知らない内に毒されることもある
終わると同時に声をかけた。
おかえり、と出迎えられるのはこれまでと同じだが、気になったことを尋ねる。
「それで、これはなんなんだ?」
「うむ。某と一緒に考えた芸を見てもらおうと思ってな!」
アブさんがそう言う。
なるほど。アブさんが後方で満足そうにしながら見ていたのは、そういうことか。
「どうだった? アルムよ」
それはきっと、俺が一人で行動していたことに対して、ではないだろう。
アブさんの後方にスケルとルトンが待機しているし、先ほど見た光景に対して、なのは間違いない。
「……まあ、いいんじゃない? 少なくとも、アレを見せられて敵対しようとは思わないと思う」
アブさんが振り返って、イエーイ! とスケル、ルトンとハイタッチを交わす。
骨ーン! と硬いモノ同士がぶつかる音だったのは、どちらも骨だからだろう。
……いけない。知らぬ内に毒されていたようだ。
ただ、いい音です、とリノファは目を瞑って感極まっている。
「青い空と海」のスケルトンが多く集まったことで、色々と暴走――自分を解放しているな、と思う。
「……あれ? そういえば、そこの二人だけなのか? 他の『青い空と海』は?」
「今は二手に分かれて、それぞれ某のダンジョンと、洞窟のダンジョンを使いやすく整えている。まだまだ時間はかかりそうだが、某らは既に不死系であるし、時間がかかっても問題ない」
「確かに」
というか、某らって……確かに不死系で同系統だが、その言い方だとアブさんも「青い空と海」の一員みたいに聞こえる。
……あながち間違っていないかもしれないが。
それだけアブさんは「青い海と空」のことを気に入っている証拠だろう。
「……それじゃあ、アブさんはまだまだそっちにかかりきりか?」
「いや、もうある程度の目途は立ったからな。そろそろアルムと行動を共にしようと思っていたところであったから、丁度いい時にアルムが戻ってきたな。それで、戻ってきたということは……何かあったのか? これまでのアルムの行動の経緯から察するに、強そうな者でも居たか? 某の即死が遂に輝く時が来たか? ん?」
いや、もうそこら辺は終わったというか……。
「あっ、もう大丈夫です」
「なんか既に終わった感じ! あれ? もしかして、某、活躍の場を逃した?」
こくり、と頷いておく。
ただ、今振り返ってみると……バジリスク・特殊個体に即死……効いたのだろうか?
何もない時ならもしかすると……でも、黒い靄を漂わせていた状態なら通用しなかったような気がする。
防ぎそうなんだよな、黒い靄が。
「しかも、その感じ! 某が居ても役に立たなかった可能性が高そうな気がする!」
まあ、アブさんに物理的なモノは求められないし、バジリスク・特殊個体戦に居たとして役に立つかどうか考えると………………いけるんじゃないか?
少なくとも、俺がドラゴンローブで石化眼を防ぐより早く、透明化したアブさんが秘密裏に近寄って、「せいっ!」と目に正拳突きでもすれば一発なのは間違いない。
より簡単に石化眼を無力化できていたはずだ。
「いや、そんなことはないぞ。アブさんが居れば、もっと楽に勝てていたと思う」
「だろう!」
アブさんは嬉しそうに胸を張った。
まあ、アブさんと一緒に行動できるのは、俺も嬉しい。
それで、アブさんは俺が一人で行動していた時のことを知りたがったのだが、どうせなら纏めて話した方がいいと思い、母さんとリノファ、カーくん、それと水のリタさんを呼ぶ。
母さんを呼んだのは、母さんは今リノファ付きのメイドだからだ。
ここから外に出るのなら、共に行く必要があるからである。
揃ったところで、三柱の国・ラピスラに着いてからのことを話し始めた。
―――
話し終わると、一番の衝撃を受けたのは、やはり水のリタさんだった。
「そうか……あのまま……石化したままで……」
スケルトンだからそうだと断言はできないが、もし肉体があれば涙を流していたと思う。
色々な感情が混ざってはいるだろうが、やはり一番は歓喜だろう。
「ああ。それで、バジリスク・特殊個体もどうにかした。カーくんの鱗が使用されたドラゴンローブがあったからこそ、だけど」
むんっ! と筋肉を強調するカーくん。
……いや、筋肉ではなく鱗なんだが……まあ、いいか。
カーくんからすればどちらも同じなのだろう。
ついでに言うと、そんなモノ、某の即死魔法で一発だったな、とアブさんは頷いている。
それは多分効かなかったよ。
「それで、その石化を解除するのに、聖属性の力が必要なのですね?」
リノファの問いかけに、頷きを返す。
その時のリノファは、まさしく聖女、という雰囲気だった。
「ああ。そうらしい」
「では、私で力になれるのでしたら、協力させてください。ここの皆さまには非常に助けられています。その恩を少しでも返せるのでしたら、喜んで」
リノファは来る気満々だ。
母さんも、問題ないと頷く。
「それで、一つ確認なのですが……」
「何か?」
「そのダンジョンにスケルトンは出ましたか?」
……聖女でなくなるのが早過ぎる。
せめてもう少し耐えて欲しかった。
とりあえず、思い出す限り出なかった、と伝えて――そんな絶望の表情を浮かべなくても……。
「それで、アルムよ。そのブッくんとホーちゃんというのが、我に鍛えて欲しいと?」
「ああ。正確にはブッくんの方だな。ホーちゃんは……どうだろ? ……あんまりそういう雰囲気ではなかったな」
でもまあ、ホーちゃんが強くなればなるほど、ブッくんはより強くなろうとする――というのをわかっていそうだから、鍛錬に参加しそうではある。
「ふむ……ラビンに一声かけて、直接見てから判断するか」
……え? カーくんも行くの?




