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賢者巡礼  作者: ナハァト
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それで進んでいる訳ではありません

 三柱の国・ラピスラに向かう。

 俺は竜杖に跨り、その竜杖に吊るされたラビンさん作成の特別性の椅子に母さんとリノファが座り、アブさんはこれまでと同じように俺の近くを飛んで――で、今回は人化したカーくんも付いてくるのだが、その手段はアブさんと同じように空を自由に飛ぶ、というモノだった。

 いや、それは別に構わない。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 カーくんに尋ねると、そういう魔法らしい。

 もちろん、他にも空を飛んでの移動手段はあるようで、今の人の大きさに合わせた竜の羽を出しての飛行や、木や柱など人が乗れる大きさの物を目的地に向けて投げてその上に飛び乗っての移動……など、色々とあるそうだ。

究極混沌竜アルティメット・カオス・ドラゴン」という規格外の存在であるからこそ、そういった様々な手段が取れる、とカーくんは胸を張って教えてくれた。

 それは本当に別に構わない。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 今、俺が問題としたいのは、自由に飛べる、という部分である。

 確かに、自由に飛べるのだろう。

 アブさんも似たようなモノで、俺の近くをすぅ~っと音もなく飛んでいるだけ。

 しかし、カーくんは違う。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 カーくんは空を飛びながら腹筋運動を行っていた。

 いや、腹筋運動だけではない。

 スクワットや腕立て伏せなどを行っている……空を飛びながら。

 寧ろ、そういった動きで前に進んでいるのではないか? と疑ってしまう。

 いやいや、飛んでいるのは魔法。

 それで間違いない。


「大丈夫か? カーくん」


「大丈夫、だ! アルムよ! それよりも、青空の下で、行う、筋トレは、気持ちが、いいぞ! アルムも、一緒に、どうだ?」


「いや、さすがに無理だな。竜杖の操作があるから」


 断っておく。

 いや、無理。

 さすがに移動しながらでは不可能だ。

 ただ、なんというか、こう……暑苦しい感じがしないでもない。

 本来なら空を飛んで風をその身に受けて涼しい、あるいは寒いと感じるはずなのに、今日はなんか暑い気がする。

 じっとりとした暑さが……。


「そっちは大丈夫? 母さん。リノファ」


「大丈夫よ」


「大丈夫ですよ」


 二人はまったく問題なさそうだ。

 いや、俺が感じている暑苦しさをまったく感じていなさそう。

 ラビンさんのダンジョンの最下層で過ごしている内に慣れた、とかだろうか?

 ……わかった。

 ラビンさんの作成した椅子は、確か色々と魔法をかけていて、尚且つ長時間使用も可能だと言っていたということは、それだけ快適性にも気を配っているはず。

 ラビンさんはそういう人だ。

 ということは、俺が感じている暑苦しさは二人に届いていないと思われる。

 少しでも涼しくなるようにと、少しだけ速度を上げた。


     ―――


 おかしい。

 速度を上げた分、より暑さが増したような気がする。

 カーくんの筋トレが上がった速度に合わせてより激しくなったのは関係あるのだろうか?

 ……まあ、いいか。

 とにかく、今は休憩の方が大事だ。

 ラビンさんの隠れ家から三柱の国・ラピスラの王都・ガレットまではそれなりの距離があり、竜杖で人や物を運びながら進むと魔力の消費が一気に大きくなるので、途中で休憩を取る必要がある。

 今がそれで……あれ? 今の俺は莫大魔力四人分だから休憩は……いや、必要だ。

 いざという時のための魔力は必要であるし、それに心身の静養も大事である。

 何より、ずっと同じ姿勢で居ると体がバッキバキに固まってしまうので、定期的な休憩というか、体を動かすことは必要なのだ。


「筋トレ、する?」


 違うよ、カーくん。

 筋トレはしない。

 やるのは、精々ストレッチだ。

 そうしてどことなく清涼感を感じるということで森の中にある湖の近くで休憩していると――。


「ガアアアアアッ!」


 魔物の咆哮のようなモノが聞こえてきた。

 全員、直ぐに戦闘態勢を取る。

 母さんが強いのは知っているが、リノファも? と思ったが、思い返してみると竜状態のカーくんを動かすことができるだけの力を持っているのだ。

 問題ないかもしれない。

 そう判断していると、森の中から咆哮を上げた魔物が姿を現わす。


「グガアアアアアッ!」


 それは所謂鬼と呼ばれる、人型の魔物――オーガ。

 頭部から巨悪そのものといった角を生やし、ごつい顔立ちと、筋骨隆々な体付きは何も隠れておらず、下半身は黒パンツ一枚のみで、普通は持っていそうな武具の類は一切持っていない。

 とりあえず、突然のことと見た目のこともあって、俺は咄嗟に魔法を――。


「待て! アルムよ!」


 使おうとして、カーくんにとめられる。

 何故! と問う前に、カーくんは黒パンオーガの前に立ち――。


「むんっ!」


 と二の腕の筋肉を強調するようなポーズを取る。

 こちらからは見えないが、多分カーくんは満面の笑みな気がする。


「……フンッ!」


 オーガが対抗するようにして、胸筋を誇るようなポーズを取った。

 もちろん、オーガは満面の笑みである。

 ………………。

 ………………。


「良し。カーくんに任せて大丈夫そうだ。こっちはこっちで休んでおこう」


 そう判断して、しっかりと休むことにした。

 時折、力を込めるような声や相手の筋肉を褒める声が聞こえてきて、若干周囲の気温が高くなったかもしれない? と思うくらいであとは特にこれといったことはなく、どちらかといえば穏やかな時間が流れる。


     ―――


 黒パンオーガとは特に接触らしい接触はなく、何やら非常に満足した表情を浮かべて去っていった。

 濃密な時間を過ごしたカーくんによると、筋肉の素晴らしさを普及するための旅をしているらしい。

 ……なんだろうな。

 黒パンオーガとは、また会いそうな気がしないでもない。

 独力で魔物の村とかに着いていて、「筋肉の伝道者マッスル・エバンジェリスト」とか呼ばれ……いや、それならそれでカーくんがちょっと待ったと言いそうだし……ないか。

 できれば、単独では会いたくない。

 肉体言語には自信がないというか、誇れるだけの筋肉が俺にはない。

 そんなことを思いながら出発した。

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