まではいいのだが、何故かどの勧誘も母さんを前にすると、即座に謝って去っていく。
「……なんでなんだろうな。母さん。優しいのに」
「アルムはいい子です」
母さんに頭を撫でられる。
こんなに優しい母さんが怖いなんて、ある訳がない。
あと、勧誘は間違いなく苦手な部類なのだろう。
アブさんが上空から下りてくることはなかった。
そうして王城に着いて……そういえば、こっちもあったな。
「さあ! 俺たちの真昼の決闘の始まりだ!」
後輩門番がそう言って槍を構えた瞬間――。
「お、ま、え、はっ! いい加減しろ!」
先輩門番が突進してきて、勢いそのままに横に突き出した腕を後輩門番に引っかけるようにして振り抜く。
後輩門番はその勢いに押されて倒れる。
兜がなければ痛そう……いや、兜があっても痛そうだ。
そのまま関節技に入る先輩門番。
先輩門番は後輩門番をうつ伏せにして、そのまま後輩門番の両足に自分の足を絡め、背後から両手を掴んで、自身は仰向けになるように倒れて持ち上げる。
「せ、先輩! ちょ! これ! 洒落にならな」
「反省しろぉ! あっ、通っていいですよ」
軽い感じで先輩門番から許可が下りる。
軽く一礼して王城に――か、母さん! 足をとめて先輩門番がかけた技をじっくりと興味深そうに見ない!
「ふむ。技に入る時のキレがいいですね」
総評もしないように!
母さんを引きずるようにして、王城に入った。
既に何度も来ているということもあって、俺だけなら直ぐにでも案内してもらうのだが、今回は他にも人が居るということで、騎士の案内で王城内にある部屋へ。
ここには勧誘が居ないため、アブさんは俺たちの頭上近くまで下りてきて、透明化したまま付いてくる。
案内された部屋でジルフリートさんが来るのを待つことになるのだが、この部屋は……マズい。
暗部・隊長の秘密日記がある部屋だ。
………………。
………………。
皆は思い思いに過ごしている。
確認するなら、今が絶好の機会だろう。
そっと視線を本棚に向けて………………な、ないだと!
秘密日記がなくなっている。
やはり、読んだとバレて場所を変えたのだろうか?
いや、今書いている最中というのも考えられる……が、どちらにしろ公にできるモノではないので、ここは何も言わないでおこう。
反応もしてはいけない。
……少し読んでみたかったが。
そうして少しばかり待っていると、ジルフリートさんが部屋に入ってくる。
他にも騎士が数名。
これまではジルフリートさんだけが入って来ていたのだが、多分こっちが複数人だったからだと思われる。
けれど、その騎士たちは見知った顔というか、バジリスク・特殊個体戦に加わっていた騎士たちだったので、ある程度の事情を教えられているから話が早い、というヤツだろう。
「少し遅れたか? 済まない。政務の方も欠くことはできなくてな」
「いや、大丈夫だ」
「そうか。それでは、早速で悪いが紹介してもらおうかな。アルムの言う心当たりを……といきたいが、まさかとは思うが、フォーマンス王国のリノファ王女ではありませんか?」
ジルフリートさんがリノファを見て、そう言ってくる。
わかるの? と思ったが、当のリノファは王女然とした笑みを浮かべるだけ。
「私のことがおわかりになるのですか? お会いしたのは一度だけで、それも幼い頃だったのですが」
「ええ。覚えていますよ。その美しい黒髪は特に。顔立ちもそのままですし」
「幼いままだと?」
「これは、一国の王女に失礼しました。成長され、美しくなられております」
「ありがとうございます」
……おお、なんだろう。
なんというか、いきなりリノファとジルフリートさんの周囲がロイヤルな雰囲気になった……ような気がする。
「知り合いだったのか?」
その問いに、ジルフリートさんが答える。
「まあ、ね。何しろ、ここには冒険者ギルドと商業ギルドの総本部があるから、関わりを持とうとする国が多いということだよ。でも、それは私の方も言いたいかな。私が言えたことではないが、クラウといい、アルムは王族関係の知り合いが多いみたいだね」
まあ……よく考えてみると、向かった先で大抵は王族関係に会っているな。
通過しているとかならさすがに無理だけど。
ただ、リノファに関しては色々あったというのもあるが――。
「まあ、色々あったから」
「色々で片付けていいモノではないが……まあ、又聞きでしかないが、アルムの魔法の力であれば……納得か」
何が? とは問わない。
なんとなくだが、何を思って納得したのか、わかった。
フォーマンス王国も含め、俺の動向はおそらくある程度把握しているのだろう。
ジルフリートさんも言っていたが、ここには冒険者ギルドと商業ギルドの総本部がある。
それだけ情報が集まるのだ。
さすがにどこの誰が、とまでは難しいかもしれないが、それでも俺が関わっていることはなんとなく察した、といったところか。
「といっても、これ以上何かを詮索しようとは思っていない。何しろ、助けを求めているのはこちらの方だからね。それに、アルムがこの国にもたらしたことは非常に大きい。そのような人物を敵に回そうとは思わない」
ジルフリートさんは俺に向けて言っているのだが、多分聞かせたいのはリノファを筆頭にした母さんとカーくんに、だろう。
特にカーくんは見た目というか雰囲気で只者ではないと、なんとなく察せられるし。
……本当はアブさんも居るけれど。
「大丈夫ですよ。私たちはその助けを求める声に応えるために来ましたから」
リノファが、ニッコリと笑みを浮かべてそう口にした。




